414 / 681
連載
会議の後で
しおりを挟む会議は無事に終了し、四方将はそれぞれ準備の為に担当地域へと戻っていった。
ヴェルムドールに同行する者も残る者も、それぞれに準備がある。
ヴェルムドール自身も自分が不在の間に業務が滞りなく回るように準備をする必要があり、それ故に執務室で書類を処理していたのだが……その部屋の扉が、突然乱暴に開け放たれる。
一体誰かというのは、考えるまでも無い。
この状況で現れるのが、ヴェルムドールには一人しか思いつかなかったからだ。
「ちょっといいかしら、ヴェルムドール」
その「誰か」……イクスラースは、睨み付けるようにして部屋の前に仁王立ちしていた。
明らかに機嫌の悪そうなその様子に、ヴェルムドールはああと頷いて再び書類に視線をおとす。
すると、大股歩きでやってきたイクスラースがヴェルムドールの手から書類を奪い取る。
「おい、書類は丁寧に扱え。破れたらどうする」
「書類より私を丁寧に扱いなさいよ、この仕事中毒! デスクワーク漬けの魔王とか、どんな冗談よ!?」
「そう言われてもな。人類社会での魔王に対する評価など俺の知ったことではないし、何より魔王とは俺の事だ。つまり、俺の行動が「魔王」という存在の基準と言えるだろう。それを前提にしてみれば、お前の言う「冗談のような魔王」こそが正しい魔王の姿と言える」
「ゴチャゴチャ言ってるけど、「王」としても貴方は結構異質よ?」
「俺は正しい在り方を実践しているに過ぎない」
淡々と答えるヴェルムドールをイクスラースは呆れた様子で見ると、はあと溜息をつく。
「……もうちょっと楽な支配方法なんていくらでもあったでしょうに」
「それによる腐敗は人類社会が充分過ぎる程に証明しただろう」
「あら、部下を疑ってるのかしら?」
イクスラースが冗談めかして笑うと、ヴェルムドールは少し不機嫌そうに顔を歪める。
「腐敗するということは、欠陥があるということだ。そうとわかっていて導入するのは愚かだろう」
「そうね。でもその結果出来たのは、貴方という王を椅子に縛り付ける構造。これもまた欠陥ではないのかしら?」
ヴェルムドールとイクスラースはしばらく睨み合うように見つめあうと、やがて根負けしたようにヴェルムドールが小さく息を吐く。
「この国にはそれが一番合っている。それに俺が居なくとも国が回るように作っている。重要なのは」
「貴方自身がザダーク王国という国と、魔族を隅から隅まで理解しているという事。揚げ足すらとられぬように、完全なる理解を実践する事……よね?」
クスクスと笑うイクスラースに、ヴェルムドールは分かっているなら言うなと言いたげに渋面をつくる。
「で、結局何の用なんだ?」
書類を奪ったままのイクスラースにそう聞きながら「返せ」と手を伸ばすと、イクスラースはその手を避けて書類を遠ざけてしまう。
その顔は、此処に来た時同様の不機嫌極まりないものに戻ってしまっている。
「……そうよ、それよ。ヴェルムドール、貴方どういうつもり?」
「どういうつもり、とは?」
ヴェルムドールが聞き返すと、イクスラースは手に持っていた書類を机に戻し、
近くの書類をまとめて遠くにどけてから机をドンと叩く。
「レプシドラの話に決まっているでしょう!」
「ああ、それか」
書類が机に置かれたのを見てヴェルムドールはちらりと視線を向けるが、そのヴェルムドールと書類の間に割り込むかのようにイクスラースはひらりと机の上に座って視線を遮る。
「いい加減にしなさいよ。私と話している時には私のことだけに集中するのが礼儀でしょう?」
「効率が悪いと思うが」
「印象が悪いでしょうが。王なら配慮なさい」
イクスラースの至極真っ当な突っ込みに、ヴェルムドールはそれもそうかと頷く。
「お前とは王と臣下という関係になった覚えが無いからな。自然と配慮しなくてもいい分類に入っていたかもしれん」
その言葉にイクスラースは目を丸くすると、おかしそうにクスクスと笑う。
「まあ、確かにそうね。私も貴方の部下になった覚えはなかったわ」
「だろう? というわけで話は聞くから書類をだな」
「却下よ」
差し出されたヴェルムドールの手を軽く叩くと、イクスラースはヴェルムドールを睨み付ける。
「で、もう一回聞くけれど。どういうつもりかしら?」
「ラクターの件なら心配はいらないぞ。アイツはああ見えて気遣いの出来る男だ。間違ってもレプシドラを丸ごと吹っ飛ばすような事にはならんはずだ」
「……そんな心配はしてない、と言ったら嘘になるけど」
むしろ、その光景が想像できすぎて困るのだが……それはさておき。
「どうして私に声をかけないのよ」
