召喚世界のアリス

天野ハザマ

文字の大きさ
上 下
24 / 58
異界の国のアリス

王都への旅

しおりを挟む
 そして、それから数日後。私は無事に王都に到着していた。
 特に語るべきことなんてない。ものすごく順調だった。
 ……となればよかったんだけど。

「……どうしてこうなったのかしら」

 馬車に揺られながら、私は思わずそう呟く。
 ただほんのちょっと、襲われてた馬車を助けただけなのに。

「いやあ、素敵なお嬢さんだ! 人間なのがもったいないくらいだ!」
「父上、その考えは古いですよ。もはや人と魔族の間に垣根はありません。むしろ、両者が混ざり合っていく事がですね……」

 私がいるのは、魔人の商人の馬車の中。
 オークの群れに襲われていた彼等を放っておけなくて助けたんだけど……なんか気に入られて、王都まで一緒に行くことになってしまったのだ。回想終わり。

「君はどう思いますか、アリスさん?」
「え? えーっと……私、まだ子供なので……」

 やっば、聞いてなかった。
 適当に誤魔化してみると、魔人のお父さん……カーターさんの方が「そうでしょうな」と頷く。

「まだ将来のことなどを考えるのは早いでしょう。まあ、目をつけるのは分かるが……」

 本気で何の話をしてたのよ……変に答えたらヤバいやつじゃないの。
 戦慄する私をそのままに、息子さん……アゼルさんの方が少し残念そうに頷く。

「まあ、仕方ありませんね。ですがアリスさん、このまま王都に行って終わりというのも寂しいものがあります。よかったら、うちの商会と契約を結びませんか?」
「え、えーっと……」

 この状況で口出しするのは拙いということでアルヴァは黙っているけど。
 こんな時こそ相談したかったなあ。

「契約って、どんな……」
「難しいものではありません。仕事のあっせん契約ですね。私達『ノーゼン商会』から仕事を優先的に回すというだけの話です。無論、いずれは専属契約という形にもっていきたいですが……」
「そ、そうなんですか」

 うーん……たぶん私は損しないやつだと思うけど。

「ちょっと聞いてもいいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「それはまあ、アゼルさん達を助けたのは私かもしれませんけど。でも、だからってそんな……いいんですか?」

 私がそう聞くと、アゼルさんとカーターさんは顔を見合わせる。

「いい、とは?」
「私、人間ですし。それに初めて会ったような相手ですよ?」
「ああ、なるほど」

 それを聞いて、アゼルさんは納得したような表情になる。

「確かに、魔族と人間の状況はあまり良くはありません。ですが、それを良しとするのは上手くありません。特に商人としてはね。使えると思った時点で最大限に利用する。それが成功の秘訣ですから」
「父上の言う事は利益優先でアレではありますが、概ねそんな感じですね。それと付け加えれば、私は人間だの魔族だのという垣根は無駄なものだと考えています。それに、人間と魔人は色々と似ている。そうでしょう?」
「まあ、えーと……そうですね?」
「正式な契約は王都についてからにするとして、私は是非貴女と仲良くしたいと考えています……いかがですか?」

 う、うーん……。

「それに、貴方の冒険者としてのランク上げにもご協力できると」
「あ、それはいいです。ランク上げたくないので」
「そうですか。ではそれにもご協力できると思いますよ」

 即座に方向性変えてきた!? 引く気ゼロじゃないの!

「元々あっせん依頼というものは、冒険者ギルドを通さない形でも依頼できます。そうした依頼は冒険者ギルドへの貢献とはみなされませんからね。ランク上げの理由にはなりませんよ」
「そ、そうなんですか」
「それとも、もう心に決めた商会が?」
「あ、ありませんけど」
「それはよかった!」

 笑顔で迫ってくるアゼルさんから、私は思わず視線を逸らす。
 ……こういうのをリア充とか陽キャラとかいうのかしら。
 ちょっと苦手だわ……。

「あ、えーと。そういえば」
「はい?」
「今周囲を警戒してる人たちも専属契約? をしてる人達なんですか?」

 そう、今この馬車の周りには護衛をしている獣人の冒険者らしき一団がいる。
 彼等の事を口にすると、アゼルさん親子は如何にも渋い顔になってしまう。

「……いえ、町で雇ったのですがね。正直、あまり役に立ったとは……」
「彼等を専属にする気はありませんな」

 そんな事を言うアゼルさん達を前に、私は思わず「……世知辛いわ」と呟いてしまう。
 ちょっと黄昏てしまう私とアゼルさん達を乗せて、馬車は王都へと向かっていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

処理中です...