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今こそ、今だからこそ14

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「ぐ……がぶあああっ!」

 ゴーディの勢いののった拳を受けた巨大シュクロウスは、次元城の壁を壊しながら襲来の海岸へと落ちていく。
 ニノに斬られた傷も深いが、すぐに黒い霧に変えて見た目の破損を補おうとしていく。
 それをゴーディが追い、更に飛び蹴りで最果ての海に巨大シュクロウスを叩き込む。

「この力……っ、おのれ、貴様ただのゴーレムではないな!?」
「そのような些事はどうでもいいこと。疾く死ぬがよい」

 マスターゴーレム形態のゴーディが振るう剣はやはり巨大であり、いかに巨大シュクロウスの巨体といえども一撃で跳ね飛ばせそうな剣速を誇る。
 故に、浅瀬とはいえ最果ての海に足をとられていてはまともに避ける事すら叶わない。
 だが、巨大シュクロウスの張った物理障壁アタックガードが剣を弾き返す。

「離れろ……下郎がっ! 星光の螺旋槍ラルテリア!」

 出来た一瞬の隙に跳び下がったシュクロウスの8つの手に光が集まり、激しく輝く。
 それはシュクロウスの眼前に集うと捻じ曲がり、螺旋のような形に収束して放たれる。

「ぬっ……!」

 ゴーレム形態では、魔人形態よりも魔法が上手く使えない。
 しかも巨体になった分、普段よりも魔力の消費が大きくなってしまう。
 とはいえ、魔人形態となってから魔法を唱える時間は無い。
 避ければ背後の次元城……つまりはそこにいるヴェルムドール達に魔法が向かうのを許容するということであり、それはゴーディには出来ない。
 ならばこのまま受けるしかないが、まともに受けてはマズい魔法であることは容易に想像がつく。
 とはいえ、他にどうしようもない。
 そこまで一瞬で考えたゴーディはこのまま魔法障壁を張るしかないと覚悟する。

闇の魔法障壁アタックガード・ダーク!」

 ゴーディのマスターゴーレムとしての巨体を黒く半透明な障壁が包み、シュクロウスの放った星光の螺旋槍ラルテリアを正面から受け止める。
 ……いや、「受け止めた」と思ったのは一瞬の事。
 輝く螺旋の槍はゴーディの魔法障壁を突破し、とっさの判断で盾代わりにした剣を破壊する。

「……なんとっ」

 破壊された剣を一瞬呆然と見たゴーディではあったが、即座に残った柄の部分をシュクロウスの腕目掛けて投擲する。
 如何に剣としての役目を果たさなくなったモノではあっても、ゴーディが扱えば剣から槌になった程度の違いしかない。
 故に、飛来する「槌となった剣」はシュクロウスの腕の一本……先程ニノが傷つけた腕を付け根から削り取り、その後方へと落ちていく。

「ぐおおおお!?」
「某は、疾く死ねと言ったはずだが」

 水しぶきをあげながら放たれた蹴りが、巨大シュクロウスを更に沖へと蹴り飛ばす。
 常に荒れ狂う最果ての海は、如何に強靭な魔族とて気軽に足を踏み入れられるような場所ではない。
 それは巨体の巨大シュクロウスやゴーディとて同じ事。
 故に、沖に行けばいくほど無事ではすまない確率が高くなる。
 まあ、そんなところでケンカをするような魔族は早々いないので、具体的にどうなるかは不明であるが……しっかり管理している陸地と違い最果ての海であれば何をやったところで大体問題は無い。
 まあ……とにかくそうした理由もあって、ゴーディは沖へと巨大シュクロウスを蹴り飛ばしたわけだが……そのまま巨大シュクロウスが海中から出てこないのをしばらく見守って、兜の奥の光をつまらなそうに明滅させる。

「上がってこない……? まさかやり過ごせるとでも思っているのか……」

 今ので溺れて死ぬと考えるほど、ゴーディは楽観主義者ではない。
 だが、ゴーレムでもない「生身」の魔族が長時間水中から上がってこないというのは只事ではない。
 ならば、考えられるのは罠。
 倒したと思って近づいてきたところを奇襲しようとか、そんなところだろうか。

「……」

 浅はかな、と吐き捨てるのは簡単だ。
 だが実際、ここまで徹することが出来るならば悪い手段ではないだろう。
 ゴーディは巨大シュクロウスの位置を感覚で探り……しかし、おかしなことになっているのに気付く。

「なんだ、これは……海の中に拡散して……いや、何かおかしい……!」
「ゴーディ! そいつは自分を全部崩しても元に戻る! 海ごと吹き飛ばす……どけ!」

 海岸に下りてきたサンクリードの声にゴーディは振り向き、翼を広げて上昇する。
 ……だが、その瞬間。
 海から伸びた黒い霧が、ゴーディに絡みつく。
 それは次第に手の形を成し、そのままゴーディの足首をしっかりと掴んで沖へと投げる。

「お、おおおっ!?」

 先程よりも格段に上がった力に振り回され、ゴーディは沖まで投げ飛ばされ……そこで、翼を動かして上へと飛翔する。
 だが海中から現れた巨大シュクロウスの背中にもまた、ドラゴンの如き翼が生えていた。
 それは明らかに先程まではなかったものであり……巨大シュクロウスはゴーディを追うように猛スピードで飛翔する。
 そして先程根元から消し飛ばしたはずの腕の一本も再生しており、四対八本の腕には強力な魔力の輝きがある。
 だが、魔法を放つと分かっていて距離をとるほどゴーディは愚鈍ではない。
 即座に飛翔し距離を詰めると、その首をねじ切ってやろうと思い切り掴み……しかし、頭部ごと黒い霧と化した首を掴めずにその手が宙を切る。
 ならばそのまま海に叩き込んで詠唱を止めてやろうと首のあった場所から手を離した瞬間、頭部は元に戻り「発動の言葉」を口にする。

竜墜せし裁きの光槍エゼディクト・ドラグレン

 放たれた魔力は空へと昇り……シュクロウスの8つの腕が、ゴーディを離すまいと掴む。

「何の……ちいっ!」
 
 何の真似かなど、問うまでも無い。
 先程放たれた魔力が暗黒大陸の曇天を作り出す分厚い雲の下で収束し、昼間のような輝きを作り出しているのだ。
 それは収束を続けると一本の光の槍のようなものと化し……ゴーディ目掛けて、発射された。
 
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