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連載
魔剣技7
しおりを挟む転移魔法、あるいは転送魔法。
どちらも同じ魔法のことを示しているが、これは人類側に使える者が居ない為、効果で分類されてしまっているという事情がある。
自分を含む誰かを何処かへ運ぶ「転移」、そして自分を含まない「転送」。
どちらも魔族にとっては同じく「ゲート」であり、元々大雑把なところのある魔族にそれを「分類」して別の魔法として扱おうなどという者がいるはずもない。
さて、そんなわけで当然「転移」を経験した人類などいるはずもなく……「その時」を、シュナは驚きと緊張と共に迎えた。
しかし実際には、「光に包まれた」という感覚しか感じなかった。
故に、その光が薄れ始めた時、シュナは拍子抜けしたような気持ちすら感じていた。
色々想像で語られていた俗説よりも、余程アッサリしていたからだが……まあ、それも仕方の無いことだろう。
しかし転送先に辿り着いたその瞬間、シュナは目の前に広がっていた光景に驚きの声をあげることになる。
「……えっ」
そこに広がっていたのは、何処かの村の入り口のように見えた。
石で造られた簡素な石垣と、しっかり閉じられた木の門。
頑張れば簡単に乗り越えられる程度のものではあるが、野犬やゴブリンを防ぐのには充分な強度と高さを持つ一般的なものだ。
周囲を木々に囲まれた其処は、恐らくは目的地である「タキム村」であると思われたが……隠しようもない違和感が、そこにあった。
「……静か過ぎる」
カインが、ぽつりと呟く。
そう、静か過ぎるのだ。
人が住んでいる場所独特のざわめきが、此処にはない。
まるで全員が何処かに出かけてしまったかのような静けさ。
あるいは、廃村であるかのような寂しさ。
「此処って、本当に目的地なんです……よね?」
「そのはずだがな」
カインにサンクリードはそう答えると、門の側に刺してある木の看板を眺める。
タキム村と書かれた古い看板には何度も塗りなおされた跡があり、しかしかすれかけた文字はそろそろ塗りなおしの時期に来ていることを知らせている。
試しにサンクリードが門をグイと押してみるとガタリと音が鳴り、僅かに出来た隙間の向こうに木製の太い閂が見えている。
「閂か……。ならば中に誰かいると考えるのが一般的か?」
「いや、一般的っていいますか……」
貴方は中から閂かけて外出られるんですか……と言いかけたシュナは、今しがた自分が転移してきたことを考えて口を噤む。
そんなことをせずともサンクリードならば普通に飛び越えるのだが、それはさておき。
「でもそうなると、この静けさは何なんでしょう。まだ昼前ですよね?」
空を見上げたカインにシュナが頷き、門をガタガタと押し始める。
「んー……」
「どうした?」
何度か門を押していたシュナにサンクリードが問いかけるが、シュナは振り向かないまま門を押したり覗いたりを続ける。
「この閂は、差込型ですね。下ろすタイプと違ってしっかり人力で差し込む必要がありますから、偶然かかったってことはないでしょうね。となると、中から誰かが閉めたってことで間違ないんですが……」
こうした村で使われている閂は、一般的に二種類である。
まず一つ目は、簡素な「下ろす」タイプだ。
「抱える」ような形の金具に太い板などを上からはめ込むタイプで、いざという時に簡単に閉じることができるようになっている。
ただしこの場合、工夫次第では外から開けることも不可能ではない。
そして二つ目は、取っ手のような形になっている金具に横から「差し込む」タイプだ。
これは少し時間がかかるが、より頑丈で確実である。
メンテナンスもより手間がかかり、少なくとも手入れするものの居ない廃村でしっかりとかかっているようなものではない。
「これ、ちょっと外から外すのは面倒ですね……」
「え、ていうか外せるんですか?」
「時間はかかりますけど不可能じゃないですよ。あんまり人様にお見せするような技じゃないですけどね」
うーんと唸りながら門を調べているシュナに、カインはそうなんですかー……と言いながら感心したような目でそれを見る。
罠や鍵の対処を請け負うことの多い罠師であるシュナだからこその技術ではあるが、シュナの言う通りあまり人前で披露していいような技でもない。
こうした技術は古い遺跡などの罠を解除するだけでなく、盗賊の手に渡れば犯罪の手段ともなってしまうのだから。
「まあ、当然時間はかかるわけなんで、誰にも気付かれずに閂を外せるわけじゃないですよ。そんなに簡単なものじゃないです」
振り返ったシュナが安心させるように笑うと、その様子をじっと見ていたサンクリードが納得したように頷いてみせる。
「ということは逆に言えば、これだけガタガタやって誰も出てこないというのは、それが気付ける範囲に誰も居ないという事だな?」
「うーん、そういうことになりますね。こんな時間まで寝ているってこともないとは思いますけど……まあ、そういう生活スタイルなのかもしれませんしね」
冗談交じりにシュナが言うと、サンクリードは考え込むように顎に手をあてる。
「……となると、このまま此処に居ても門が開く可能性は低そうだな」
「ん……まあ、そうなるんです……かね?」
曖昧にシュナが頷いたその次の瞬間。
サンクリードは軽く二、三度ジャンプすると、高く飛び上がり勢い良く石垣を飛び越えていった。
************************************************
門が開かないなら、飛び越えればいいじゃない。
(斬らなかっただけマシ的発想)
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