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戦いの後に3

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「使えない……? それは技術的な問題ではなく、ということよね?」

 技術的な問題であれば、イクスラースにも想像は出来る。
 今まで動かなかった次元城が起動した、今回の問題。
 その理由は検証できていないが、「動かせる」という事実がある以上「絶対に動かせない」という結末にだけは至らない。
 そして今まで動かせなかった理由も、なんとなくイクスラースには想像がついているのだが……恐らく、そういう話ではないのだろう。
 ならば、何処に問題があるのか。
 ヴェルムドールの言う、今回の侵攻戦で次元城を使えない理由。
 それをイクスラースが考え付く前に、ヴェルムドールは「たとえば」と呟く。

「そう、たとえばの話だ。一国相手に戦争を仕掛けるとして……最も効果的な戦法は何だ? 直接的な攻撃に限定して、だ」

 その質問に、イクスラースはいくつかの答えを思い浮かべる。
 直接的な攻撃という事は経済的、政治的な攻撃は含まない。
 実際の攻撃に至った際の「戦争に勝つ最も効果的な戦法」となれば、まずあげられるのは旗振り役を沈める事になるだろう。
 具体的には「王」などがこれにあたるが……これは場合によっては更なる抵抗を生む場合がある。
「将軍」や「英雄」などでも同じだ。
 その後を継ぐべし、と激化する恐れがある。
 草の根レベルの抵抗となった場合、本当に手が負えない。
 ならば、「首都」に限定すればどうか。
 いや、やはり同じだ。キャナル王国の内戦ですら「仮首都」などというものが生まれていたのだから。

「そう、ね。やっぱり最初の一撃で指導者一族を撃滅することが結局一番効率がいいのかしら。ただ実現するとなると……」
「待て。俺の言い方が悪かった。つまり互いの戦力をぶつけるにあたって、効果的な戦法は何かと聞きたかったんだ」
「……それなら簡単じゃない。初手で相手より先に防がれず大魔法をぶつけることよ。それだけで、圧倒的に有利になる」

 そう、それだけでいい。
 しかし、攻撃側も防御側も当然それに合わせた陣形を組んでくる。
 それが実際の戦争において有効打となった例は、人類が人類同士で争っていた時代を省みても数えるほどしかない。
 ……だが、魔族であればどうだろう。
 転移魔法を使える魔族であれば、突然敵軍の背後に現れることだって可能だ。
 つまり魔族にならば、イクスラースが今言った戦法をとることが出来るのだ。
 そして、ヴェルムドールもイクスラースの出した答えに頷いてみせる。

「そうだな。俺達はそれが出来る。だが、恐らく人類はソレを想定しては居ない。何故だか分かるか?」
「シュクロウスのせいよね」
「そうだ」

 人類領域における魔王といえば、「魔王シュクロウス」が圧倒的に有名だ。
 世界に人類の敵といえる生物や魔族達を放ち、洗脳魔法をも使って世界を崩そうとした魔王と……その強力な配下達。
 当然、彼等が大部隊を率いて村や街を蹂躙した事もある。
 あるが……それでも、人類はソレを想定していないのだ。
 何故ならば……人類にとって、転移魔法を使いこなし大魔法を放つ魔族は「将」として認識されているからだ。
 大多数の人類にとって魔族の軍勢を構成する「兵士」はゴブリンやビスティア、あるいはオウガである。
 実際そうであったのだから仕方ないし、暗黒大陸が大量の魔人が跳梁跋扈する場所だと言っても現実味が無いのも当然だ。
 何しろ、今までそんな大量の魔人がシュタイア大陸に攻め込んできた事は無かったのだ。
 転移魔法の存在が明らかとなった今でも転移魔法は「大量のものを運ぶ事はできない」魔法として認識されており、それは事実でもある。
 それ故に、転移による大部隊運用などという話も想定すらされてはいない。
 万が一少数の魔人が攻め込んできたとしても「簡単に負けはしない」という考えもあるのかもしれないが……それはさておき、「転移での大部隊運用はできない」というのが人類領域における大体の共通認識であるということだ。
 そして、そうであると考えていてくれた方がある程度面倒が無い部分もあるのでわざわざザダーク王国側としても訂正する理由は無い。

「つまり、これまではそれで問題は無かった。だが、次元城の存在と所有が明るみに出たらどうだ?」

 次元城を簡単に表現するならば、「次元の狭間を通り別の場所に移動することが出来る城」である。
 これは言ってみれば、「城一つ分に収まる規模の部隊を瞬時かつ一気に輸送できる」ということでもある。
 最初の戦法の話でいえば相手の部隊の背後に突然次元城を出現させることも、相手国の首都の眼前に出現させることも可能だ。
 そしてその中からは、大部隊が現れるのだ。これ程分かりやすく恐ろしい事はないだろう。
 
「でもそんなの。今だって同じような事をやろうと思えば出来るじゃないの。わざわざ次元城を使う意味が無いわ」
「そうだな。お前が襲撃してきた時に次元城を使ったのだって、それがインパクトがあるからだ。「次元城」という巨大な囮に俺の目を引きつける為であったわけだが……俺達にとって次元城はその程度の価値しかない」

 だが、人類にとってはそうではない。
 大量の人員を輸送可能な次元城は、分かりやすく「魔族の侵攻の恐怖」を煽る事だろう。
 それが何をもたらすかは……想像するまでも無いことだ。
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