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本人には悟られない様に注意深く➁

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「いらっしゃーい!待ってたわよん♡……あら。雪ちゃんも居るのね」

私を見てニコニコ笑顔でこちらへかけ寄って来たと思ったら、後から入って来た雪ちゃんの顔を見るなりハナちゃんはイヤそうな顔をする。

「居ちゃ悪い?」

「ええ、悪いわね」

二人の間でバチバチと火花が散る。

最近、顔を合わせるとすぐこれだ。

私は気付かれない様に、小さく溜め息を吐く。

「ハーナちゃん。今日は宜しくお願いします。これ、お土産です」

私は火花を散らしているハナちゃんの目の前に、昨夜作ったマフィンを差し出した。

「あらー♡ありがとう!美味しそうねぇ!」

ハナちゃんの目が、パァァッと輝く。

「ささっ!江奈っちはこっちね♡」

機嫌が直ったのか、私は声を弾ませたハナちゃんに背中を押されて厨房へと入った。

「雪ちゃんは適当に座ってなさい。コーヒー位なら出してあげるわ」

ハナちゃんが雪ちゃんに向けて、手を「シッシ!」と振った。

(ハナちゃん。犬じゃないんだから……)

しかし雪ちゃんは特に気にする様子もなく、いつもとは違う、私達が作業しているのが見える位置の厨房の真ん前のカウンターに座った。

ハナちゃんがそれを見て、「ホラ」と少しぶっきら棒に雪ちゃんの前にコーヒーを置く。

「じゃあ、始めましょうか!」

「はい!ハナちゃん先生、宜しくお願いします!」

私はハナちゃんに向かってお辞儀をした。

「あらやだん、『ハナちゃん先生』だなんて~♡」

照れながら体をクネクネさせる。

それを見ていた雪ちゃんが、今までの仕返しの様に「気持ち悪いわよ」とコーヒーをすすりながら言った。

「ぬぁんですってぇ~!?」

ハナちゃんのこめかみがピクピクしている。

「雪ちゃん!ハナちゃんに失礼でしょ!?」

私は雪ちゃんを一喝した。

すると雪ちゃんは、フンッ!と頬杖を付いてそっぽを向く。

この二人は仲が良いんだか悪いんだかホント分かんない……。

「江奈っち、こんなヤツ放って置いて早く始めましょう!」

「はい!」

私は、メモを片手に気合いを入れる。

「まずは……」

ハナちゃん先生の『スコーン作り教室』が始まった。



**********



「ん~♡良い香り♡」

私はオーブンの前で深呼吸をする。

目の前には、香ばしくぷっくり膨れたスコーンが、綺麗に整列していた。

「もう少しで焼けるわね。焼き立てをみんなで食べましょうか」

「はい!楽しみー♡」

あ、想像しただけでよたれが……。

おもむろに雪ちゃんが立ち上がる。

「雪ちゃん?」

「その前に、一服して来るわ」

ここは全面禁煙だから、タバコを持って外へと行ってしまった。

雪ちゃんが出て行くのをぼーっと眺めていたら、「仲良くやってるみたいね」とハナちゃんに言われて振り返った。

「え?」

「雪ちゃんと」

「あぁ……」

私は椅子に腰掛け、足をブラブラさせる。

「どうしたの?浮かない顔して」

「いえ……なんでも……」

本当は、なんでもなくなんてない。

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