上 下
579 / 681
連載

世界会議の前に8

しおりを挟む
書籍版7巻も書店様に並び始めました。皆様のおかげでここまでこれましたこと、厚く御礼申し上げます。
********************************************

「ギ、邪魔を……スルナアアア!」

 ゴブリンアサシン達は短剣でナイフを弾き、そのまま一気に突っ込んでこようとする。
 まあ、それも当然の行動だろう。
 油断さえしなければ、ナイフはただのナイフ……物理防御アタックガードで弾けてしまう程度のものでしかない。
 そしてナイフの数とて、弾ききれない程の数というわけでもない。
 だから、弾いた。
 冷静に対処すればそれを可能とする程度の技量が、ゴブリンアサシン達にはある。
 弾いて、目の前の脅威であるアインを排除すべく走り出す。
 相手の実力は未知数だが、隙を突くことだって不可能ではないはず。
 そう「冷静」に思考して。

「隙だらけじゃねえか。ナメてんのか」

 意識からすっかり消えてしまっていたキースの剣に、一体のゴブリンアサシンが胴を横薙ぎにされた。

「ガ……ッ!」

 上下に真っ二つになった自分の身体を見て驚愕の表情のまま黒い霧になって消えていく仲間の姿を見てキースのことを思い出したゴブリンアサシンは即座に体勢を変えてキースに襲い掛かろうとする。
 だが、それも実行するのは不可能だ。
 
「今だ!」
「はいっ!」

 素早く地面に転がったキースの背後から、一本のナイフを投擲するレンファの姿があったからだ。
 それは先程アインが投げたナイフであり……ゴブリンアサシンが黒い霧となって消滅したことで、地面に転がっていたものだ。
 アインの手品じみた投擲とは違うが、ゴブリンアサシンの急所を的確に狙う投擲にゴブリンアサシンの足は止まり……その隙にキースが、勢い良く起き上がり走り出す。

「おぅらああああ!」
「ギッ……!」

 凄まじい勢いで振るわれるキースの剣をゴブリンアサシンは短剣で防ごうとし……だが、防ぎきれない。
 押し負け弾かれ、ならば避けようという努力も空しくゴブリンアサシンの腕が宙を舞う。
 だが、悲鳴をあげる暇も無い。すでにキースの更なる斬撃は、ゴブリンアサシンの首を斬り飛ばしていたからだ。
 驚愕の表情のままゴブリンアサシンは黒い霧となって消え……場には静寂のみが残った。

「……さて、と」

 キースは剣を鞘に収めるでもなく、地面に突き刺すようにしてアインへと視線を送る。

「助かったぜ、姉ちゃん。俺はキースっつー……まあ、何処にでもいる冒険者だ」
「そうか。だが私に挨拶は無用だ。さっさとお前達の目的を果たしにいくといい」
「おいおい、つれねえなあ。共闘した仲じゃねえかよ」

 仕方ない奴だとでも言いたげに笑うキースに、アインは薄く笑う。

「くくっ、良く言う。その割には警戒を解いていないだろう? 私を疑っているんじゃないか?」
「……そりゃあお互い様だろう。姉ちゃん、アンタ俺が踏み込んできても即座に動けるようにしてるだろ? 俺を信用してねえんだろ」

 互いに笑顔で視線を交し合うアインとキース。
 だが、パタパタと走ってきたレンファの声がそのにらみ合いを中断させる。

「お、お、お姉さん! ナナナナイフ拾ってき、ました!」

 ナナナナイフと言われて一瞬訝しげな顔をしたアインは、すぐにナイフと言おうとしたのをどもっているのだと気付きああ、と頷く。

「そうか。投げた時点で無くなった物と考えているからな……気にする必要はなかったんだが」
「え、で、でもでも! こんなに綺麗なナイフですのに……っ」

 心の底からそう思っているのがよく分かるレンファの様子に、アインは表情を少しだけ緩める。
 警戒は解かないままだが、レンファの行動に悪意が無いのはよく分かったからだ。

「そうか。ならば、ソレはやろう」
「えっ」
「さっきも言ったが、投げた時点で無くなったものと考えている。拾ったならば、お前のものだ」

 アインにキッパリとそう言われ、レンファは戸惑いながらも嬉しそうにバッグにナイフを仕舞っていく。
 その様子を見ていたアインとキースは顔を見合わせ、やがて同時に肩をすくめて見せる。

「ああ、やめだやめだ。悪ぃな、姉ちゃん。助けて貰っといてこれじゃあ、ゴブリンと変わんねぇやな」
「気にするな。敵か味方か分からん相手に警戒を解くような素人よりは安心できる」
「ハハッ、違いない」

