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連載
しあわせですよ4
しおりを挟む「おおー、建物がいっぱいあります!」
「そうだな。この辺りは比較的初期に出来た居住区だ。その割には中心部から微妙に外れているから人気はそれなりらしいがな」
石造りの建物が立ち並ぶこの場所は、以前は獣の皮を張り合わせたテントのようなものの集合体であったこともある。
まだ魔王城が廃墟同然だった頃の話だが、それに比べると随分と進歩したものだ。
この辺りに住んでいる住人も当時のままではないだろうが、こうして思い返すと歴史というものをしみじみと感じてしまう。
「ねえねえシオンさん、此処すっごい静かですけどどうしてでしょう?」
辺りを物珍しげに飛び回っていたサシャが戻ってきて、ヴェルムドール……シオンに、そう問いかける。
「ん? ああ、働きに出ているんだろう。この辺りには工房も店もほとんどないからな」
「え? でも、子供とか家族とか……」
「ああ、そういうことか」
確かに人類の家族の基本構成とは「父、母、息子あるいは娘」といったところだろう。
父が働きに出て、あるいは母も働きに出ても息子や娘は家にいる。
そうした気配がないとサシャは言いたいのだろう。
「魔族の子供というのは、珍しいんだ。だからこうなる」
「へ? なんでですか?」
そう、魔族は恋人は居ても子供を作る者は非常に少ない。
見たら非常に珍しいケースだといってもいい。
何故ならば、魔族は長命であるからだ。
気の遠くなるほど長い年月を生きるが故に、子孫を残すという本能に欠けているのかもしれない。
あるいは戦い己を高めることを喜びとすることが多いが故に、そうした「家族」という単位への憧れもほとんど無いのかもしれない。
人類領域のビスティアやゴブリンは逆に良く増えたりするが、ザダーク王国のビスティアやゴブリンはそこまでではない。
しかも一定以上の強さを得るとそうした欲求が消えてしまうこともあるらしい。
そうなると、種族的な何かと考えることも出来るが……特に深く考察したことはない。
単純にサンプルケースでいえばアルテジオとマルグレッテがいるからということもあるだろう。
あの夫婦も仲がいいが、未だに子供が出来たという話は聞いたことがない。
……とはいえ、そんなことを一々サシャに説明するのもいかがなものだろうとシオンは思う。
何しろ、本格的に説明しようとするとかなり生々しい話になってしまう。
概要だけ説明しようとしても無味乾燥に過ぎるし、それで余計な疑問が出てきても色々と困る。
「ねーねー、なんでですか?」
「ん……そうだな……」
顔の前に回りこんでくるサシャを軽くどかすと、ヴェルムドールは軽く咳払いをする。
「そういうものだからだな」
「そういうもの……」
サシャは少し考えるような表情をして、ふよふよと漂うと……その顔をぱっと笑顔に変える。
「そういうものなら仕方ないですよね!」
「ああ、仕方ないんだ」
何かそれっぽい言い回しが気に入ったらしいサシャが納得したのに安心す居ると、ヴェルムドールは屋根の上の方へと飛んでいこうとしていたサシャを捕まえる。
「勝手に飛んでいくんじゃない。いや、違うな。俺から離れるんじゃない」
ゆっくりと降下していた……ひょっとすると転がろうとしていたのかもしれないが、そんなサシャが「はーい」と答えてシオンの頭の上にのっかる。
微妙に浮いているせいだろうが、時折コツンコツンとヴェルムドールの頭をノックするような感覚が気になって仕方がない。
「……見える場所にいろ」
「はーい」
ヴェルムドールの胸の前辺りに降りてきたサシャを見下ろし、まあいいかとヴェルムドールは呟く。
まあ、この辺りが妥協ラインではあるだろう。
「さて、何処に行くかな……」
第一商店街でもいいが、サシャを見られると色々と煩そうでは在る。
それにあそこは色々あるにはあるが、食べ物も遊び道具も服も装飾品も、サシャでは充分には楽しめないだろう。
本人はそれでも構わないようではあるが、ヴェルムドールがそれでは納得できない。
つまり、サシャでも楽しめるような何かである必要があるわけだが……。
連想する。
サシャといえば水。
だが、水を使った遊びといったものはザダーク王国には存在しない。
サシャ云々は置いておいても、一考する価値はあるのではないだろうか?
「シオンさん?」
「ん、ああ。そうだな……そういえば、俺もほとんど行った事のない場所があったな」
「わあ、それならシオンさんも楽しめますね!」
「そうだな」
といっても、ほとんどの店は報告書でしか存在を知らないのだが……わざわざ言う事でもない。
「どんな場所なんですか!?」
「ん……そうだな。記念館や資料館といったところだな」
ヴェルムドールも完成した日に一度行ったきりなのだが……まあ、そういう類のものならば楽しめるかどうかはともかく、サシャでも全く問題がない。
問題があるとすれば、その展示内容くらいのものだろうか?
「何の記念館なんですか?」
「ん? んー……そうだな。建国記念館……といったところだろう」
「おおー! ということは、シオンさんのご先祖様の!」
目を輝かせるサシャに、ヴェルムドールは頬を搔きながらポツリと呟く。
「……いや、初代王は俺だからな。展示内容は俺に関するものになる」
言ってから、やはりこの選択は無かっただろうか……と少しだけ後悔して、サシャを見下ろした。
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