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連載
モザイクソウル
しおりを挟む「……記憶はここまでか」
クロードの記憶の欠片に収められているのは、所詮断片に過ぎない。
だが、その断片にはこれ以上ないくらいに重要な情報が収められていた。
「死体を乗っ取るアルヴァ……か」
そういえば、確かサンクリードの報告にも似たようなものがあったはずだ。
だが、あれは「乗っ取る」というには少しばかり違うものであったようにも思える。
それよりも考察するべきは、クロードについてだろう。
グリードリースなる、アルヴァクイーンと思われる者の発言。
そして……クロードの発言と思考。
これから想像するに、恐らくは……クロードもまた、同じ方法で「蘇った」ように思える。
だがクロードはクロードとしての意識を残しており、これは「乗っ取る」能力とは違うように思えてしまう。
そう、「死者が蘇った」例は三例ある。
一つ目は、サンクリードの報告した「言動もおかしく、アメイヴァにも似た何かに変形した魔人」だ。
二つ目は、クロードや剣魔、ベルディアといった「過去の魔族」達。
こちらは乗っ取ったというには程遠く、個人が個人としての自由意志と過去の記憶を所持している。
三つ目は、クロードの記憶にある「アルヴァに乗っ取られた死者」だろう。
これがどういう状態になるのかは分からないが、乗っ取るというからには元の個人の自由意志は無いと見ていい。
この三例は、全て違うものに思える。
だが、二例目と三例目……いや、この三例全てが同じだとしたらどうだろう。
何らかの条件でこの三つのパターンに分かれるのだと考えた場合……いや、それでも疑問は残る。
「死体に融合」や「他者を乗っ取る」という能力を前提として考えた場合に、一例目と二例目に矛盾が出てきてしまうのだ。
たとえば一例目の場合、ニノが西方で虐殺して回った魔人達の死体は片付けたわけでもない。
といっても骨くらいしか残っていないだろうが、それでも可能ということなのだろうか?
だとすると、「乗っ取る」というよりは「融合し肉体を修復し乗っ取る」ということになる。
まあ、これについてはこうすることで合理性はとれる。
だが、そうなると二例目はどうか。
剣魔や杖魔のような伝説の時代に倒された魔族達は、その性質も特殊だ。
クロードの記憶で杖魔が語っていたところと先程剣魔達のステータスを覗いたところから判断すれば、「四魔将」とは魔操鎧の親戚……というよりは、「幻想系」に属する独自の種族であるといえるだろう。
魔絵画のモカや魔操鎧、そしてゴーレムといった「正常な生態系から外れた」者達を現す系統だが、魔人の姿で死なない限り骨は残らない。
普通に考えたとして、その本体であろう武器の欠片くらいは残っていたかもしれないが……そこからでも修復が可能だとでもいうのだろうか?
だが、仮にそうだとして。
今度は「乗っ取る」という言葉に矛盾が出てくるのだ。
クロードも杖魔も弓魔も、剣魔は少しばかり怪しいが、過去の記憶を有している。
そして何より、「自分」をしっかりと維持している。
これは「乗っ取った」とは、とても言えないだろう。
だが、それでも。
それでもこの三例が同じであるとするならば。
「融合」や「乗っ取る」という言葉も、真実であるならば。
どうして、こんなに多くの差異が生まれているのか?
何を乗っ取るというのか?
乗っ取られているのは……。
「……待てよ」
そこまでいって、ヴェルムドールは思考を修正する。
乗っ取る、というのは杖魔の発言だ。
だがクロードは「融合」という表現を使っていた。
この二つは同じにも聞こえるが、そうではない。
そして……「融合」した結果「乗っ取る」のであれば、矛盾も生じない。
「……そうか、これは」
ヴェルムドールは、まるでモザイクのような剣魔の魂を見る。
剣魔、謎の空白のような部分、そしてクロード。
この三つが混ざり合う奇妙な魂も、その「融合」の結果であるとするならば。
……だが、そこで生まれた新たな疑問点がヴェルムドールの理論展開を停止させる。
アルヴァの魂。
融合したはずの「アルヴァの魂」は、何処へいったのか?
いや、そもそもだ。
最初の「魂」は何処から持ってきたというのか。
これに関しては全ての事例で同じ事が言える。
たとえ三例目……しかも「死んだ直後の相手」に融合したとしても「魂」はすでに残っていないのだ。
何故ならば魂は死の瞬間に崩壊し、命の種はリセットされ命の流れへと戻る。
つまり、そこにあるのはただの魂の無い肉体。
そこに融合をかけたとして……いや、「アルヴァの魂」を代わりの核として動かしたというならば、まあ納得はいく。
だが、それならば剣魔の魂に「アルヴァ」が見当たらないのは何故なのか?
それだけではない。
魂が「アルヴァ」のものであったとするならば、「記憶」は何処から持ってきたというのか?
「……どういうことだ」
剣魔の命の種は、中身がスカスカだ。
それ自体もあまりに不自然ではあるのだが……。
「初期化した? いや、それに何の意味がある。何か納得いく理由があるはずだ」
ヴェルムドールはそう呟くと、モザイクのような魂の中を眺め回した。
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