486 / 681
連載
今こそ、今だからこそ14
しおりを挟む「ぐ……がぶあああっ!」
ゴーディの勢いののった拳を受けた巨大シュクロウスは、次元城の壁を壊しながら襲来の海岸へと落ちていく。
ニノに斬られた傷も深いが、すぐに黒い霧に変えて見た目の破損を補おうとしていく。
それをゴーディが追い、更に飛び蹴りで最果ての海に巨大シュクロウスを叩き込む。
「この力……っ、おのれ、貴様ただのゴーレムではないな!?」
「そのような些事はどうでもいいこと。疾く死ぬがよい」
マスターゴーレム形態のゴーディが振るう剣はやはり巨大であり、いかに巨大シュクロウスの巨体といえども一撃で跳ね飛ばせそうな剣速を誇る。
故に、浅瀬とはいえ最果ての海に足をとられていてはまともに避ける事すら叶わない。
だが、巨大シュクロウスの張った物理障壁が剣を弾き返す。
「離れろ……下郎がっ! 星光の螺旋槍!」
出来た一瞬の隙に跳び下がったシュクロウスの8つの手に光が集まり、激しく輝く。
それはシュクロウスの眼前に集うと捻じ曲がり、螺旋のような形に収束して放たれる。
「ぬっ……!」
ゴーレム形態では、魔人形態よりも魔法が上手く使えない。
しかも巨体になった分、普段よりも魔力の消費が大きくなってしまう。
とはいえ、魔人形態となってから魔法を唱える時間は無い。
避ければ背後の次元城……つまりはそこにいるヴェルムドール達に魔法が向かうのを許容するということであり、それはゴーディには出来ない。
ならばこのまま受けるしかないが、まともに受けてはマズい魔法であることは容易に想像がつく。
とはいえ、他にどうしようもない。
そこまで一瞬で考えたゴーディはこのまま魔法障壁を張るしかないと覚悟する。
「闇の魔法障壁!」
ゴーディのマスターゴーレムとしての巨体を黒く半透明な障壁が包み、シュクロウスの放った星光の螺旋槍を正面から受け止める。
……いや、「受け止めた」と思ったのは一瞬の事。
輝く螺旋の槍はゴーディの魔法障壁を突破し、とっさの判断で盾代わりにした剣を破壊する。
「……なんとっ」
破壊された剣を一瞬呆然と見たゴーディではあったが、即座に残った柄の部分をシュクロウスの腕目掛けて投擲する。
如何に剣としての役目を果たさなくなったモノではあっても、ゴーディが扱えば剣から槌になった程度の違いしかない。
故に、飛来する「槌となった剣」はシュクロウスの腕の一本……先程ニノが傷つけた腕を付け根から削り取り、その後方へと落ちていく。
「ぐおおおお!?」
「某は、疾く死ねと言ったはずだが」
水しぶきをあげながら放たれた蹴りが、巨大シュクロウスを更に沖へと蹴り飛ばす。
常に荒れ狂う最果ての海は、如何に強靭な魔族とて気軽に足を踏み入れられるような場所ではない。
それは巨体の巨大シュクロウスやゴーディとて同じ事。
故に、沖に行けばいくほど無事ではすまない確率が高くなる。
まあ、そんなところでケンカをするような魔族は早々いないので、具体的にどうなるかは不明であるが……しっかり管理している陸地と違い最果ての海であれば何をやったところで大体問題は無い。
まあ……とにかくそうした理由もあって、ゴーディは沖へと巨大シュクロウスを蹴り飛ばしたわけだが……そのまま巨大シュクロウスが海中から出てこないのをしばらく見守って、兜の奥の光をつまらなそうに明滅させる。
「上がってこない……? まさかやり過ごせるとでも思っているのか……」
今ので溺れて死ぬと考えるほど、ゴーディは楽観主義者ではない。
だが、ゴーレムでもない「生身」の魔族が長時間水中から上がってこないというのは只事ではない。
ならば、考えられるのは罠。
倒したと思って近づいてきたところを奇襲しようとか、そんなところだろうか。
「……」
浅はかな、と吐き捨てるのは簡単だ。
だが実際、ここまで徹することが出来るならば悪い手段ではないだろう。
ゴーディは巨大シュクロウスの位置を感覚で探り……しかし、おかしなことになっているのに気付く。
「なんだ、これは……海の中に拡散して……いや、何かおかしい……!」
「ゴーディ! そいつは自分を全部崩しても元に戻る! 海ごと吹き飛ばす……どけ!」
海岸に下りてきたサンクリードの声にゴーディは振り向き、翼を広げて上昇する。
……だが、その瞬間。
海から伸びた黒い霧が、ゴーディに絡みつく。
それは次第に手の形を成し、そのままゴーディの足首をしっかりと掴んで沖へと投げる。
「お、おおおっ!?」
先程よりも格段に上がった力に振り回され、ゴーディは沖まで投げ飛ばされ……そこで、翼を動かして上へと飛翔する。
だが海中から現れた巨大シュクロウスの背中にもまた、ドラゴンの如き翼が生えていた。
それは明らかに先程まではなかったものであり……巨大シュクロウスはゴーディを追うように猛スピードで飛翔する。
そして先程根元から消し飛ばしたはずの腕の一本も再生しており、四対八本の腕には強力な魔力の輝きがある。
だが、魔法を放つと分かっていて距離をとるほどゴーディは愚鈍ではない。
即座に飛翔し距離を詰めると、その首をねじ切ってやろうと思い切り掴み……しかし、頭部ごと黒い霧と化した首を掴めずにその手が宙を切る。
ならばそのまま海に叩き込んで詠唱を止めてやろうと首のあった場所から手を離した瞬間、頭部は元に戻り「発動の言葉」を口にする。
「竜墜せし裁きの光槍」
放たれた魔力は空へと昇り……シュクロウスの8つの腕が、ゴーディを離すまいと掴む。
「何の……ちいっ!」
何の真似かなど、問うまでも無い。
先程放たれた魔力が暗黒大陸の曇天を作り出す分厚い雲の下で収束し、昼間のような輝きを作り出しているのだ。
それは収束を続けると一本の光の槍のようなものと化し……ゴーディ目掛けて、発射された。
0
お気に入りに追加
1,737
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。