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たとえ、この身は滅ぶとも18
しおりを挟むレルスアレナの宣言に、イクスラースは絶句する。
何がどうしてそういう結論に至るのか。
そこが理解できなかったからだ。
やはり狂っているのか。
そう考えた直後、レルスアレナは再び口を開く。
「……姉さんが解放されているのならば、次は何の問題もない何処かの誰かに生まれ変わるはず。それを確認できれば、私は姉さんの言う事を確かめられます」
「何をふざけたことを……っ」
「ふざけてなどいません。私の絆の魔眼があれば、姉さんが何処にいても見つけられる。そして失われた記憶をあの魔王が蘇らせられるというならば、生まれ変わっても問題は無い筈。そうでしょう?」
理屈は通っている。
だがそれは……あまりにも、色々なものが欠けている。
「問題が無い筈がないでしょう……!」
「何故ですか」
レルスアレナの無表情な瞳が、イクスラースを見据える。
「魂も記憶も同一であれば、姿の差異など些細な事のはずです。歓迎こそすれ、拒絶する理由などないでしょう?」
「あるわ。「次」の私になんて、私は託さない。こんな連鎖は、私で全て終わらせなきゃならないのよ」
「……なるほど」
レルスアレナは頷き……杖に魔力を込め始める。
「言っている事は理解できます。ですが、納得はしません。何度でも言いますが……言葉など、私は信用しません」
「貴女は……!」
「私は私しか信じない。最初からそう言っているでしょう、姉さん。それでも私に言う事を聞かせたいのであれば……屈服させればいい」
レルスアレナの視線の先には、「黒」に包まれるアースゴーレムの姿がある。
ならばもうまもなく、あの魔王も此処に来るだろう。
そうなれば、レルスアレナには勝ち目は無い。
だからこそ、レルスアレナはその詠唱を開始する。
「世界を闇が包み、夜が訪れた」
「その魔法は……っ!」
レルスアレナの詠唱しようとしている魔法を即座に看破し、イクスラースは叫ぶ。
力尽くで詠唱を止めようとして……しかし、パチンという指を鳴らす音と同時に眼前に三体のクレイゴーレムが現れる。
「このっ……!」
黒薔薇の剣を抜き……しかし、それでは間に合わないと気付く。
レルスアレナが一挙動でクレイゴーレムを造れるのに対して、イクスラースがクレイゴーレムを倒すのには多少の時間がかかる。
その間に新しいクレイゴーレムを召喚されてしまえば、もうレルスアレナの元に辿り着く事はできない。
そして詠唱を完成させてしまえば、もう防ぐ事も避ける事もできない。
……ならば、もう……打てる手は一つしか残ってはいない。
諦めにも似た光を瞳に宿し、イクスラースは黒薔薇の剣の切っ先を下ろす。
反対の手の平をレルスアレナへと向け、イクスラースは「それ」を口にする。
「世界から光が消え、夜が訪れた」
それは、レルスアレナの唱えている魔法と同じモノ。
「再びの朝の訪れを望む汝に、影法師が闇の中から囁く。嗚呼、嗚呼、楽しき哉。君の悪運もここまでであったと」
レルスアレナの短杖に、闇の魔力が集う。
「再びの朝の訪れを望む汝に、影法師が闇の中から囁く。嗚呼、嗚呼、悲しき哉。君とは長くも短い付き合いであったと」
イクスラースの手の先に、闇の魔力が集う。
「すでに此処は夜の世界、闇の国。此処においては影ならざる汝は存在することを許されず。故に、汝の声は響かない。故に、汝の手は触れられない。故に汝は届かない」
「すでに此処は夜の世界、闇の国。此処においては影ならざる汝は存在することを許されず。故に、汝の声は響かない。故に、汝の手は触れられない。故に汝は万物に影響を及ぼす事あたわず」
二人の間に立つクレイゴーレムは、直立したまま動かない。
それはまるで、この場に立つ墓標のようにも見えて。
「故に、汝の姿すら此処では消え行く。それすなわち汝の忘却、汝の消失。初めより定められしことなれば、逆らう事あたわず」
「故に、汝の姿すら此処では消え行く。それすなわち汝の忘却、汝の消失。全てが定められしことなれば、不要なる己が身を恥じよ」
集められた闇の魔力が、渦巻く。
二人を中心とした膨大な闇の魔力が、解き放たれる時を待つ。
「此処に汝の墓標は無く、此処に汝の証は無い。ただ、闇の底に沈み行け」
「此処に汝の墓標は無く、此処に汝の証は無い。ただ、忘却の彼方に消え行け」
イクスラースは、背後から誰かが駆けてくるのを感じた。
そんな事をするのは、恐らく一人しかいないだろう。
でも、もう遅い。
ここまできたら、もう誰にも止められはしない。
だが、勝算はある。
影世界の異邦人は、効果終了まで制御し続ける必要のある魔法だ。
だから、相手の魔法に殺され尽くす前に殺し尽くせば生き残れる可能性はある。
そう、だから……これは賭けだ。
防ぐ事も避ける事も出来ない魔法に打ち勝つ、考えうる唯一の方法。
「「影世界の……」」
二人の詠唱が、重なる。
闇の魔力が、解き放たれる。
「「異邦人ッ!!」」
二人の足元に、影よりも遥かに深い「黒」が円形を形作る。
イクスラースを、背後から誰かが抱き寄せる。
「光の魔法障壁ッ!」
展開されたのは、その場の全員を覆うかのような巨大な光の魔法障壁。
よく知っている声。
こんな事を出来る馬鹿げた魔力。
自分を背後から抱き寄せている「その人」が誰であるかを、イクスラースはよく知っている。
「……バカね。死ぬわよ」
「死なせん。お前も、お前の妹もな」
魔王ヴェルムドールは……イクスラースを抱き寄せたまま、そう宣言した。
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