召喚世界のアリス

天野ハザマ

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異界の国のアリス

解決への道筋

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「ミニミ……?」

 今の台詞から導き出される結論。それはあまりにも残酷だ。
 私が初めて会った人たちのうちの1人。それがまさか。

「貴方が、主犯ってこと……?」
「くくく……当然違うさ。だがな、仲間ではある」
「なんで⁉」
「オウガの地位向上の為だ」
「えっ……」
「お前は知らないだろう。オウガは、その見た目と性質故に魔族の中では地位が低い。単純労働しか仕事先がない程にな」

 オウガ。相手を威圧する顔面と、体力面に特化した肉体。魔力は低く、手先もあまり器用ではない。
 それがオウガの魔族としての特徴だ。素早さや正確さを必要とする作業には向かず、魔法を使用するような仕事も出来ない。そんな種族が、高い地位にいけるはずもない。
 結果として鉱山労働や冒険者などに限定され、魔族の中の下層民として生きていくことを半ば強制されているのがオウガという種族だ。
 そう説明するミニミに、私は思う。これはきっと、言葉ではどうにもならない問題だ。だから、何も言えはしない。

「これ自体はもうどうしようもない。ないが……これを変えられるとすればどうする?」
「変えられる……?」
「まさか、それは……」

 呟くリーゼロッテに、ミニミは視線を向けて。

「そこの魔女は知っているようだな。そう、変えられるのだ。必要なものはもはや、ほとんど揃っている。あとは……」
「ちょっと待って!」

 鉄格子を握り、リーゼロッテは叫ぶ。

「その魔法……転生の魔法は古より分割秘匿されているんですわよ⁉ まさか、貴方たちは……!」
―その通りだねえ―

 私たちを此処に転移させた声が、響く。
 ミニミの隣に、ゆらりと影のようなものが生まれ出る。
 黒っぽい闇の塊のようなソレは、一部分があまりにも特徴的だ。
 そう、まるで……アレは。

「鉤鼻の、魔女……!」
―ほっほっほ。わしを知っとるのかい若い魔女よ。そうさ、わしが『鉤鼻』さ―
「貴方は遥か昔に死んだはずですわ!」
―分霊など容易なこと。お主らには無理かもしれんがのう、ひょほほ!―

 鉤鼻。そうか、あれが鉤鼻の魔女、なのか……。

「で、その鉤鼻の魔女はなんで転生の魔法とかが欲しいの? まさか慈善事業じゃないでしょ?」
―む? おうおう、そりゃ当然じゃよ。わしの目的のついでにオウガ共に手を貸してやるという契約じゃからのう―
「そう。で、なんで? あと何で黒っぽいの? 実は身体が無かったり?」
―くくく! 半分当たりかのう。わしは、自分の理想の肉体を求めておる。今の肉体は、少々足りなくての―

 肉体あるんじゃん。半分じゃないじゃん。いいけどさ。

「それで理想の肉体に転生ってわけだ。で、私達をさらったのはなんで? どうも見張ってたっぽいけど」
―質問が多いのう。ま、見張ってたのは正解じゃよ。理由は……お主らで完成するからじゃな。のう? 最後の欠片を持つ魔女よ―

 言われて、リーゼロッテは顔を真っ青にして後ずさる。
 最後の欠片って……さっきの転生魔法のことだよね?

「な、何のことだか分かりませんわ」
―隠さずとも良い。可能性は考えておったのじゃろう? 転生魔法が狙われている……とな―
「くっ……!」

 うーわ、マジかあ。でもまあ、私も隠し事してるしなあ。初対面にそこまで話すはずもないか。
 でも、それはそれとして……「お主ら」って言ったよね?

「ちょっと、お主らって。私は関係ないじゃん」
―ん? あるとも―
「何処に。私魔女じゃないけど」
―お主の身体じゃよ。その極めて理想的な肉体……お主にはもったいない―

 ……ん? それってもしかしなくても私の身体目当てか?
 うーわ、信じられない。私が美少女すぎるせいで狙われている……!

―そこのオウガの報告では、かなり厄介そうな装備を持っておるそうじゃが、それも今はないしのう。くくく、まあさほど時間はかけぬ。すぐに……―

「変身!」

 一瞬で私の装備が切り替わる。鉄の鎧はダイヤアーマーへ、鉄の剣はスペードソードへ。

―……はあ?―
「てえりゃああああ!」

 振り回したスペードソードがギンギンギン、と音を立てて鉄格子を切断する。
 そして出来たのは、私たちが通れるくらいの穴。

「な! こ、この!」
「弱キック!」
「ぐは!」
「弱キック中キックジャンプキイイイイック!」
「ぐおああああああ⁉」

 膝を狙った前蹴り、横蹴り、そして軽いジャンプからのサマーソルトキック。
 吹き飛んだミニミが壁にぶつかり、ズルズルと崩れ落ちる。

「正義の勝利!」
―な、ななな……―
「ついでにドーン!」

 スペードソードを振るうと、黒い魔女の姿は大きく揺らぐ……けど、それだけだ。
 ちぇっ、やっぱり本体じゃないとかそういうやつかー。

―なんという素晴らしい肉体……! 欲しい、欲しいぞ!―
「あげない。私の身体は私のだし」
―くくく、そんなものはもはや関係ない! 貴様らはここから逃がさぬ!―

 そう言い残して魔女の影は消えていく。うーん、でも帰れると思うんだよなあ。
 試しに立ち尽くしているリーゼロッテの手を握る。反応がない。寂しい。

「えーと……リターンホーム」

―妨害されています。リターンホームは現在使用できません―

 む、そうくるかあ……。

「リーゼロッテ」
「な、ななな……なんですの⁉」
「あの魔女ムカつくから、ぶっ飛ばしてハーヴェイに突き出そう。それで解決よね」
「そ、それは……そうかもですけれど」
「よし、じゃあやるよ!」
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