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世界会議の前に12

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「は、はははっ! 怪我人の癖にたいした力ですね!」
「傷一つでどうにかなるほどヤワではない。 あまりナメるなよ」
「そちらこそ……ワタクシをナメすぎではありませんかねっ!」

 追撃するべく突進してきていたアインを、ゼグラノギアが前方に生み出した闇色の弾が迎撃する。
 だが、そんなものをおとなしく喰らうアインではない。

光の魔法障壁マジックガード・ライト!」

 展開された光の魔法障壁マジックガード・ライトが闇の弾を弾き散らし……だが、同時に四方八方から襲い掛かってきたアルヴァ達がアインを押さえ込む。

「がっ……!」
「ふ、ふ……はははっ! 計算通り! こんな簡単にハマるとは……はははっ!」

 確かに、傷のせいで周りに注意を割く余裕が消えていたのもあるだろう。
 闇の弾を防ぐ事に意識がいきすぎていたこともあるだろう。
 だが一番は、アインの油断だ。
 たかがアルヴァという、アインの油断が招いたものだ。

「貴方の事も知っていますよ、アイン! カインとかいう男の側に居る魔人だとか! ふふふっ、ザダーク王国の魔族なのでしょう? まさか貴方が釣れるとは思いもしませんでしたが……少しばかり面白い余興を思いつきました!」
「何をくだらん事を……! 貴様に利用されるくらいならば、この場で貴様ごと全てを焼き尽くしてくれる!」

 アインが叫ぶと、ゼグラノギアは何が面白いのか大声で笑い出す。

「ははは……ははははっ! まあ、そう怒らないで! 本当に面白いんですよ……それ!」

 ゼグラノギア達が翼を広げ空へ飛び立つと、その直後にアインに向けて何かが高速で突っ込んでくる。
 その巨体の構えた剣をアインは寸前で回避し、転がるようにして下がる。

「……そうか。殺せなかったか」

 そこに居たのは、キース。
 いや、「キースだったもの」だろうか。
 恐らくはキースは殺され、アルヴァに憑依されたのだろう。

「……殺したさ」
「何?」
「殺した。俺も死んだ。そして、「俺」になった」

 相打ちだったということだろう。
 よく見れば、キースの剣には微かに血がついている。
 ……そしてキースは、アルヴァに融合されたのだろう。

「融合することが、これ程己の自我を揺らすとは思っても居なかった。俺は今、叫びだしたいほどに悲しい。こんな状況を作り出したあの方に牙を剥きたいという思いさえある」

 アインは、答えない。
 全ては戯言だ。そうしたいなら、そうすればいい。
 それが出来ないからこいつは今、此処にいるのだ。

「だが、この場でお前を殺してレンファを持ち帰れば……もう一度、融合が出来る。そうすれば、俺はもう一度レンファに会える」
「……それはレンファではない。そしてお前も、キースではない」
「そうだ。だが、それでいい。レンファの声も姿も消えてしまうよりは、ずっといい。俺もキースではないが、今は俺がキースだ。だから、強くそう思う。俺は……レンファが欲しい」

 それはあるいは、本物のキースの本心であったのだろうか。
 今となっては知る術も無いし、アインには関係のない事だ。
 だから、アインはこう告げる。

「なるほど、悪趣味な余興だ。これで私が情に流され怯むとでも思ったか」
「余興か。なるほどな、確かに悪趣味だ。心配するな、あの野郎はこの後で俺が殺しといてやる」
「ふざけるなよ。こうなったのは残念だが、今のお前はアルヴァだ。逃しはしない」
「そうかい……!」

 それで全ての話は終わり。
 キースの盾がアインの眼前に突き出され、アインはそれを難なく回避する。
 だが、その時には盾の影に隠すように構えられていた剣がアインを横薙ぎにすべく振るわれる。
 だが、その剣を腕ごとアインの短剣が斬り飛ばす。

「ぐあっ……!」

 僅かな黒い霧と鮮血の噴き出す傷口を押さえることもせず、キースは残った腕に持つ盾を振るうべく腕に力を込める。
 だがキースがそうするよりも前に、アインの短剣はキースの喉元まで届いている。
 勝てない。
 そう悟った瞬間、キースは小さく笑みを浮かべた。

「……レンファ」

 少しだけ悔しそうにそう呟いて、キースの首が宙を舞う。
 そうして、決着がついた直後。

「キィィィィィス!」

 遠くから……具体的には、土砂崩れで埋まった道の方向から、誰かが走ってくる。
 それは、黒髪黒目の青年……トール。
 必死の形相で走ってくるトールは、血に塗れた短剣を持つアインを見ると、その顔を怒りに染める。

「お前……お前ぇぇぇ!!」

 抜き放った剣に無色の輝きが宿り、トールは剣を横薙ぎにするように構える。
 あの距離からでは、斬撃を放つには遠すぎる。
 怒りで何も見えなくなっているのだろう……ならば今は、言葉は通じまい。
 とはいえ、逃げの一手というのもこちらの立場を悪くする。
 余裕ぶって上空にいるアルヴァの群れを視界に入れさせるのが一番冷静にさせる手段だろうか。
 そう考えて、アインは上を見ろと叫ぼうとし……しかし、唐突に「その可能性」に思い至る。

「まさか……っ!」
「魔剣技ッ!」

 トールの叫びと共に、剣の纏う魔力が肥大化する。
 それは、アインに明確な死の予感を感じさせ……しかし、すでに回避も間に合わないことを悟る。

「ソウル……クラッシャーッ!!」

 ガオン、という破滅の音が響く。
 空気を切り裂き超高速で迫る不可視の刃が、スローモーションのようにアインには見えて。

「シャイニングブレェェェェドォォォッ!」

 空から放たれた巨大な光の刃が、「それ」を正面から打ち砕いたのを、見た。

 
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