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アルヴァ戦役15

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「おおおおお!」
「遅れをとるな! 突撃、突撃ィィィ!」

 数とは力であり、力あるものの戦いとは即ち蹂躙である。
 国家において騎士という治安維持という形での支配階級である彼等はそれを充分すぎる程に理解しており、平原を揺るがす数の連合軍が負けるはずはないという自信が弱気を塗り潰していた。
 勇者トールという存在はそれに拍車をかけており、寝物語に勇者伝説を聞いて育った彼等は今まさに、勇者パーティが如き気分であったのだ。
 士気が戦果に直結するというように、その士気は多大な戦果をあげるに充分すぎるものであった。
 たとえその姿が我先に手柄を求める飢狼の群れのようなものと変わりなかったとしても、その高い士気は確かに彼等自身の力をも僅かに底上げする役にもたっていたのだから。
 
 ちなみに当然ながら、割れた空間の先頭に立つのは別働隊の面々であり……真っ先に飛び出した闘国の面々を先頭に別働隊が最初に極彩色の空間に突入する。
 だが……彼等を含め、突入した面々はその直後に呆然と立ち止まることになる。

「こ、これは……」

 そこに広がっていたのは、外から見えたとおりの極彩色の空間。
 だが……そこは、予想を遥かに超えて広大な空間だったのだ。
 果ての見えない極彩色の空。
 奥行きも横幅も無限に見える極彩色の空間。
 立つ場所も恐らくは地面なのであろうが、やはり極彩色のそれは空中に立っているかのような不安定な感覚を覚えさせる。

「ええい、怯むな! こんな悪趣味な空間などこけおどし! 見ろ、アルヴァ共は本拠地に突入されたというのに全く出てこない……臆したとみえる!」

 中小国のうちの一国の指揮官が叫び、騎士達を叱咤する。
 確かに、この場にアルヴァの姿は無く……いや、予想していたようなモノがない。
 如何にも邪悪で巨大で、この世で最悪の悪が潜んでいそうな邪悪な城とか。
 空に浮かぶ謎の神殿とか。
 そういう如何にも伝説じみたものなんて、何処にも無い。
 ただ、広くて不気味なだけ。
 こんな不安ばかりが増大するような空間に放り込まれ、熱狂すら奪われて。
 目的のものすら見つからない状況で、どうしたらよいのか。

「ど、どうすればよいのだ」
「何処かに敵の本拠地があるのでは?」
「いやしかし、こんな広い空間でどう探せというのだ」

 連合軍の中に、そんなざわめきが広がり始め……しかし、一人の呆然としたような声でその全ては掻き消える。

「お、おい。あれ……」

 その騎士の指の示す先にあるのは、こちらに向かってくる何か。
 巨大な岩塊のようだ、とある者は思った。
 サイラス帝国の誇る大型船のようだ、とある者は思った。
 ある者は、表現する言葉すら思い浮かばなかった。
 見たままを表現するならば、浮遊する島。
 城を、街をその上に乗せ大地から解き放たれた、一つの国。
 そんなモノがこの極彩色の空間の果てから、ゆっくりとやってくる。
 ……だが、それは「なんとか視認できる」という位置で静止し、それ以上動く気配が無くなってしまう。

「ここまで来いってことか……」

 静寂の中で響いた呟きに、人類の騎士達の目がその呟きの主へと集まる。
 それはこの連合軍の総指揮官であり、「新たなる勇者」のトールであった。
 トールは自分に視線が集まっていることに気付くと、剣を高く掲げ遥か向こうの「アルヴァの本拠地」を指す。

「皆、恐れることはない! 俺達は決着をつける為に此処に来たんだ!」
「それはそれは。勇ましいことですな」
「……上っ!? そんな、いつの間に!」

 トールの……連合軍の上空。其処には、極彩色の空を黒に染めるかのようなアルヴァの一団が浮遊していた。
 先程まで居なかったはずだし、魔族が転移する際に現れるような転移光もなかった。
 冷静にそれを見つめていたのはヴェルムドール達ザダーク王国軍くらいのもので、それ以外は突然の敵の出現に浮き足立ってしまっている。

「ですが、この場にやってきてしまった以上貴方達に与えられるのは死という平等たる……っ!」

 気取った様子で喋り続けている一体のアルヴァに、赤い矢が刺さり爆発を起こす。

「申し訳ありませんが、長話に付き合うほど暇ではありません……レナティア、次はもっと力を込めます」

 その矢を放ったのは、空に向けて赤銅色の弓を構えるルーティだ。
 矢を番えた様子もないというのに彼女が弦を引けば、そこにはまるで最初から矢が番えられていたかのように赤い矢が姿を現す。

「吹き飛びなさい」

 空に向けて放たれた赤い矢はアルヴァの一体に突き刺さり、周囲のアルヴァをも巻き込むような爆発を起こしていく。

「フッ……お前はこちら向きだよ、ルーティ」

 その様子を見ていたファイネルは楽しそうに笑うと、拳を握り叫ぶ。

「魔王軍全軍、私に続け……電撃砲ボルテニクス!」

 放たれた極太の雷が天を昇り、射線上のアルヴァを砕いていく。

「くっ、俺だって……! 豪炎撃インフェルノ!」

 続けて放たれたトールの巨大な炎が数体のアルヴァを焼き尽くし、それでは終わらぬとばかりに矢継ぎ早にトールは魔法を空に向けて放っていく。
 その分かりやすく派手な蹂躙劇に、早くも気圧されていた各国の騎士団が息を吹き返す。

「ま、魔法だ! 魔法騎士は空に魔法を放て! アルヴァ共を叩き落すんだ!」
「弓隊、構え! 連中をここまで引きずりおろしてやれ!」

 なし崩しに始まっていくアルヴァとの遭遇戦。
 本隊が本格的な戦闘に入ったのを確認すると、ルーティは空から視線を外してヴェルムドール達の近くへと駆け寄ってきた。
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