勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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その先に光はあるか20

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 さて、当然ではあるが正門と裏門は全く逆方向にある。
 そして正門と裏門というと正門は立派で人が多く、裏門はボロくて寂れている……という印象があよくある。
 結果から言えばそれは真実であり、誤解でもある。
 具体的にはどの門からも人は来るし、裏門も充分に立派なのである。
 その上で、正門というものは立派に出来ている……ということだ。
 これにはキチンとした理由があり、まず最初に一般的な街には通常「街壁」が造られる。
 この街壁というものは盗賊の侵入やゴブリン、ビスティアなどの侵入や襲撃から街を守る為のものである。
 この為、どんな街でも必ず街壁は堅牢で維持のしやすい石で作られる。
 そして、四方に門を作る。
 これはどの方角からでも訪問者を受け入れることが出来るようにという意味があり、流通を妨げないようにするためのものである。
 よってどの門も基本的には同じ大きさだったのだが……ここに一部の特権階級気取りのプライド的なものや街の一部の金持ちなどの見得が加わり、「正門」というものに特別な意味が加わるようになる。
 つまり「正門」とは「正式な門」であり、街の顔であり大事なお客様を迎え入れるためのものである……という考えである。
 
 この考えが加わったとき、正門は他の三門とは違う形に変貌せざるをえなかった。
 より立派に、より大きく。
 そうして進化した正門は文字通り「街の顔」となり、新たな街を作る際にも正門と街の中心部との関係というものが深く考慮されるようになった。
 エルアークの正門も立派なものではあったのだが……現在は廃墟である。
 そしてエルアークの他の三門も正門ほどではないが充分に立派であり、普段はどの門からでもきちんと人は来るのだ。
 エルアークの正門が行商人の馬車でごった返すのは、正門から商業区画に行きやすいという理由があるからである。
 このあたりは、古い街ほど区画整理の問題が色々とあってゴチャゴチャしているからだったりするのだが……それはさておき。

「うーむ。今日も人がいないのう」
「手入れはしっかしりしとるのう。寂れちょるのに」

 しっかりと閉められた裏門には現在、五人のノルム達がぺったりと張り付いていた。
 今日のところは誰も来ていない裏門のエルアーク守備騎士達も暇なようで、困ったような笑みを浮かべながらもそれを見ている。

「見ろ、この門を。意匠どころか個性すら無い。まるでただの金属壁を見ているかのようじゃ」
「まあな。威圧感があるのは認めるが、正門というのは街の顔なのだろう? 街の顔であるならば、風格というものが求められるのではないか?」
「いやいや。風格よりも壮麗さだろう。ほれ、いつだったかテックハーゲンの野郎が語ってたことがあったろう」
「壮麗さだと細工師の出番だな。やはり門に装飾を施してだな」

 わいわいと騒ぐノルム達の元に、一人の騎士が袋を持ってやってくる。

「今日も騒がしいな、あんた等は」
「ん? おお。すまんな、つい盛り上がってしまう」

 一人のノルムが頭を下げると、その騎士はハハッと笑ってみせる。

「いやいや、気にすんなよ。騒がしさにも心地よい騒がしさとそうでない騒がしさってやつがあってな。あんた等のは間違いなく前者だな」

 言いながら差し出す袋をノルムの男が受け取り、納得したように頷く。

「なるほどな。そう言って貰えるなら有り難い。で、これは……ああ、炒り豆か」
「随分と議論に熱が入ってるみたいだしな。そろそろ小腹が空く頃じゃないかって……まあ、俺達からの差し入れだな」

 その豆を袋の中から一つ摘むと、ノルムの男は騎士の手に握らせる。

「では、これは俺達からの返礼だ。乾杯というわけではないがな」

 そう言って自分も豆を掴み取り口元へと運ぶ真似をしてみせるノルムの男に苦笑すると、騎士も口元へと豆を運ぶ。

「ハハハ、乾杯するなら酒を持ってくるんだったな」
「次はそうするといい」

 そう言いながら、二人はボリッという音を立てて豆を噛み砕く。

「それじゃまあ、頑張ってな」
「おお。しかし、豆は喉が渇くな」
「そしたら近くの店で果実ジュースでも買えばいいさ」

 手をパタパタと振りながら去っていく騎士達を見ながらノルムの男は豆を一掴みボリボリと食べて、再度袋の中に手を突っ込み……そこで、後ろから別のノルムに頭をはたかれる。

「こりゃ、一人で全部食うつもりか!」
「む? おお、すまんすまん」

 袋の中から手を出し豆をボリボリと齧りながらノルムは他のノルム達へと袋を投げ渡し……受け取ったノルムもまた、袋の中に手を突っ込む。

「まあ、つまりだ。折角時間も余っとるんだから予算の追加請求をして、より精緻な装飾をだな……」
「おい、豆はそうやって一気に食うもんじゃなかろう」

 次に投げ渡されたノルムが豆を一粒だけ掴み、ぽりっと齧る。

「それを言うのであれば、現状の予算内で出来ることがあるのではないか? 予算の追加請求は我々の限界がそこだと言うておるようで、正直歓迎せんが」
「時と場合っちゅうやつだろう。そもそもこの計画は人道支援とかいうやつであることを考慮すればだな」

 再び白熱し始めた議論。
 しかし、ヒートアップする直前にノルム達の耳に聞き覚えのある声が響き……ノルム達の発言がピタリと止まる。

「あ、ほらほら! やっぱり皆さんいましたよ、アウロックさん!」
「おう。おーい、さっさと帰るぞ!」

 自分達に向かって走ってくるマーロゥと……ついでにアウロックの姿を見て、ノルム達は肩をすくめる。

「迎えが来たか」
「今日は早いのう」
「続きは帰ってからじゃな」

 口々に言い合うノルム達は、自分達もマーロゥの元へと行こうとし……そこで、緊急を知らせる鐘の音が背後の裏門から響く。

「おお、今日もゴブリンの襲撃かのう」
「こっちのゴブリンは阿呆じゃな」

 にわかに騒がしくなり始める裏門の見張り台にちらりとだけ目を向けて、ノルム達は歩き出す。
 だが……次の瞬間、他の方角からも緊急の鐘の音が響き始めたのであった。
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