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車から下り、んーっと伸びをする。
後ろから荷物を下ろしている雪ちゃんを見ると、やっぱりボーッとしていた。
(……なんか、変)
サワサワっと風が吹く。
雪ちゃんの黒髪ロングストレートがその風になびいた瞬間、私は「あっ!」と声を上げた。
「雪ちゃん!」
「……へ?」
その声に、雪ちゃんが我に返る。
私は雪ちゃんに駆け寄り、ガバッと耳元に手を入れ、髪の毛をかき上げた。
「ちょ!江奈!?」
「やっぱり……」
今日ずっと……?
「な、何?!どうしたのよ江奈!」
さっきまでボーッとしていた雪ちゃんが、私の突然の行動に焦り始める。
「雪ちゃん。痣、隠れてないよ」
「……え?」
そう言われて雪ちゃんは、サイドミラーで確認する。
「あー……本当だ。なによ、ビックリしたじゃない」
それだけ呟いて、さっさと歩き出した。
(え、それだけ!?)
女装をする時は、必ずファンデーションで隠すって言っていたのに。
私は雪ちゃんを慌てて追い掛ける。
「大丈夫なの?」
「……まあ、大丈夫でしょ。ハナの所に行っただけだし」
エレベーターの扉が開き、乗り込む。
(本当かなぁ……)
ため息を吐いて、壁に寄りかかる。
と、なんだか視線を感じて顔を上げると雪ちゃんがじっと私を見ていた。
「な、何?どうした、の……?」
「江奈……」
迫って来た雪ちゃんに、トンッ――と世に言う『壁ドン』をされ、私は焦った。
「ゆ、雪ちゃん!?」
「動かないで」
雪ちゃんの顔がどんどん近付いて来る。
(うぎゃぁぁぁぁぁっ!)
ギュッ!と目を瞑ると、頭のてっぺん辺りの髪の毛をツンツンと引っ張られた。
「……?」
そっと目を開けると、タンポポの綿毛を親指と人差し指でつまんで目の前でフリフリと振っている雪ちゃん。
「付いてた♡」
「……………」
つまんだ綿毛を、フッと息を吹き掛けて飛ばす。
綿毛はクルクルと宙を舞い、静かに足元へ落ちる。
「……ま、紛らわしい事しないでよ!」
「紛らわしい?」
雪ちゃんは、キョトンとしていた。
「……なんでもない!」
フイッ!とそっぽを向く。
触られた頭のてっぺんを押さえた。雪ちゃんの触れた所が熱い。
いや、顔が火照っているせいかも。
エレベーターが、チンッと音を立てて扉が開く。
降りようと足を踏み出したその瞬間、キラッ!と嫌な光が目の端に写った気がして、私はガバッ!と光った方に振り向いた。
…………何もない。
気のせいだったんだろうか。
車の往来が激しい道路に面しているせいで、ミラーやらなにやらのキラキラ色んな物が反射しているのを見間違ったのかな?
「どうしたの~?」
先に部屋に入っていた雪ちゃんが、玄関から顔だけを覗かせている。
「あ…なんでもない……」
そう言って、私も部屋へと入る。
気になったけど、変に心配をかけたくなくて私は何でもない事にした。
でもこの時にちゃんと警戒しておけば、あんな事件が起こる事はなかったんだ――。
後ろから荷物を下ろしている雪ちゃんを見ると、やっぱりボーッとしていた。
(……なんか、変)
サワサワっと風が吹く。
雪ちゃんの黒髪ロングストレートがその風になびいた瞬間、私は「あっ!」と声を上げた。
「雪ちゃん!」
「……へ?」
その声に、雪ちゃんが我に返る。
私は雪ちゃんに駆け寄り、ガバッと耳元に手を入れ、髪の毛をかき上げた。
「ちょ!江奈!?」
「やっぱり……」
今日ずっと……?
「な、何?!どうしたのよ江奈!」
さっきまでボーッとしていた雪ちゃんが、私の突然の行動に焦り始める。
「雪ちゃん。痣、隠れてないよ」
「……え?」
そう言われて雪ちゃんは、サイドミラーで確認する。
「あー……本当だ。なによ、ビックリしたじゃない」
それだけ呟いて、さっさと歩き出した。
(え、それだけ!?)
女装をする時は、必ずファンデーションで隠すって言っていたのに。
私は雪ちゃんを慌てて追い掛ける。
「大丈夫なの?」
「……まあ、大丈夫でしょ。ハナの所に行っただけだし」
エレベーターの扉が開き、乗り込む。
(本当かなぁ……)
ため息を吐いて、壁に寄りかかる。
と、なんだか視線を感じて顔を上げると雪ちゃんがじっと私を見ていた。
「な、何?どうした、の……?」
「江奈……」
迫って来た雪ちゃんに、トンッ――と世に言う『壁ドン』をされ、私は焦った。
「ゆ、雪ちゃん!?」
「動かないで」
雪ちゃんの顔がどんどん近付いて来る。
(うぎゃぁぁぁぁぁっ!)
ギュッ!と目を瞑ると、頭のてっぺん辺りの髪の毛をツンツンと引っ張られた。
「……?」
そっと目を開けると、タンポポの綿毛を親指と人差し指でつまんで目の前でフリフリと振っている雪ちゃん。
「付いてた♡」
「……………」
つまんだ綿毛を、フッと息を吹き掛けて飛ばす。
綿毛はクルクルと宙を舞い、静かに足元へ落ちる。
「……ま、紛らわしい事しないでよ!」
「紛らわしい?」
雪ちゃんは、キョトンとしていた。
「……なんでもない!」
フイッ!とそっぽを向く。
触られた頭のてっぺんを押さえた。雪ちゃんの触れた所が熱い。
いや、顔が火照っているせいかも。
エレベーターが、チンッと音を立てて扉が開く。
降りようと足を踏み出したその瞬間、キラッ!と嫌な光が目の端に写った気がして、私はガバッ!と光った方に振り向いた。
…………何もない。
気のせいだったんだろうか。
車の往来が激しい道路に面しているせいで、ミラーやらなにやらのキラキラ色んな物が反射しているのを見間違ったのかな?
「どうしたの~?」
先に部屋に入っていた雪ちゃんが、玄関から顔だけを覗かせている。
「あ…なんでもない……」
そう言って、私も部屋へと入る。
気になったけど、変に心配をかけたくなくて私は何でもない事にした。
でもこの時にちゃんと警戒しておけば、あんな事件が起こる事はなかったんだ――。
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