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連載
今こそ、今だからこそ10
しおりを挟むそれは、一言で表せば「巨人」であった。
四対八本の腕は太く、身体に纏う鎧のあちこちで魔法石のようなものが輝いている。
頭からすっぽりと被ったフードつきのマントは黒く、そのフードから見えているのは先程見たシュクロウスの顔である。
「……勇者よ。つまらぬ相談をしていたようだが、あまり我をなめるなよ」
サンクリードを見下ろすシュクロウス。
その巨大な姿を見上げるサンクリードは、全く意に介さぬかのように笑う。
「それがお前の真の姿というわけか。だが、やはり魔王を名乗るには程遠い」
「お前の言う通りだ。だがお前とて勇者としては不完全。ならば、ここで殺すには何の支障も無し……!」
再び振り下ろされた拳を回避して、サンクリードは光撃を放つ。
それをシュクロウスは避けるでも防ぐでもなく、その鎧で受ける。
すると、光撃は鎧の表面で炸裂し……そのまま、傷の一つすらも残さない。
だが、サンクリードはその結果を確かめすらもしていない。
元より光撃などは牽制に過ぎず、すでにその身はシュクロウスの身体を駆け上がり頭へ向けて走っている。
何故シュクロウスは気付かないか。
その理由は酷く単純で……その身体が大きく、鎧で覆われているからである。
大きな異形の身体はその全てを視認するには至らず、鎧は身体の感覚を鈍くする。
それ故に、風の如き速さで駆け上がるサンクリードに気付くのに多少の時間を必要としてしまう。
そして、その隙をサンクリードは逃しはしない。
寄ってくるアルヴァを風の魔法剣で斬り捨て、シュクロウスが気付く頃にはすでに肩に向けて跳んでいる。
「貴様……っ!」
「エアル……!」
魔剣技を放とうとしたサンクリード。
だが、次の瞬間には透明な壁に阻まれ弾き飛ばされる。
そして、そのサンクリードを狙って殺到するアルヴァ達をサンクリードは斬り裂き……しかし、数体のアルヴァによって床まで叩き落される。
今、何が起こったのか。
叩き落されながらも別のアルヴァを踏み砕いて体勢を立て直したサンクリードは、すぐにその正体を把握する。
それは、物理障壁。
それも、シュクロウスの巨体を覆うような巨大なものだ。
あれを展開することで、サンクリード自身を「物理攻撃」の対象と看做してカウンター攻撃のように弾き飛ばしたのだ。
物理障壁を瞬間的な防壁と割り切っていれば思いつきもしない使い方である。
何しろ、物理障壁など使っても普通は次の瞬間に相手は物理障壁では防げない魔法攻撃に切り替えてくる。
即座に発動できる魔法など幾らでもあり、「それに頼る」などということはありえないのだ。
そしてそれ故に、その単純な利用法をシュクロウスは最大限活用した。
まるで盾で相手の突進を弾き返すかのような使い方をしてみせたのだ。
そしてそれは、物理障壁についてもう少し有用性を見出していれば簡単に思いついたことでもあっただろう。
しかし同時に、魔力で他の生物に勝る魔族には中々至りにくい思考でもあった。
だが、とサンクリードは思う。
物理障壁は所詮物理障壁であり、それ以上ではない。
故に、今から再度放つ攻撃は「それ」では防げない。
「エアル……スラッシュ!」
ゴウ、という音をたてて放たれる風の刃はしかし、黒い霧となって溶けたシュクロウスの居た後を揺らし次元城の壁を深く切り裂く。
物理障壁から魔法障壁に切り替えるまでも無いということなのだろう。
それでも魔力体である以上は今のエアルスラッシュで多少は削れたはずだが、それとて微々たるものだ。
ならば、どうやって殺すか。
やはり無理矢理にでも大魔法を何とか発動させるしかないのか。
いや、やはりそれでは。
そこまで考えて、サンクリードは小さな悲鳴じみたものを聞く。
アルヴァの声に打ち消されるような騒音の中でも聞こえたそれは、間違いなくイクスラースのものだ。
「今度は向こうか……! うっ!」
声の聞こえた咆哮へ走ろうとしたサンクリードを、アルヴァの群れが壁のように遮る。
「邪魔だ……どけ!」
サンクリードの光の魔法剣がアルヴァ達を次から次へと斬り裂き黒い霧へと還していくが、アルヴァ達は途切れる事が無い。
ここに大魔法を叩き込めば殲滅はできるかもしれないが、イクスラースの位置が分からない。
イクスラースごとアルヴァを殲滅してしまうというのでは、冗談にもなりはしない。
「ギガゲアアアアアア!」
「煩い!」
上空から襲ってきたアルヴァを見もせずに斬り捨て、サンクリードは目の前のアルヴァの壁に向かって突撃する。
いや、しようとした。
それを寸前で踏み止まったのは……背後のアルヴァ達の声が一瞬にして止んだのと。
コツン、コツンと鳴り響く足音を聞いたからだった。
まさか。そんな考えと共に振り返ったサンクリードが見たものは……想像していた人物とは、違っていた。
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