 カラカラと笑ったキースは表情を引き締め、剣を鞘に収める。

「改めて聞くが、姉ちゃんは名前を教えてくれる気はねえのか?」
「アインだ。聖アルトリス王国のエリア王女殿の護衛……の仲間として来ている」

 それを聞いて、キースは一気に肩から力が抜けたような顔になる。
 まあ、当然だろう。聖アルトリス王国といえばキースの今の立ち位置と同じであり……アインも当然、それを狙って「聖アルトリス王国」という単語を最初に持ってきている。

「なんでえ……お仲間かよ。そうなら最初に言ってくれりゃあ……っておい」
「なんだ?」
「エリア王女って……第二王女だろ? 聖アルトリス王国の代表は……そうだってことか?」
「そういうことになる。まあ、実際には大臣も来るがな」
「マジかよ……」

 頭を抱えるキースの横で、レンファがよく分からないといった顔でアインとキースの間を交互に見ていた。
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

神々の娯楽に巻き込まれて強制異世界転生ー1番長生きした人にご褒美有ります

ぐるぐる
ファンタジー
□お休みします□ すみません…風邪ひきました… 無理です… お休みさせてください… 異世界大好きおばあちゃん。 死んだらテンプレ神様の部屋で、神々の娯楽に付き合えと巻き込まれて、強制的に異世界転生させられちゃったお話です。 すぐに死ぬのはつまらないから、転生後の能力について希望を叶えてやろう、よく考えろ、と言われて願い事3つ考えたよ。 転生者は全部で10人。 異世界はまた作れるから好きにして良い、滅ぼしても良い、1番長生きした人にご褒美を考えてる、とにかく退屈している神々を楽しませてくれ。 神々の楽しいことってなんぞやと思いながら不本意にも異世界転生ゴー! ※採取品についての情報は好き勝手にアレンジしてます。  実在するものをちょっと変えてるだけです。

最強魔術師、ルカの誤算~追放された元パーティーで全く合わなかった剣士職、別人と組んだら最強コンビな件~

蒼乃ロゼ
ファンタジー
 魔法学校を主席で卒業したルカ。高名な魔術師である師の勧めもあり、のんびり冒険者をしながら魔法の研究を行おうとしていた。  自身の容姿も相まって、人付き合いは苦手。  魔術師ながらソロで旅するが、依頼の都合で組んだパーティーのリーダーが最悪だった。  段取りも悪く、的確な指示も出せないうえに傲慢。  難癖をつけられ追放されたはいいが、リーダーが剣士職であったため、二度と剣士とは組むまいと思うルカ。  そんな願いも空しく、偶然謎のチャラい赤髪の剣士と組むことになった。  一人でもやれるってところを見せれば、勝手に離れていくだろう。  そう思っていたが────。 「あれー、俺たち最強コンビじゃね?」 「うるさい黙れ」 「またまたぁ、照れなくて良いから、ルカちゃん♪」 「(こんなふざけた奴と、有り得ない程息が合うなんて、絶対認めない!!!!)」  違った境遇で孤独を感じていた二人の偶然の出会い。  魔法においては最強なのに、何故か自分と思っている通りに事が進まないルカの様々な(嬉しい)誤算を経て友情を育む。  そんなお話。 ==== ※BLではないですが、メンズ多めの異世界友情冒険譚です。 ※表紙はでん様に素敵なルカ&ヴァルハイトを描いて頂きました。 ※小説家になろうでも公開中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

ベルが鳴る

悠生ゆう
恋愛
『名前も顔も知らない人に、恋することはありますか?』シリーズに登場したベル(鈴原梢)を主人公にしたスピンオフ作品。 大学生になった鈴は偶然写真部の展示を見た。そこで一年先輩の映子と出会う。冴えない映子だが、写真を語るときだけはキラキラしていた。

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした

あおアンドあお
ファンタジー
ギガン城と呼ばれる城の第一王女であるリコット王女が、他の世界に住む四人の男女を 自分の世界へと召喚した。 召喚された四人の事をリコット王女は勇者と呼び、この世界を魔王の手から救ってくれと 願いを託す。 しかしよく見ると、皆の希望の目線は、この俺...城川練矢(しろかわれんや)には、 全く向けられていなかった。 何故ならば、他の三人は若くてハリもある、十代半ばの少年と少女達であり、 将来性も期待性もバッチリであったが... この城川練矢はどう見ても、しがないただの『おっさん』だったからである。 でもさ、いくらおっさんだからっていって、これはひどくないか? だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし... 周りの兵士や神官達も蔑視の目線は勿論のこと、隠しもしない罵詈雑言な言葉を 俺に投げてくる始末。 そして挙げ句の果てには、ニヤニヤと下卑た顔をして俺の事を『ニセ勇者』と 罵って蔑ろにしてきやがる...。 元の世界に帰りたくても、ある一定の魔力が必要らしく、その魔力が貯まるまで 最低、一年はかかるとの事だ。 こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から 出ようとした瞬間... 「ぐふふふ...残念だが、そういう訳にはいかないんだよ、おっさんっ!」 ...と、蔑視し嘲笑ってくる兵士達から止められてしまうのだった。 ※小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。