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投げかけられた問い

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 ザダーク王国よりジオル森王国を通して、一つの知らせが各国へと伝えられた。
 それは、アルヴァに対する出兵の知らせとでもいうべきものだった。
 アルヴァ。
 大陸中に出現する謎の魔族であり、全ての生命体の敵とも呼ばれる相手。
 一体どこから来るのか。
 その戦力はどれ程か。
 様々な疑問がありながらも解決されなかったこの問題。
 それをザダーク王国は解決し、更にその本拠地に攻め込むという。
 親書という形で各国に届いたそれに対する反応はまだ届いてはいないが……恐らく紛糾しているであろうことだけは確かだった。
 そして今、魔王城のヴェルムドールの執務室には主たるヴェルムドールと……部屋のソファーに陣取ったロクナの姿があった。

「いいの?」
「何がだ?」
「人類国家のどの辺りにまでアルヴァが浸透してるかは未だ不明。そんな状況だと連中、妨害工作し掛けてくるんじゃないの?」

 なるほど、ロクナの懸念はもっともだ。
 会議をわざと遅延させたり、反対したり。様々な妨害工作が考えられるだろう。
 もっとも、それにヴェルムドールが一喜一憂することはない。
 ルーティの提案から始まったこの事態は上手く進めば確かに有益であるが、もし上手くいかなかったとしても何の問題も無い。
 最悪、「提案した」という事実さえ残ればいいとすら思っている。
 その場合は呼びかけに応えなかったのは人類の勝手であるし、ザダーク王国で勝手にやるだけだ。
 だからこそ、ヴェルムドールはこう答える。

「何も問題は無い。どう転んでも、この件はうちに有利なんだからな」

 たとえ一国も賛同しなかったとしても、それは元の予定に戻るだけだ。
 どの道アルヴァは潰すのだから、そこには何の関係も無い。

「まあ、それぞれの国がどういう反応を示すかで見えてくるものもあるだろうよ。それよりロクナ」
「何よ、ヴェルっち」
「そろそろ諜報部隊の定時報告の時間じゃあないのか?」

 言われて、ロクナは「あー」と呟く。

「そういえばそうだったわね。んじゃヴェルっち、また後で」
「ああ」

 ロクナが空間転移で消えた後……狙いすましたかのように、執務室の扉がノックされる。

「入れ」

 促すと同時に扉が開かれ……ルモンがその場に現れる。
 いつも通りの柔和な笑顔を浮かべたルモンはその場で敬礼をすると、「お呼びに従い参上しました」という型通りの挨拶をしてみせる。
 
「ああ、よく来た。早速だがあの魔法について、お前に聞きたいことがある」
「あの魔法……とは?」
魔法解除ディスペルだ。分かっている事を聞くな」

 ヴェルムドールにルモンは笑みを深めて「あー」と頷いてみせる。

「中々の魔法でしょう。僕の最高傑作ですよ」
「そんなことはどうでもいい」
「おや」

 一言で切って捨てると、ヴェルムドールは一枚の紙を机の上に投げる。
 それはあの時ルモンが差し出した紙であり……魔法解除ディスペルの詠唱が書かれたものだ。

「問題は、この詠唱の内容だ」
「ふふ、ちょっと唱えるのは恥ずかしいですよね」

 混ぜっ返すルモンにヴェルムドールは机をコンコン、と叩いて軽い苛立ちを示す。
 
 此処に、法在り。
 それが魔なる法であるならば、その全ては我に抗うこと能わず。
 その全ては、我をただ賞賛する為にあるべし。
 故に、我はその法を認めず。

 これが魔法解除ディスペルの詠唱だ。
 確かにルモンの言う通りに「唱えるのが恥ずかしい詠唱」ではあるかもしれないが、問題は其処には無い。
 そもそも魔法の詠唱とは、その魔法の効果、使用魔力など……魔法を構成する全ての情報を詰め込んだものだ。
 そして肝心の「言葉」に関してだが、これはイメージ力の補完という役目がある。
 詠唱に魔力を込める為の補助用であるという者もいるが、大体間違っては居ない。
 究極的にいえば「荒れ狂う大瀑布よ顕現せよ」とかそういう水を連想させる詠唱で火の魔法を構成することも可能ではある。
 ただ、そうした場合は「可能」というだけで実際に発動した例は今のところ無い。
 つまり、詠唱とは「その魔法の本質に近い」何かを現すものなのだ。

「……そこで、この魔法解除ディスペルの詠唱を見てみれば……おかしな場所が幾つも存在する」
 
 たとえば、「魔なる法であるならば、その全ては我に抗うこと能わず」の部分だ。
 これは単純に考えれば、「全ての魔法は俺の意に反する事をするな」という意味になる。
 魔法解除ディスペルの詠唱内容としても特におかしくは無い。
 次に続く「その全ては、我をただ賞賛する為にあるべし。故に、我はその法を認めず」という部分も、そのイメージを補強しているようにも感じられる。
 だが……ここで最初の一文がネックになる。
 此処に、法在り。
 これを「魔法」と想定するならば、次において「魔なる法」とわざわざ別表記にする意味は無い。
 そして流れを見てみれば、「魔法」を示すのは「魔なる法」であると考えられる。
 つまり、「法」は「魔法」ではないということになる。
 そうして考えた時、これは詠唱の分類の中でも効果を分かりやすくイメージする「一般型」の詠唱ではなく、「物語型」と呼ばれる神話や伝承、御伽噺などになぞらえた詠唱であることが理解できる。
 では、これは何の物語をイメージしているのか。

「……最高傑作だと言ったな、ルモン」

 ルモンの背後から、首筋に剣が突きつけられる。
 そこにいつの間にか立っていたのは冷たい瞳をルモンへと注ぐゴーディだ。
 そちらへ視線だけ向けながらも笑顔の崩れないルモンに、ヴェルムドールは問いかける。

「さあ……納得のいく説明をしてもらおうか」
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