562 / 681
連載
アルム、頑張る9
しおりを挟む「実績作り……ですか」
「そうだ。要は「我が国は各国との関係改善、友好に向けた努力を行っている」というアピールだな。そこからどう派生するにせよ、損は無い」
ヴェルムドールの説明にモカは「んー」と唸りながら腕を組み、首を捻る。
「でも、実際聖アルトリス王国で会議を実施するメリットがないですよね?」
「ないな」
そう、無いのだ。
聖アルトリス王国で「亜人論」の支持者は少なくない。
そうした不穏な空気が払拭されていない中で彼等の言う「亜人」が集まることは、正直に言って不穏の種を撒く事でしかない。
ついでに言えば、魔王を倒し世界に平和を齎した勇者伝説の残る国に新たな魔王、あるいは魔王の配下が足を踏み入れるという事自体に拒否反応を示す者もいるだろう。
実際にはヴェルムドールはとっくに潜入済であったしロクナやアインも出入りしているから「今更」だったりするのだが、公的にはそういうことになっている。
そうした事を含めれば、「外交」面ではともかく「内政」面では決して良い手とはいえない。
それでも文書を出してくるということは、聖アルトリス王国は「会場にならないこと」を前提にしているということである。
つまり、「友好の努力をした」という実績を他国に示すことを目的としているのだ。
「めんどくさいですね」
「面倒なんだよ、政治っていうのはな」
「でもそれなら、聖アルトリス王国は会場の候補から外していいってことですよね。となると、やっぱりジオル森王国ですか?」
「あるいは今後の友好発展の為にサイラス帝国という手もありますのう」
ジオル森王国からはそうした文書は届いていないが、これはサリガン王の判断によるものだろう。
何しろ、ジオル森王国は現在ザダーク王国との唯一の窓口である。
サイラス帝国とは未だ交渉継続中だが、「船」に関する事項の調整が国内で難航しているらしい。
そしてザダーク王国から入ってくる様々な品を買い求める他国からの商人も少なくは無い。
そうなると未だ内戦の傷跡癒えぬキャナル王国に代わり様々な取引の中継点にジオル森王国がなりつつあるわけだが、元々ジオル大森林の中に造られたジオル森王国はそうした「商業国としての大きな発展」を受け入れる余裕があるわけでもない。
森を切り開けば……などと安易な意見を出すようであれば、「分かっていない」という話になる。
何しろ、商業が発展するという事は人と物、そして金の行き来が旺盛になるという事だ。
それは、そうしたものを狙う「盗賊」を引き寄せるということでもある。
そして盗賊にとってみれば遮蔽物の多いジオル大森林は拠点にするにはもってこいだ。
勿論ゴブリンやビスティア達に襲われる危険もあるが……そんなものを気にしていては盗賊はできないだろう。
勿論あちこちに詰め所はあるし、国境警備の門や砦もある。
しかしそれとて「街道」という要所に配置されたものであって、広大なジオル大森林全てをカバーできるものではない。
そして当然のことだが、盗賊は街道から遠く離れた騎士の目の届かない場所から潜入してきてしまうのだ。
まあ、そんなわけでジオル森王国としては「会場に選ばれること」は望んでいない。
ちなみに、キャナル王国からも書状は届いていない。
これは「国内の建て直しで精一杯」であり、なんとか捻出した余力を今回の侵攻戦に向けるので、それでもう限界だからである。
そして残る書状の山は中小国からであるが……こちらについては狙いは単純だ。
「これを機に自分の権力基盤を万全にしよう」「これを機に大国との繋がりを強くしよう」「これを機に一気に発展しよう」とまあ、こんなところだ。
いわゆるビジネスチャンスといった見方であるが、決して間違ってはいない。
そして、そうした様々な思惑が篭った書類が今こうして、ヴェルムドールの机に重なっているのだ。
