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サシャから見た魔王城

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 サシャがザダーク王国に来てより数日が経過した。
 魔族というものに対する事前情報が全く無い人類であるサシャとの初交流は和やかに進み、今のところ魔王城内限定ではあるが、サシャがふよふよと浮遊している姿が見受けられるようになった。
 サシャもこの数日でヴェルムドールが深刻なワーカホリックであることを見抜いており、今のところ根本的な改善を行うつもりがないのも理解した。
 それで本人に特に不満がないのであれば客であるサシャには何も言うべき事は無く、見ていても気が滅入るだけなので仕事中は魔王城を探索することにしていた。
 ちなみに、仕事が終わった頃を見計らって飛んでいけば、ヴェルムドールは色々と話もしてくれる。
 ちなみにサシャはそれを「何かしてないと落ち着かない人なのだろう」と分析しているが、まだ誰かに話してはいない。

 そうしていて分かったのは、この「ザダーク王国」という国はヴェルムドールという王を頂点に据えた極端な中央集権国家であるということだった。
 重要事項における最終的な決定権は王であるヴェルムドールにあり、それがヴェルムドールの多忙に繋がっている。
 この前お酒を飲んだラクターや、まだ会った事は無いが各地を統括する「将」がいるらしいことも分かっている。
 そう、「将」なのだ。
 宰相だという人にも会ったことはあるが、何故か派手な白い鎧を着て闊歩しているところを見ると純粋な意味での文官はいないようにも思えた。
 ヴェルムドールから教わった各地の支配体制も「四方軍」と呼ばれるもので構成されている。
 つまりこの国は武官によって完全に統制されている国……というわけでもなく、「武官が文官を兼ねている」国なのだ。

 こうして言葉にすると、非常に奇妙な国であるとサシャは思う。
 国の舵取りを「王」という一人の存在に委ねるということは、平たく言えば「王」が唯一の絶対権力者ということである。
 もっと言えばこの国で一番贅沢な生活を出来る権利を得ているのがヴェルムドールのはずだが、サシャから見たヴェルムドールは執務室に篭りきりのワーカホリック男である。
 食事もたいして贅沢というわけではなく、部屋は殺風景だ。
 魔王城を見る限りは貧乏国家というわけでもないようなので、単純にヴェルムドールという王の性格であることが伺える。
 ならば権力という「力」自体に執着しているのかと思えば、財政や農業、鉱業といった基幹業務を「四方将」に基本的な権限ごと投げてしまっている。
 言うなればヴェルムドールが担当しているのは「最終的な責任者」という、一番「美味しくない」役割である。
 かといって傀儡の王というわけでもないのは、ヴェルムドールの机にある「却下書類」の山を見れば理解できる。
 とするとヴェルムドールが国と国民の為に自分の全てを削って尽くす聖者の如き王なのかといえば、それもどうにも違う気がした。
 だが、そう……たとえば、たとえばの話だ。
 たとえば政務や軍務に関わる全ての権限者が不正と縁が無く、国の為に尽くせるという状況下であれば成り立つような……そんな有り得ない状況の下であれば、これ以上なく上手く回る統治形態であるだろう。
 つまり回っているということは「有り得ない事が有り得ている」ということになるのだが……やはり結論から言えば「不思議な国」ということになるのだろうとサシャは思う。

「あ、鎧発見」

 そんなサシャの今日の暇潰しは、魔王城のあちこちにある鎧を小突いて回ることである。
 この城には「魔操鎧」と呼ばれる「中身が空っぽなのに動く鎧」の魔族がいて、それがあちこちで警備をしているのだ。
 その一方で普通の鎧もあちこちに飾っていて、しかも両方とも通常時は無言なので中々区別がつかないのだ。
 いや、正確に言えば魔操鎧達はデザインが同じなので、違うデザインの鎧が魔操鎧ではないということになるのだろうが……実はそういう鎧の中にも魔操鎧が混ざっているのではないかとサシャは考えていた。

「……むー」

 なので早速、一階の廊下に飾ってあった銀色の全身鎧を見つめているサシャだったが、今のところ何も反応は帰ってこない。
 魔操鎧も中身は空っぽなので、見た目では判別がつかない。

「こんにちはー?」

 話しかけてみても、銀色の鎧から反応は返ってこない。
 ならばと試しに自分を包む珠の端っこをぶつけてみても、ガンという鈍い音がするだけだ。

「これは本物の鎧かー」
 
 つまらないなー、と呟きながらサシャは廊下をふよふよと飛んで裏庭へと出て行く。
 この裏庭は何故か大きな畑があったり、巨大な騎士像が鎮座している不思議な場所だ。
 この裏庭にある巨大な「翼持つ騎士像」が「中央将」と呼ばれる魔族であることも教えられたが、今のところ動いた所を見たことはない。
 というか随分と苔生しているのをイチカとか呼ばれていた黒いメイドが磨いていたので、実はヴェルムドールがからかっていたのではないかと考えているくらいだ。

「むー……ん?」

 裏庭が妙に広いのに気付いたサシャはその理由を求めて辺りを見回し「翼持つ騎士像」が無くなっているのに気付く。
 確か朝まではあったような気がしたのだが……なくなっているということは、まさか本当に魔族だったのだろうかとサシャは首を傾げる。

「どこ行ったんでしょう? クビになったのかな……」

 勿論そんなわけはなく、中央将ゴーディはヴェルムドールと共に会議室にいたりしたのだが……そんなことを、サシャが知るはずもない。

 
************************************************
次回、会議です。
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