召喚世界のアリス

天野ハザマ

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異界の国のアリス

天眼

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 そう、魔女族は人間族じゃない。それはさっきアルヴァから聞いたから知ってる。
 つまり、人間狙いの今回の違法奴隷商人のターゲットじゃないはず。
 目の中で星がキラキラしてるリーゼロッテを人間と見間違うとか、結構有り得ないと思う。
 ホウキで空飛ぶし。あれは結構羨ましい。

「……貴方、馬鹿なのに結構鋭いですわね」
「洞察力がないとねー。ラスボスクリアはできないから」
「ラスボス? ともかく、そこが今回の事件の肝ということですわ」
「もっと分かりやすく」
「どれだけ大規模な事件に見えても、それは全部隠れ蓑かもしれないということですわね」

 なるほど、よく分かった。つまり人間を狙った違法奴隷調達事件は、本当は魔族を狙ってる事件なのかもしれな……んん?
 いやいや、それは何かおかしいような。

「ちょっと待って。関連性が分からない。もし魔族を狙ってるとして、なんで人間の違法奴隷商を組織する必要が?」

 魔族を狙うなら、最初からそうすればいい。その方が話が早いじゃない。
 わざわざ「人間」を間に挟む意味が分からない。

「そもそも、人間の違法奴隷は何処に売られてるの? この国じゃ奴隷は違法よね?」
「その通りですわ。魔国では奴隷自体が違法。そしておそらく相当数の人間が違法奴隷と化していますわ……そんなものが魔国に居たら、隠そうとしても隠しきれるものではありませんわ」
「なら、違法奴隷の行先って……まさか」

 まさか、そんなはずはと思う。だって、もしそうだとしたら……あまりにも。

「十中八九、人間の国ですわね。魔国で人間を浚い、人間の国に奴隷として売る……そしてそれを可能としているのは恐らく魔国でそれなりの立場を築けている人間……」

 分からない。なんでそんな事をするのか分からない。
 同じ人間なのに、理解できない。価値観の違いと言ってしまえばそれまでなのだろうけど……きっと、私とは永遠に相容れない。

「なんで、そんな……」
「人間を扱っている限りは魔国は本気では動かないからですわね」
「えっ?」
「調査結果によれば、連中の『商品』となっているのは魔国でくすぶっている人間たちですわ。言ってみれば、魔国での厄介者……それが居なくなったところで魔国は本気で動かない」

 そうか、たいていの魔族は人間を嫌ってるし、たいていの人間も魔族を嫌ってる。
 だからこそ、魔国で人間がどうにかなったところで「どうでもいい」ってことになる。
 でも、ハーヴェイは動いて……と、そこまで考えて私はハッとする。

 ハーヴェイは、私が狙われる以前より報告を受けていた。それでもどうにかしようと動き始めたのは、私が狙われた後。
 つまりハーヴェイも……魔王自身も、この事件自体は比較的どうでもいいのだ。厄介ではあるとも不快であるとも考えているだろうけど、そこまで実害があるとは考えていない。

「……そっか。そうよね」
「ええ。そうやっているうちに、連中は『どうでもいい』と見逃されるルートを得る。これが連中の第一段階。そして、恐らく……目的は、その先ですわ」
「その先って?」

 話の流れから言えば、魔族に実害がある話なんだろうと思う、けど。

「……魔女狩り」
「魔女、狩り?」
「……魔女族と人間族の違いは何処にあるか分かりますわよね?」
「えーと、眼?」
「その通りですわ。天眼。この特徴的な眼を除けば、あくまで外見的特徴において人間と魔女の違いはさほどありませんわ」

 確かにそうかもしれない。リーゼロッテだって、私を魔女と間違えたくらいなんだし。
 たとえば目を閉じさせて運べば、区別はつかないかもしれない。
 でも、魔女を狙う理由は? いや、たぶん……きっと、そうなんだろうと私は「その言葉」を口にする。

「天眼が狙いってこと?」
「恐らくは。そして、縄張りを持たない『はぐれ魔女』の数名の安否がすでに不明であることも分かっていますわ」
「それはグレイたちが?」
「ええ、調べさせましたわ。とはいえ、彼女たちがその被害者であるという証拠もないのが辛いところですわね」

 つまり、今はリーゼロッテの想像でしかないってことなんだろうと私は理解する。
 難しいな、証拠がないと国だって動けないわよね。

「でも、なんでリーゼロッテはそれを調べようと思ったの?」
「狙われている、と感じるからですわ」
「ふうん?」

 あんまりハッキリしないな、と思って私が首を傾げれば、リーゼロッテは片目を撫でるように目元に手を当てる。

「……私の天眼には『敵感知』の魔法が記録されてますわ。そして天眼が告げるのです。私の『敵』が居ると。そして魔女の敵とは、常に天眼を狙う者でしたわ」
『事実だ。魔女の歴史は天眼を狙う者たちとの争いの歴史だった。彼女たちが人里で薬師などの職に就くのは、無くてはならない存在として庇護対象となる為の知恵でもある』
「そう、なんだ……」

 リーゼロッテの言葉に、アルヴァの念話に……私は、そうとしか答えられない。
 でも、そうであるということは。敵は人間で、しかも魔族の『魔女』を狩れる手段、あるいは実力の持ち主ってことになる……よね。
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