「辛いかと思ってな」
イクスラースの投げかけた質問に、ヴェルムドールは即答する。
イクスラースの「かつての生」の一つである、霊王イースティア。
その治めていた国の王都であったレプシドラには、モンスターのエレメント達がひしめいている。
その光景が、イクスラースに何か悪い影響を与えはしないかと危惧したのだ。
だが、イクスラースはヴェルムドールの言葉により一層不機嫌になってしまう。
「辛い?」
イクスラースはそう呟くと机から降り、椅子に座ったままのヴェルムドールの膝に正面から乗るような体勢になる。
互いの身長差もこうなってはほとんど無いようなもので、イクスラースはそのままヴェルムドールの胸倉を掴む。
「私を馬鹿にしないでちょうだい、ヴェルムドール。辛かったらなんだっていうの。それは目を逸らす理由になりはしない。それとも貴方は、私に過去から目を逸らすだけの愚か者になってほしいのかしら?」
イクスラースの瞳には、迷いは無い。
その瞳はあくまで力強く、ヴェルムドールは自分の気遣いが無用のものであったことを悟る。
だからこそ、ヴェルムドールはイクスラースにこう尋ねるしかない。
「……イクスラース」
「何かしら、ヴェルムドール」
「お前にも同行を頼めるか?」
聞かれるまでもないわ、と。
イクスラースはそう答えて不敵な笑みを浮かべた。
0
お気に入りに追加
1,736
あなたにおすすめの小説
神々の娯楽に巻き込まれて強制異世界転生ー1番長生きした人にご褒美有ります
ぐるぐる
ファンタジー
□お休みします□
すみません…風邪ひきました…
無理です…
お休みさせてください…
異世界大好きおばあちゃん。
死んだらテンプレ神様の部屋で、神々の娯楽に付き合えと巻き込まれて、強制的に異世界転生させられちゃったお話です。
すぐに死ぬのはつまらないから、転生後の能力について希望を叶えてやろう、よく考えろ、と言われて願い事3つ考えたよ。
転生者は全部で10人。
異世界はまた作れるから好きにして良い、滅ぼしても良い、1番長生きした人にご褒美を考えてる、とにかく退屈している神々を楽しませてくれ。
神々の楽しいことってなんぞやと思いながら不本意にも異世界転生ゴー!
※採取品についての情報は好き勝手にアレンジしてます。
実在するものをちょっと変えてるだけです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ベルが鳴る
悠生ゆう
恋愛
『名前も顔も知らない人に、恋することはありますか?』シリーズに登場したベル(鈴原梢)を主人公にしたスピンオフ作品。
大学生になった鈴は偶然写真部の展示を見た。そこで一年先輩の映子と出会う。冴えない映子だが、写真を語るときだけはキラキラしていた。
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした
あおアンドあお
ファンタジー
ギガン城と呼ばれる城の第一王女であるリコット王女が、他の世界に住む四人の男女を
自分の世界へと召喚した。
召喚された四人の事をリコット王女は勇者と呼び、この世界を魔王の手から救ってくれと
願いを託す。
しかしよく見ると、皆の希望の目線は、この俺...城川練矢(しろかわれんや)には、
全く向けられていなかった。
何故ならば、他の三人は若くてハリもある、十代半ばの少年と少女達であり、
将来性も期待性もバッチリであったが...
この城川練矢はどう見ても、しがないただの『おっさん』だったからである。
でもさ、いくらおっさんだからっていって、これはひどくないか?
だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし...
周りの兵士や神官達も蔑視の目線は勿論のこと、隠しもしない罵詈雑言な言葉を
俺に投げてくる始末。
そして挙げ句の果てには、ニヤニヤと下卑た顔をして俺の事を『ニセ勇者』と
罵って蔑ろにしてきやがる...。
元の世界に帰りたくても、ある一定の魔力が必要らしく、その魔力が貯まるまで
最低、一年はかかるとの事だ。
こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から
出ようとした瞬間...
「ぐふふふ...残念だが、そういう訳にはいかないんだよ、おっさんっ!」
...と、蔑視し嘲笑ってくる兵士達から止められてしまうのだった。
※小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。