463 / 681
連載
投げかけられた問い
しおりを挟むザダーク王国よりジオル森王国を通して、一つの知らせが各国へと伝えられた。
それは、アルヴァに対する出兵の知らせとでもいうべきものだった。
アルヴァ。
大陸中に出現する謎の魔族であり、全ての生命体の敵とも呼ばれる相手。
一体どこから来るのか。
その戦力はどれ程か。
様々な疑問がありながらも解決されなかったこの問題。
それをザダーク王国は解決し、更にその本拠地に攻め込むという。
親書という形で各国に届いたそれに対する反応はまだ届いてはいないが……恐らく紛糾しているであろうことだけは確かだった。
そして今、魔王城のヴェルムドールの執務室には主たるヴェルムドールと……部屋のソファーに陣取ったロクナの姿があった。
「いいの?」
「何がだ?」
「人類国家のどの辺りにまでアルヴァが浸透してるかは未だ不明。そんな状況だと連中、妨害工作し掛けてくるんじゃないの?」
なるほど、ロクナの懸念はもっともだ。
会議をわざと遅延させたり、反対したり。様々な妨害工作が考えられるだろう。
もっとも、それにヴェルムドールが一喜一憂することはない。
ルーティの提案から始まったこの事態は上手く進めば確かに有益であるが、もし上手くいかなかったとしても何の問題も無い。
最悪、「提案した」という事実さえ残ればいいとすら思っている。
その場合は呼びかけに応えなかったのは人類の勝手であるし、ザダーク王国で勝手にやるだけだ。
だからこそ、ヴェルムドールはこう答える。
「何も問題は無い。どう転んでも、この件はうちに有利なんだからな」
たとえ一国も賛同しなかったとしても、それは元の予定に戻るだけだ。
どの道アルヴァは潰すのだから、そこには何の関係も無い。
「まあ、それぞれの国がどういう反応を示すかで見えてくるものもあるだろうよ。それよりロクナ」
「何よ、ヴェルっち」
「そろそろ諜報部隊の定時報告の時間じゃあないのか?」
言われて、ロクナは「あー」と呟く。
「そういえばそうだったわね。んじゃヴェルっち、また後で」
「ああ」
ロクナが空間転移で消えた後……狙いすましたかのように、執務室の扉がノックされる。
「入れ」
促すと同時に扉が開かれ……ルモンがその場に現れる。
いつも通りの柔和な笑顔を浮かべたルモンはその場で敬礼をすると、「お呼びに従い参上しました」という型通りの挨拶をしてみせる。
「ああ、よく来た。早速だがあの魔法について、お前に聞きたいことがある」
「あの魔法……とは?」
「魔法解除だ。分かっている事を聞くな」
ヴェルムドールにルモンは笑みを深めて「あー」と頷いてみせる。
「中々の魔法でしょう。僕の最高傑作ですよ」
「そんなことはどうでもいい」
「おや」
一言で切って捨てると、ヴェルムドールは一枚の紙を机の上に投げる。
それはあの時ルモンが差し出した紙であり……魔法解除の詠唱が書かれたものだ。
「問題は、この詠唱の内容だ」
「ふふ、ちょっと唱えるのは恥ずかしいですよね」
混ぜっ返すルモンにヴェルムドールは机をコンコン、と叩いて軽い苛立ちを示す。
此処に、法在り。
それが魔なる法であるならば、その全ては我に抗うこと能わず。
その全ては、我をただ賞賛する為にあるべし。
故に、我はその法を認めず。
これが魔法解除の詠唱だ。
確かにルモンの言う通りに「唱えるのが恥ずかしい詠唱」ではあるかもしれないが、問題は其処には無い。
そもそも魔法の詠唱とは、その魔法の効果、使用魔力など……魔法を構成する全ての情報を詰め込んだものだ。
そして肝心の「言葉」に関してだが、これはイメージ力の補完という役目がある。
詠唱に魔力を込める為の補助用であるという者もいるが、大体間違っては居ない。
究極的にいえば「荒れ狂う大瀑布よ顕現せよ」とかそういう水を連想させる詠唱で火の魔法を構成することも可能ではある。
ただ、そうした場合は「可能」というだけで実際に発動した例は今のところ無い。
つまり、詠唱とは「その魔法の本質に近い」何かを現すものなのだ。
「……そこで、この魔法解除の詠唱を見てみれば……おかしな場所が幾つも存在する」
たとえば、「魔なる法であるならば、その全ては我に抗うこと能わず」の部分だ。
これは単純に考えれば、「全ての魔法は俺の意に反する事をするな」という意味になる。
魔法解除の詠唱内容としても特におかしくは無い。
次に続く「その全ては、我をただ賞賛する為にあるべし。故に、我はその法を認めず」という部分も、そのイメージを補強しているようにも感じられる。
だが……ここで最初の一文がネックになる。
此処に、法在り。
これを「魔法」と想定するならば、次において「魔なる法」とわざわざ別表記にする意味は無い。
そして流れを見てみれば、「魔法」を示すのは「魔なる法」であると考えられる。
つまり、「法」は「魔法」ではないということになる。
そうして考えた時、これは詠唱の分類の中でも効果を分かりやすくイメージする「一般型」の詠唱ではなく、「物語型」と呼ばれる神話や伝承、御伽噺などになぞらえた詠唱であることが理解できる。
では、これは何の物語をイメージしているのか。
「……最高傑作だと言ったな、ルモン」
ルモンの背後から、首筋に剣が突きつけられる。
そこにいつの間にか立っていたのは冷たい瞳をルモンへと注ぐゴーディだ。
そちらへ視線だけ向けながらも笑顔の崩れないルモンに、ヴェルムドールは問いかける。
「さあ……納得のいく説明をしてもらおうか」
0
お気に入りに追加
1,737
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。