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アルム、頑張る9

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「実績作り……ですか」
「そうだ。要は「我が国は各国との関係改善、友好に向けた努力を行っている」というアピールだな。そこからどう派生するにせよ、損は無い」

 ヴェルムドールの説明にモカは「んー」と唸りながら腕を組み、首を捻る。

「でも、実際聖アルトリス王国で会議を実施するメリットがないですよね?」
「ないな」

 そう、無いのだ。
 聖アルトリス王国で「亜人論」の支持者は少なくない。
 そうした不穏な空気が払拭されていない中で彼等の言う「亜人」が集まることは、正直に言って不穏の種を撒く事でしかない。
 ついでに言えば、魔王を倒し世界に平和を齎した勇者伝説の残る国に新たな魔王、あるいは魔王の配下が足を踏み入れるという事自体に拒否反応を示す者もいるだろう。
 実際にはヴェルムドールはとっくに潜入済であったしロクナやアインも出入りしているから「今更」だったりするのだが、公的にはそういうことになっている。
 そうした事を含めれば、「外交」面ではともかく「内政」面では決して良い手とはいえない。
 それでも文書を出してくるということは、聖アルトリス王国は「会場にならないこと」を前提にしているということである。
 つまり、「友好の努力をした」という実績を他国に示すことを目的としているのだ。

「めんどくさいですね」
「面倒なんだよ、政治っていうのはな」
「でもそれなら、聖アルトリス王国は会場の候補から外していいってことですよね。となると、やっぱりジオル森王国ですか?」
「あるいは今後の友好発展の為にサイラス帝国という手もありますのう」

 ジオル森王国からはそうした文書は届いていないが、これはサリガン王の判断によるものだろう。
 何しろ、ジオル森王国は現在ザダーク王国との唯一の窓口である。
 サイラス帝国とは未だ交渉継続中だが、「船」に関する事項の調整が国内で難航しているらしい。
 そしてザダーク王国から入ってくる様々な品を買い求める他国からの商人も少なくは無い。
 そうなると未だ内戦の傷跡癒えぬキャナル王国に代わり様々な取引の中継点にジオル森王国がなりつつあるわけだが、元々ジオル大森林の中に造られたジオル森王国はそうした「商業国としての大きな発展」を受け入れる余裕があるわけでもない。
 森を切り開けば……などと安易な意見を出すようであれば、「分かっていない」という話になる。
 何しろ、商業が発展するという事は人と物、そして金の行き来が旺盛になるという事だ。
 それは、そうしたものを狙う「盗賊」を引き寄せるということでもある。
 そして盗賊にとってみれば遮蔽物の多いジオル大森林は拠点にするにはもってこいだ。
 勿論ゴブリンやビスティア達に襲われる危険もあるが……そんなものを気にしていては盗賊はできないだろう。

 勿論あちこちに詰め所はあるし、国境警備の門や砦もある。
 しかしそれとて「街道」という要所に配置されたものであって、広大なジオル大森林全てをカバーできるものではない。
 そして当然のことだが、盗賊は街道から遠く離れた騎士の目の届かない場所から潜入してきてしまうのだ。
 まあ、そんなわけでジオル森王国としては「会場に選ばれること」は望んでいない。
 ちなみに、キャナル王国からも書状は届いていない。
 これは「国内の建て直しで精一杯」であり、なんとか捻出した余力を今回の侵攻戦に向けるので、それでもう限界だからである。
 
 そして残る書状の山は中小国からであるが……こちらについては狙いは単純だ。
「これを機に自分の権力基盤を万全にしよう」「これを機に大国との繋がりを強くしよう」「これを機に一気に発展しよう」とまあ、こんなところだ。
 いわゆるビジネスチャンスといった見方であるが、決して間違ってはいない。
 そして、そうした様々な思惑が篭った書類が今こうして、ヴェルムドールの机に重なっているのだ。

「そうだな。アルムの言うとおり、サイラス帝国で行うというのが一番波風が立たんだろう」

 サイラス帝国は国土に山の多い山岳国家だが、同じ自然に囲まれた国家でもジオル森王国とは大分事情が異なる。
 それは、サイラス帝国の国土に存在するのが険しい山々であり、素人が「なんとなく生き残る」のは難しい。
 そして周辺を襲おうにも、採掘現場には頑強なる重装の騎士、村々には厳しい環境で毎日ハンマーを振るう屈強な鍛冶師や狩人達がゾロゾロと集まっている。
 正直に言って、余所者の盗賊団では蹴散らされるのが関の山である。
 政情的にも安定しており、会議を行うには最適な国であるとも言えるだろう。

 ヴェルムドールの答えに頷きつつも、アルムは少しだけ警戒したような眼差しをヴェルムドールへと向ける。

「……とはいえ、ここまではすでに魔王様の中でも結論が出ていたことでしょう?」

 正直に言って、この程度の事でヴェルムドールがアルム達を呼ぶ理由にはならない。
 今の話の流れも、「意見を聞く」のではなく「現状の流れを確認した」だけに過ぎない。
 つまり、「話がある」とすればむしろこれからなのだ。
 そんなアルムの考えを肯定するように、ヴェルムドールは「ああ」と頷いてみせる。

「お前達への話はここからだ。その国際会議なんだがな……お前達に出てもらうつもりだ」
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