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アルヴァ戦役33
しおりを挟むそもそも……そもそもの話だ。
魔王ヴェルムドールという存在自体に、まず違和感があった。
魔族とは、他の生き物に比べると格段に強い。
それは魔力だけではなく肉体的にもそうで、大概の魔族はその力のままに暴れまわる。
そこから多少ものを考えられる者が魔力を生かすために魔法などを使う道に進み、あるいは技術を磨く方向に……かと思えば「より強い身体」を求める者もいるし、全部を極めようとする者もいる。
しかし、とにかく最初に「強い肉体」があるのだ。
では、その王たる「魔王」はどうか。
初代魔王であるダグラスは肉体的にも強かったようだが、それは「魔族の王」という程無敵だっただろうか。
二代目魔王であるグラムフィアはどうか。魔法解除のような魔法を研究しているところを見ると、ヴェルムドールと同じだったように見受けられる。
ならば、ヴェルムドールはどうか。
答えは簡単だ。魔族の王であるといっても、肉体的にはヴェルムドールの身体能力は飛びぬけて高いわけではない。
勿論魔族としては極めて高水準だし、そこらの魔族が束になってかかってきても一蹴はできるだろう。
だが、ヴェルムドールは自分の本質が其処に無い事を初めから知っていた。
ヴェルムドールが最初に極めたのは「魔法」であった。
それは其処に自分の本質があるように思ったからに他ならず、意図的に剣の腕を磨こうなどと思ったのはつい最近の話だ。
魔法使いであるから当然といえば当然なのだが、逆に言えば何故「魔法使い」なのか。
魔族が理知的なものを崇める傾向があるというならともかく「困ったら殴り合って解決しようぜ」が基本の魔族にそれが通じるとはとても思えない。
知性と理性による解決はそれの有効性を信じる者にしか通用せず、そういう意味で「魔法剣士」ならばともかく「魔法使い」というものが魔王に向いているとはいえないだろう。
では、何故魔神はヴェルムドールをそう作ったのか?
何故ラクターに勝る肉体を持つ超生物としてヴェルムドールを作らなかったのか?
その答えは、非常に簡単だ。
「強い肉体を持つ事が魔王の必須条件ではない」からである。
その裏付けは「魔王が神の卵である」事実によってなされた。
世界の魔力の流れを調整する神々は職業でいえば「魔法使い」にこそ近く、そこに肉体の強靭さは必須条件ではない。
だがそうなると、新しい疑問が生まれる。
何故魔王は「魔王」なのかである。
職業魔王ではなく種族魔王たるヴェルムドールが、そうである理由は何なのか?
ヴェルムドールが魔族の王であるのは確か故にそれで納得できないことはないのだが、どうにも違和感が付き纏ってきた。
魔族の王。
それが「魔王」の意味という事で、本当に良いのか?
ダグラスはこう言った。自分の存在を見つめ直せ。「魔王」とは何かを考えろ、と。
魔王。魔王とは何か?
いや、違う。自分は如何なる存在であるのか。
どの魔族も敵わぬほどの魔力。
命の種に接続する力。
魔族を創る力。
どれも「魔族の王」と呼ぶには足るものかもしれない。
神の卵と呼ぶにも足るだろう。
だがきっと、そういうことではない。
ならば、何処に答えがあるのか?
ヴェルムドール自身に答えが無いならば、その先はどうか。
ヴェルムドールを造った魔神。
あの正体不明の存在は如何なるものなのか?
まず、イチカの件を考えても命の流れに干渉する力を持っているのは確実だ。
ヴェルムドールの事を考えれば、容易く「魔王」を作り出せるほどに魂の取り扱いにも長けている。
……そして、世界に現れるだけで「世界の魔力を大きく変化させる」存在である。
その一方で、イチカに気配すら感じさせずに現れる。
この事実を踏まえた上で考えられるのは「魔力が恐ろしく高く、魔力の取り扱いに精通している」ということ。
そして、ヴェルムドールと同様の事をより大きな規模で出来るという事でもある。
これは逆に言えば、魔王は魔神の縮小版であるということでもある。
そして「魔王が何故魔王なのか」という疑問は「魔神は何故魔神なのか」という疑問と同じであると理解することができる。
……ならば、魔神とは何か。
まずは、仮説。あれは魔族の神である。
答えは否だ。
ダグラスから聞いた話を考えれば、そもそも魔族の発生自体が魔神によるものではない。
いや、究極的に言えば魔神の影響ではあるのだろうが……魔王の件を除けば魔神が魔族に肩入れしているようには見えない。
そもそもアレ自身、ヴェルムドールに「本来は誰の味方でもない」と明言してしまっている。
よって、「魔神が魔族の神である」という仮説は否定される。
勿論魔王を肩入れの証拠であると強弁することもできるが……一度でも魔神と話してみれば、そんなものは「棚に商品が無くなったから補充した」ことが「その商品を愛している証拠だ」と言っているのと同じ愚かさだと気付いてしまう。
ならば、魔神とは何か。
本人の言葉を借りれば「自分で名乗ったわけではない」らしい。
つまり「誰かにそう呼ばれた」ということである。
誰が呼んだのか。
どんな意味を込めたのか。
それがつまり、魔神というものの正体に近づく最初の一歩なのだ。
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