58 / 99
本人には悟られない様に注意深く➁
しおりを挟む
「いらっしゃーい!待ってたわよん♡……あら。雪ちゃんも居るのね」
私を見てニコニコ笑顔でこちらへかけ寄って来たと思ったら、後から入って来た雪ちゃんの顔を見るなりハナちゃんはイヤそうな顔をする。
「居ちゃ悪い?」
「ええ、悪いわね」
二人の間でバチバチと火花が散る。
最近、顔を合わせるとすぐこれだ。
私は気付かれない様に、小さく溜め息を吐く。
「ハーナちゃん。今日は宜しくお願いします。これ、お土産です」
私は火花を散らしているハナちゃんの目の前に、昨夜作ったマフィンを差し出した。
「あらー♡ありがとう!美味しそうねぇ!」
ハナちゃんの目が、パァァッと輝く。
「ささっ!江奈っちはこっちね♡」
機嫌が直ったのか、私は声を弾ませたハナちゃんに背中を押されて厨房へと入った。
「雪ちゃんは適当に座ってなさい。コーヒー位なら出してあげるわ」
ハナちゃんが雪ちゃんに向けて、手を「シッシ!」と振った。
(ハナちゃん。犬じゃないんだから……)
しかし雪ちゃんは特に気にする様子もなく、いつもとは違う、私達が作業しているのが見える位置の厨房の真ん前のカウンターに座った。
ハナちゃんがそれを見て、「ホラ」と少しぶっきら棒に雪ちゃんの前にコーヒーを置く。
「じゃあ、始めましょうか!」
「はい!ハナちゃん先生、宜しくお願いします!」
私はハナちゃんに向かってお辞儀をした。
「あらやだん、『ハナちゃん先生』だなんて~♡」
照れながら体をクネクネさせる。
それを見ていた雪ちゃんが、今までの仕返しの様に「気持ち悪いわよ」とコーヒーをすすりながら言った。
「ぬぁんですってぇ~!?」
ハナちゃんのこめかみがピクピクしている。
「雪ちゃん!ハナちゃんに失礼でしょ!?」
私は雪ちゃんを一喝した。
すると雪ちゃんは、フンッ!と頬杖を付いてそっぽを向く。
この二人は仲が良いんだか悪いんだかホント分かんない……。
「江奈っち、こんなヤツ放って置いて早く始めましょう!」
「はい!」
私は、メモを片手に気合いを入れる。
「まずは……」
ハナちゃん先生の『スコーン作り教室』が始まった。
**********
「ん~♡良い香り♡」
私はオーブンの前で深呼吸をする。
目の前には、香ばしくぷっくり膨れたスコーンが、綺麗に整列していた。
「もう少しで焼けるわね。焼き立てをみんなで食べましょうか」
「はい!楽しみー♡」
あ、想像しただけでよたれが……。
おもむろに雪ちゃんが立ち上がる。
「雪ちゃん?」
「その前に、一服して来るわ」
ここは全面禁煙だから、タバコを持って外へと行ってしまった。
雪ちゃんが出て行くのをぼーっと眺めていたら、「仲良くやってるみたいね」とハナちゃんに言われて振り返った。
「え?」
「雪ちゃんと」
「あぁ……」
私は椅子に腰掛け、足をブラブラさせる。
「どうしたの?浮かない顔して」
「いえ……なんでも……」
本当は、なんでもなくなんてない。
私を見てニコニコ笑顔でこちらへかけ寄って来たと思ったら、後から入って来た雪ちゃんの顔を見るなりハナちゃんはイヤそうな顔をする。
「居ちゃ悪い?」
「ええ、悪いわね」
二人の間でバチバチと火花が散る。
最近、顔を合わせるとすぐこれだ。
私は気付かれない様に、小さく溜め息を吐く。
「ハーナちゃん。今日は宜しくお願いします。これ、お土産です」
私は火花を散らしているハナちゃんの目の前に、昨夜作ったマフィンを差し出した。
「あらー♡ありがとう!美味しそうねぇ!」
ハナちゃんの目が、パァァッと輝く。
「ささっ!江奈っちはこっちね♡」
機嫌が直ったのか、私は声を弾ませたハナちゃんに背中を押されて厨房へと入った。
「雪ちゃんは適当に座ってなさい。コーヒー位なら出してあげるわ」
ハナちゃんが雪ちゃんに向けて、手を「シッシ!」と振った。
(ハナちゃん。犬じゃないんだから……)
しかし雪ちゃんは特に気にする様子もなく、いつもとは違う、私達が作業しているのが見える位置の厨房の真ん前のカウンターに座った。
ハナちゃんがそれを見て、「ホラ」と少しぶっきら棒に雪ちゃんの前にコーヒーを置く。
「じゃあ、始めましょうか!」
「はい!ハナちゃん先生、宜しくお願いします!」
私はハナちゃんに向かってお辞儀をした。
「あらやだん、『ハナちゃん先生』だなんて~♡」
照れながら体をクネクネさせる。
それを見ていた雪ちゃんが、今までの仕返しの様に「気持ち悪いわよ」とコーヒーをすすりながら言った。
「ぬぁんですってぇ~!?」
ハナちゃんのこめかみがピクピクしている。
「雪ちゃん!ハナちゃんに失礼でしょ!?」
私は雪ちゃんを一喝した。
すると雪ちゃんは、フンッ!と頬杖を付いてそっぽを向く。
この二人は仲が良いんだか悪いんだかホント分かんない……。
「江奈っち、こんなヤツ放って置いて早く始めましょう!」
「はい!」
私は、メモを片手に気合いを入れる。
「まずは……」
ハナちゃん先生の『スコーン作り教室』が始まった。
**********
「ん~♡良い香り♡」
私はオーブンの前で深呼吸をする。
目の前には、香ばしくぷっくり膨れたスコーンが、綺麗に整列していた。
「もう少しで焼けるわね。焼き立てをみんなで食べましょうか」
「はい!楽しみー♡」
あ、想像しただけでよたれが……。
おもむろに雪ちゃんが立ち上がる。
「雪ちゃん?」
「その前に、一服して来るわ」
ここは全面禁煙だから、タバコを持って外へと行ってしまった。
雪ちゃんが出て行くのをぼーっと眺めていたら、「仲良くやってるみたいね」とハナちゃんに言われて振り返った。
「え?」
「雪ちゃんと」
「あぁ……」
私は椅子に腰掛け、足をブラブラさせる。
「どうしたの?浮かない顔して」
「いえ……なんでも……」
本当は、なんでもなくなんてない。
10
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
クリスマスに咲くバラ
篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
推活♡指南〜秘密持ちVtuberはスパダリ社長の溺愛にほだされる〜
湊未来
恋愛
「同じファンとして、推し活に協力してくれ!」
「はっ?」
突然呼び出された社長室。総務課の地味メガネこと『清瀬穂花(きよせほのか)』は、困惑していた。今朝落とした自分のマスコットを握りしめ、頭を下げる美丈夫『一色颯真(いっしきそうま)』からの突然の申し出に。
しかも、彼は穂花の分身『Vチューバー花音』のコアなファンだった。
モデル顔負けのイケメン社長がヲタクで、自分のファン!?
素性がバレる訳にはいかない。絶対に……
自分の分身であるVチューバーを推すファンに、推し活指南しなければならなくなった地味メガネOLと、並々ならぬ愛を『推し』に注ぐイケメンヲタク社長とのハートフルラブコメディ。
果たして、イケメンヲタク社長は無事に『推し』を手に入れる事が出来るのか。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる