召喚世界のアリス

天野ハザマ

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異界の国のアリス

王都廃棄街2

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 それからしばらく、廃棄街を歩いて。段々と、人のいない地域へと私達は到着しつつあった。

「んー……この辺りまで来ると、ほとんど人が居ないわね」
「この辺りは廃棄街でも端の方だからな。見てみろ、壁が崩れた跡があるだろう」
「うん」
「アレが、以前勇者が攻め込んできた跡だ」
「勇者って、人間の?」
「ああ。今代ではないがな。数代前の勇者だ」
「……聞こうと思ってたけど、そんなに勇者っているの?」
「いる、というよりは……いた、だな。定期的に召喚されている」
「うええ……ていうか、仲良くしてるんじゃなかったの?」
「別に仲良くはないぞ。事実、数代前までは勇者を送り込んできていたんだしな」

 殺伐としてるわね。
 そんな事を考えながら、崩れた壁の跡を見る。
 ……なんだか、随分と地面が抉れてる気がする。

「一応聞くけど、アレって魔法か何かで壊したの?」
「ああ。確か爆発魔法だったか? 凄まじい威力だったぞ」
「ふーん……」

 勇者だから強い力に目覚めたとか、そういうのがあったのかな?
 すると私を巻き込んだ勇者も、もしかすると今頃強くなってたりね。

「ま、いいか。それじゃあ、この辺りの建物を適当に拝借するとしまして……」

 周囲をキョロキョロと見回して、使えそうな建物を探す。
 半分以上崩れた建物ばかりだけど、使えないわけじゃなさそう。
 えーと、どれにしようかしら。

「……アレでいいか」

 適当な建物に目をつけて、駆け寄る。
 ドアは無くなっているけど、まあ……そのうち何かつければいいわよね。
 入り口まで行って、中を軽く覗く。うん、人の気配は無し、と。

「誰もいないように見えるけど……アルヴァ、どう?」
「心配いらん。この建物には誰も住んでいない」
「ふーん。なら平気か」

 私が頷くと、アルヴァはちょっと驚いたような表情になる。

「なんだ。随分アッサリ信じるな」
「何よ、嘘ついたの?」
「いいや?」
「ならいいじゃない」

 変なの。私がそう思いながら見ると、アルヴァは何とも言えないような表情で私を見てきていた。

「……何?」
「フン」
「えー、何なのよ……」

 訳わかんないわ……ま、いいか。とにかく、此処が私の拠点ね。
 まずは、えーと……。

―拠点を設定しますか?―

「……ん?」

 目の前に浮かんだウインドウ。「はい」と「いいえ」の選択肢まである。
 そりゃまあ、「はい」だけど。

「何か妙な魔力の動きが……おい、何をしている?」
「何って」

 はい、を押した瞬間、アルヴァの顔が驚愕に歪む。

「うおっ、貴様何をした!?」
「拠点の設定とかいうのをしただけ、だけど」
「設定!? ゲームだかなんだかというヤツか! 貴様、そんなものを迂闊に!」

 そんな事言われても……たぶんワープの設定とかでしょ?
 深く考えなくて、も……あれ?

「あ、あれー?」

 私達の目の前。今まで崩れかけの廃墟のあった場所に、なんだか見覚えのある外観の建物が出来ている。
 3階建の、立派な洋館風の家。しっかりとした塀と門に囲まれて、防犯もバッチリな……そんな建物。
 ……えーと。

―マテリアライズ、完了。拠点設定を終了します―

「コレは……貴様のあの家だな?」
「え、えーっと……」
「恐らくだが、あの非常識な諸々も再現されているのだろうな」
「そ、そうね」
「目立ちたくないのではなかったのか?」
「……うん」
「何故迂闊に動く?」
「まさかこんな事になるとは……思わなかったっていうか……」
「バカなのか? 迂闊な行動をしないと死ぬ病か何かなのか?」
「そ、そこまで言う事はないんじゃない!?」
「そこまで言う事だバカが。このバカ。キング・オブ・バカ……いや、エンペラー・オブ・バカめ。精々、この家の防犯機能に期待するのだな。どうせ理不尽なものがついているだろう」

 う、うう……言い返せない。ていうか、そういう機能なら一言あってもいいんじゃないかしら?
 それに「いいえ」押して、また出来るとも限らなかったし……。

「あっ」
「どうした、ゴッド・オブ・バカ」
「うぐっ……! そうじゃなくて、此処ってあんまり人来ない場所でしょ? 意外と気付かれな……何よその顔!」
「呆れているのだ。あんな時空の歪む魔力が完全に検知されずに済むとでも思ったか?」
「うっ」
「恐らくだが、当代の魔王は気付いているぞ。余程のボンクラであれば気付かないかもしれんがな」

 ……どうか、ボンクラ魔王でありますように。

「とにかくやってしまったモノは仕方がない。さっさと中に入るぞ」
「うー……」

 私が触れると、視界が切り替わり……私達は、門の内側へと転移していた。
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