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誘惑に負けた朝
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雪ちゃんのサプライズバースデーパーティー3日前の今日。
「祝日だけど、ヒマね~」
朝食を食べ終わった雪ちゃんが、ソファーに寝転んで足をバタバタさせている。
「そうだねぇ」
私は食後のコーヒーを飲みながら、ぼけ~っとテレビから流れる朝のワイドショーを見ていた。
そうだね、なんて言ったけど、実は私は雪ちゃんほどヒマと言うワケではなく、バースデーパーティーで出す料理の最終確認をハナちゃんにしてもらう為に今日の午後からハナちゃんを訪ねようと思っていた。
ただ、問題が一つ。
(雪ちゃんになんて言って外出しようか……)
ハナちゃんの所に遊びに行って来る!なんて言おうもんなら目に見えて不機嫌になっちゃうし、かと言ってショッピングして来る、なんて言っても「一緒に行く!」って言われちゃいそうだし。
(サプライズだから本当の事を言う訳にも行かないし)
ん~、と頭を悩ませていると、突然雪ちゃんが「あっ!!」と声を上げてビックリした。
「な、なに?どうしたの!?」
雪ちゃんに目をやると、見て!と言ってテレビを指さしている。
「え?」
画面を見ると、『先日△〇動物園で産まれたパンダの赤ちゃん、春蘭ちゃんの一般公開が今日から開始されました』と書いてあった。
「これ、ずっと待ってたのよ!やっと一般公開が開始されたのね!!△〇動物園だとそんなに遠くないし、今から行ってもお昼前には着くわ!江奈、行きましょうよ!!」
雪ちゃんは目をキラキラ輝かせて画面を食い入るように見ている。
「雪ちゃん、そんなにパンダ好きだったの?」
「ええ、動物の中で一番好きだわね。あのまん丸としたフォルムとぽてぽてした動きがもう堪らなくって!ね!今から行きましょう!」
ふんっ!と鼻息荒く迫られたけど、私は二つ返事で「良いよ」とは言えずにいた。
「今日か~……私もパンダの赤ちゃん見たいけど……見たいんだけど……」
なかなかいい返事を返さない事を不審に思ったのか、雪ちゃんが目を細めてジトっと見て来る。
「なによ。なんか用事でもあるの?まさか、男とデートとか言わないでしょうね?」
「ち、違うよ!デートする様な相手なんかいないって!雪ちゃんも知ってるでしょ!?」
見当はずれな事を言われて、私は首を高速で振った。
「じゃあ何よ?アタシとのデートを断るぐらい大事な用事なの?」
「う……いや~……」
デート、と言われると、かなり後ろ髪を引かれる。
ハナちゃんとは、別に約束をしていたワケじゃない。私が勝手に押しかけて教えてもらおうとしていただけで。だから雪ちゃんと動物園に行ってもなんら支障はないんだけど……。
(どうしよう。パーティーまで時間がないし、ハナちゃんに教えて貰うには今日、このタイミングしかないし……でも、私も雪ちゃんとデートしたい……デート……デート……)
「デートしたいっ!……あっ……」
つい、心の声が声になって飛び出してしまった。
口を手で塞いだけど、もう遅い。
私の声に出した心の声を聞いて、雪ちゃんが満面の笑みを浮かべている。
「よしっ!じゃあ決まりね!一時間後に出発よ!!」
「あ……いや……」
「なに着て行こうかしら。こないだ買ったおニューのワンピなんか良いかも!」
「雪ちゃ……」
私の言葉が届いていないのか、「はー、忙しい!」と言いながら、雪ちゃんがリビングを出て行ってしまった。
なんか、前にもこんな事があった気がする。ああなると、雪ちゃんは話を聞いてくれない。
「……いや、今のは誘惑に負けた私が悪い」
ガクッと項垂れた。
だって皆さん。好きな人からのデートのお誘いを断れます?
