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今こそ、今だからこそ8
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シュクロウスにそう呼ばれ、イクスラースは体がぞわりとするような感覚を味わう。
理解する。
今のは単純に、イクスラースがかつてシュクロウスであったというだけの意味ではない。
そして、イクスラースは思い出す。
今のシュクロウスが「何」であるかを。
「……そうか。貴方、アルヴァの能力を持っているのね」
「如何にも」
シュクロウスが、玉座から立ち上がる。
アルヴァの「融合」は、死体や残骸に対する能力だ。
半魔力体である自分を完全なる魔力体と化し、死体や残骸を在りし日の形に修復し魂を偽装する。
しかしそれは、アルヴァが発見した副産物的なものでしかない。
その能力の真価は、そこにはない。
「この身は所詮、贋作に過ぎぬ。如何に肉体を修復し魂を偽装しようとも、アルヴァの持つ魔力では魔王たる我を全て再現するには至らぬ。故に、飽きるまでこの身に取り込んでみた」
魔力体、あるいは半魔力体であるならば、出来る。
他の生物を取り込んで魔力を喰らう、ソウルイーターになる事が出来るのだ。
「だがまだ、足りぬ。故に我よ。お前は今こそ、我と一つになるべきである。腑抜けたお前を我が喰らい尽くし、我は本来の力を取り戻す。そして、今度こそ世界を崩すのだ!」
「お断りよ」
イクスラースは、一瞬の間すらおかずにそれを拒否する。
世界を崩す。
そんなものに何の意味があるというのか。
崩した先に、何があるのか。
かつての自分は、それすら考える事は無かった。
「世界を崩して……それで貴方は何がしたいの?」
「何も。その荒廃こそが我が安息である」
「そう」
イクスラースはサンクリードの後ろから出ると、短杖を引き抜く。
「なら、私は貴方を殺すわ」
「自分を否定するか」
嘲るようなシュクロウスに、イクスラースはそっくりの笑みを浮かべて答える。
「貴方こそ、何を言っているのかしら。私は此処にいる。貴方は「私」じゃない」
「……なんという惰弱。我は汝であり、汝は我。そうやって目を逸らしたところで」
「勘違いしないで貰おうかしら」
イクスラースはその言葉を遮ると、短杖の先をシュクロウスへと向ける。
「言ったでしょう? 私は此処にいる。私の過去も罪も全て、私の中にある。貴方みたいながらんどうの残骸には、何一つだってあげないわ」
イクスラースの言い様に、シュクロウスは一瞬だけ呆けたような顔をし……その直後、大きな笑い声を上げる。
「は……ははは、はははっ! そうか、なるほど! それはその通りだ! そちらが本体なのだからな! 言われてみれば、確かにこの身は何一つ持たぬがらんどうの残骸である!」
ならば、とシュクロウスは宣言する。
「イクスラース。貴様を喰らうのはなしだ。我はこの身に取り込んだアルヴァの能力をもって貴様の全てを貰い受け、改めてシュクロウスを名乗る事にしよう」
「お断りだと言ったでしょう?」
「断れると思うのか。確かにこの身は本来の能力には程遠いが……」
「貴方と戦う主役も、私じゃあないのよ」
「……何?」
その意味を理解できず、シュクロウスはイクスラースをじっと見つめ……その横で溜息をついているサンクリードへと視線を向ける。
「ごめんなさいね、サンクリード。貴方が空気を読んでくれて助かるわ」
「誤差のようなものだ。それで、もういいんだな?」
「ええ、いいわ」
そうか、と答えてサンクリードは剣を構えなおす。
その様子を見て……シュクロウスは、訝しげな声をあげる。
「まさかとは思うが、その男が我との戦いの主役とは言うまいな」
「あら、妥当よ? 貴方だって……私が言わずとも、理解できているでしょう?」
何を言っているのか。
その問いが口を付いて出る前に、シュクロウスの身体に残る微かな記憶の欠片が反応する。
浮かんだのは、「勇者」という単語。
勇者。
勇者リューヤ。
だが、それは。
目の前のどう見ても魔族であるはずの男を見つめ……しかし、次の瞬間にシュクロウスの中に激しい感情の波が湧き上がる。
分かる。
理解できる。
そう、確かにこの男はそうだ。
理屈ではなく、感覚でシュクロウスは「そうである」と理解してしまう。
そして理解した以上、シュクロウスの行動は早かった。
「出て来いアルヴァ共! その男を……殺せぇ!」
シュクロウスの杖の宝玉から染み出るように黒い霧が湧き出し、アルヴァの形を造りだす。
広がる黒い霧はアルヴァへと変わっていき、次から次へ……シュクロウスの姿を覆い隠す程の数のアルヴァが玉座の間に現れる。
「ガアアアアア!」
「ギアアアアア!」
叫ぶアルヴァ達が、一斉にサンクリードへ向けて襲い掛かる。
「エアル……スラッシュ!」
風の刃がサンクリードが振りぬいた剣から放たれ、数体のアルヴァを黒い霧へと還す。
だが、そんなものでは焼け石に水。
時間をかければ殲滅は可能だが、シュクロウスを放っておくのは下策。
となれば一瞬でアルヴァ達を殺すしかないが……視界すら埋め尽くす勢いのアルヴァ達を殺し尽くすには、もっと大規模の魔法が必要だ。
しかし、そんな大魔法をサンクリードは詠唱破棄では使えない。
「イクスラース!」
「分かってるわよ! 闇よ、集え。集い広がりて始原の畏れを顕現させたまえ。其は永久の安息、永劫の眠り……」
イクスラースの短杖の魔法石に闇の魔力が集う。
使う魔法は、暗黒宮殿……多数の敵を闇の塊に飲み込む魔法。
すぐに察知して集まってくるアルヴァ達をサンクリードが切り裂き、あるいは魔法で蹴散らす。
そうして完成した魔法を、イクスラースは杖を上に掲げて解き放とうとする。
「暗黒……」
「させぬ」
だが……アルヴァの群れが消え去っていく闇の霧の中から、声が響く。
そこから現れたのは、腕。
「なっ……」
イクスラースの首を掴んで持ち上げた「腕」は、そこから先を一瞬のうちに構成していき……次の瞬間にはアルヴァの向こうにいたはずのシュクロウスが、そこに出現していた。
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