「そうだな。アルムの言うとおり、サイラス帝国で行うというのが一番波風が立たんだろう」
サイラス帝国は国土に山の多い山岳国家だが、同じ自然に囲まれた国家でもジオル森王国とは大分事情が異なる。
それは、サイラス帝国の国土に存在するのが険しい山々であり、素人が「なんとなく生き残る」のは難しい。
そして周辺を襲おうにも、採掘現場には頑強なる重装の騎士、村々には厳しい環境で毎日ハンマーを振るう屈強な鍛冶師や狩人達がゾロゾロと集まっている。
正直に言って、余所者の盗賊団では蹴散らされるのが関の山である。
政情的にも安定しており、会議を行うには最適な国であるとも言えるだろう。
ヴェルムドールの答えに頷きつつも、アルムは少しだけ警戒したような眼差しをヴェルムドールへと向ける。
「……とはいえ、ここまではすでに魔王様の中でも結論が出ていたことでしょう?」
正直に言って、この程度の事でヴェルムドールがアルム達を呼ぶ理由にはならない。
今の話の流れも、「意見を聞く」のではなく「現状の流れを確認した」だけに過ぎない。
つまり、「話がある」とすればむしろこれからなのだ。
そんなアルムの考えを肯定するように、ヴェルムドールは「ああ」と頷いてみせる。
「お前達への話はここからだ。その国際会議なんだがな……お前達に出てもらうつもりだ」
0
お気に入りに追加
1,736
あなたにおすすめの小説
神々の娯楽に巻き込まれて強制異世界転生ー1番長生きした人にご褒美有ります
ぐるぐる
ファンタジー
□お休みします□
すみません…風邪ひきました…
無理です…
お休みさせてください…
異世界大好きおばあちゃん。
死んだらテンプレ神様の部屋で、神々の娯楽に付き合えと巻き込まれて、強制的に異世界転生させられちゃったお話です。
すぐに死ぬのはつまらないから、転生後の能力について希望を叶えてやろう、よく考えろ、と言われて願い事3つ考えたよ。
転生者は全部で10人。
異世界はまた作れるから好きにして良い、滅ぼしても良い、1番長生きした人にご褒美を考えてる、とにかく退屈している神々を楽しませてくれ。
神々の楽しいことってなんぞやと思いながら不本意にも異世界転生ゴー!
※採取品についての情報は好き勝手にアレンジしてます。
実在するものをちょっと変えてるだけです。
お坊ちゃまはシャウトしたい ~歌声に魔力を乗せて無双する~
なつのさんち
ファンタジー
「俺のぉぉぉ~~~ 前にぃぃぃ~~~ ひれ伏せぇぇぇ~~~↑↑↑」
その男、絶叫すると最強。
★★★★★★★★★
カラオケが唯一の楽しみである十九歳浪人生だった俺。無理を重ねた受験勉強の過労が祟って死んでしまった。試験前最後のカラオケが最期のカラオケになってしまったのだ。
前世の記憶を持ったまま生まれ変わったはいいけど、ここはまさかの女性優位社会!? しかも侍女は俺を男の娘にしようとしてくるし! 僕は男だ~~~↑↑↑
★★★★★★★★★
主人公アルティスラは現代日本においては至って普通の男の子ですが、この世界は男女逆転世界なのでかなり過保護に守られています。
本人は拒否していますが、お付きの侍女がアルティスラを立派な男の娘にしようと日々努力しています。
羽の生えた猫や空を飛ぶデカい猫や猫の獣人などが出て来ます。
中世ヨーロッパよりも文明度の低い、科学的な文明がほとんど発展していない世界をイメージしています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
ベルが鳴る
悠生ゆう
恋愛
『名前も顔も知らない人に、恋することはありますか?』シリーズに登場したベル(鈴原梢)を主人公にしたスピンオフ作品。
大学生になった鈴は偶然写真部の展示を見た。そこで一年先輩の映子と出会う。冴えない映子だが、写真を語るときだけはキラキラしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。