「いーや、断れないね。断れないよ……うん……」
自分の意志の弱さを無理やり肯定し、私も準備するべく部屋に戻った。
「祝日だけど、ヒマね~」
朝食を食べ終わった雪ちゃんが、ソファーに寝転んで足をバタバタさせている。
「そうだねぇ」
私は食後のコーヒーを飲みながら、ぼけ~っとテレビから流れる朝のワイドショーを見ていた。
そうだね、なんて言ったけど、実は私は雪ちゃんほどヒマと言うワケではなく、バースデーパーティーで出す料理の最終確認をハナちゃんにしてもらう為に今日の午後からハナちゃんを訪ねようと思っていた。
ただ、問題が一つ。
(雪ちゃんになんて言って外出しようか……)
ハナちゃんの所に遊びに行って来る!なんて言おうもんなら目に見えて不機嫌になっちゃうし、かと言ってショッピングして来る、なんて言っても「一緒に行く!」って言われちゃいそうだし。
(サプライズだから本当の事を言う訳にも行かないし)
ん~、と頭を悩ませていると、突然雪ちゃんが「あっ!!」と声を上げてビックリした。
「な、なに?どうしたの!?」
雪ちゃんに目をやると、見て!と言ってテレビを指さしている。
「え?」
画面を見ると、『先日△〇動物園で産まれたパンダの赤ちゃん、春蘭ちゃんの一般公開が今日から開始されました』と書いてあった。
「これ、ずっと待ってたのよ!やっと一般公開が開始されたのね!!△〇動物園だとそんなに遠くないし、今から行ってもお昼前には着くわ!江奈、行きましょうよ!!」
雪ちゃんは目をキラキラ輝かせて画面を食い入るように見ている。
「雪ちゃん、そんなにパンダ好きだったの?」
「ええ、動物の中で一番好きだわね。あのまん丸としたフォルムとぽてぽてした動きがもう堪らなくって!ね!今から行きましょう!」
ふんっ!と鼻息荒く迫られたけど、私は二つ返事で「良いよ」とは言えずにいた。
「今日か~……私もパンダの赤ちゃん見たいけど……見たいんだけど……」
なかなかいい返事を返さない事を不審に思ったのか、雪ちゃんが目を細めてジトっと見て来る。
「なによ。なんか用事でもあるの?まさか、男とデートとか言わないでしょうね?」
「ち、違うよ!デートする様な相手なんかいないって!雪ちゃんも知ってるでしょ!?」
見当はずれな事を言われて、私は首を高速で振った。
「じゃあ何よ?アタシとのデートを断るぐらい大事な用事なの?」
「う……いや~……」
デート、と言われると、かなり後ろ髪を引かれる。
ハナちゃんとは、別に約束をしていたワケじゃない。私が勝手に押しかけて教えてもらおうとしていただけで。だから雪ちゃんと動物園に行ってもなんら支障はないんだけど……。
(どうしよう。パーティーまで時間がないし、ハナちゃんに教えて貰うには今日、このタイミングしかないし……でも、私も雪ちゃんとデートしたい……デート……デート……)
「デートしたいっ!……あっ……」
つい、心の声が声になって飛び出してしまった。
口を手で塞いだけど、もう遅い。
私の声に出した心の声を聞いて、雪ちゃんが満面の笑みを浮かべている。
「よしっ!じゃあ決まりね!一時間後に出発よ!!」
「あ……いや……」
「なに着て行こうかしら。こないだ買ったおニューのワンピなんか良いかも!」
「雪ちゃ……」
私の言葉が届いていないのか、「はー、忙しい!」と言いながら、雪ちゃんがリビングを出て行ってしまった。
なんか、前にもこんな事があった気がする。ああなると、雪ちゃんは話を聞いてくれない。
「……いや、今のは誘惑に負けた私が悪い」
ガクッと項垂れた。
だって皆さん。好きな人からのデートのお誘いを断れます?
「いーや、断れないね。断れないよ……うん……」
自分の意志の弱さを無理やり肯定し、私も準備するべく部屋に戻った。
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