召喚世界のアリス

天野ハザマ

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異界の国のアリス

魔王3

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「お願いだから、人の家の前で騒がないでよ」
「うおっ、何処から出てきた!?」

 家の前に転移した私に驚いたのか、魔王……ハーヴェイは目を見開く。

「……いや待て、お前の身体に妙な魔力の残り香が……まさか、転移か?」
「どうでもいいじゃない」
「いや、良くない。そうなると、この家……さては何か仕掛けがあるな?」

 仕掛けがあるっていうか、仕掛けしかないっていうか。まあ、説明する気はないんだけど。

「そうかもねー」
「……なあ」
「やだ」
「余を家の中に」
「やだ」
「招待しろ」
「やだ」
「魔王命令だ」
「やだ」
「……」
「……」

 互いに睨み合い、無言。

「……何故嫌がる」
「なんか単純にやだ」
「単純にやだ!?」

 そんな言われようは初めてだぞ、と叫ぶハーヴェイ。でも、嫌なものは嫌だし……。

「あと何か仕掛けそうだし」
「仕掛けないと約束すればいいんだな?」
「後になってから下民との約束など知らぬとか言い出さない?」
「……お前の中で余はどれだけ暴君なんだ?」

 どのくらいって、そうねえ……。

「……人の家の上空で不敬だとかって騒いでるくらいの暴君かなあ……」
「くっ! それは仕方なかろう!」
「そうかしら」

 なんか入れたら入れたで、凄い居座りそうな気がするのよね、こいつ……。
 アルヴァもなんだかんだで家が気に入ったらしくて暇さえあれば調べてたし。

「ともかく、余を家に入れる事には利点があるぞ」
「利点? 別に魔王様御用達とかの看板はいらないけど」
「そういうのではないがな。有象無象からの干渉はある程度防ぐ材料になるぞ」
「そうなの?」
「ああ。どういう事かと言うとだな……」

 これ程までに魔法技術の粋が尽くされた家ともなれば、当然廃棄街にあろうとも欲しがる者は出てくる。
 その中には魔族の権力者などもいるだろうが、魔王と懇意であり魔王が遊びに来る家だということになれば、それは当然「魔王の機嫌を損ねかねない」という防御材料になるのだそうだ。
 勿論、バレないように下っ端を使う可能性もあるが……それはこの家であれば物理的手段は防ぎきれる……ということらしい。まあ、つまり……。

「権力バリアーってこと?」
「身も蓋もない事を言うな……だがまあ、間違ってはいない」
「うーん……」

 正直、助かる……と思う。権力を持つ悪人っていうのは生きてる限り関わる可能性のあるかもしれない相手だし、単純に力押しではいかないことも分かってる。
 ……いや、そりゃまあ……後々の事を考えないんであれば力で叩き潰すって言うのもありなんでしょうけど、それはあまりにも考えなし過ぎる。

「何を悩む事がある?」
「……いや。別に入れなくても『入った事ある』って事にしとけばいいんじゃないかなーって」
「余が面白くない。あと自慢じゃないが、余は自分の気に入らん嘘をつくのは苦手だぞ」
「気に入る嘘はつくってことじゃない……」
「そういう解釈もあるな」
「他にどういう解釈があるって言うのよ」
「ふむ……」

 私のツッコミにハーヴェイは言葉を探すように指を宙に彷徨わせ……「そうだな」と呟く。

「余の素敵な人格とか誠実さを表す言葉かもしれない」
「……そうなの?」
「余が自分に正直なのは認めよう」
「チッ」
「舌打ちしたな!?」
「だってムカつくんだもの」
「お前、どんどん余に対して遠慮がなくなっていくな……」

 そう言って溜息をつくと、魔王は何かに気付いたかのように「おい、やめろ」と声をあげる。
 それが一体何なのか……それはギイン、という音と共に私の背後でダイヤ型の障壁が発生した事で理解できた。

「この……!」

 私の背後で短剣を振るっていたソレに対し、私は即座に顕現させたスペードソードを振るって……けれど、避けられる。くっ、速い!?

「おい、余はやめろと言ったが?」
「……しかし魔王様。あまりにも不敬に過ぎます。このような者を放置するは、権威の傷となります」
「ていうか、首狙ったわよね……殺す気!?」

 近くの崩れた壁の上に立つ黒ずくめに叫ぶと、そいつは「当然」と答えてくる。

「魔王様の優しさにつけこむクズめ。死で償え」
「当然NOよ!」

 黒ずくめが投げてくる手裏剣みたいな投てき武器を避けて、私は叫ぶ。
 そのまま距離を詰めて、刃を当てないように一閃。ああもう、また避けた!

「ノロマめ。そんな攻撃、100振っても当たらんぞ」
「言うじゃない……!」

 流石にクローバーボムなら当たるだろうけど、殺すのはなあ……。
 そう考えていた時。背後で、魔力が膨れ上がるのを感じた。

「……グラビトンレイ」
「ぐあっ!」

 私の上空を通り過ぎて行った魔力の炸裂した先。
 そこには、黒ずくめが地面に叩きつけられる姿があったのだ。
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