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異界の国のアリス
今後の指針
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「魔法の深淵……ねえ?」
「そうだ、魔法の深淵だ。魔法は奥深い。こればかりは、滅びようと探求をやめられない」
「滅び……」
言いかけて、私はアルヴァをじっと見る。
「そういえば、結局貴方って何なの? アストラルとか言ってたわよね」
「アストラルのことか。さっきも軽く言ったが、高度精神体だ。平たく言えば、自分の肉体を捨てるのではなく縛りを入れる事で、自分の領域を押し上げる方法だな」
「……よく分からないんだけど」
私が首を傾げると、アルヴァは机を指でコツンと叩く。
「まず、この身体はこうして物理的に干渉できるし飯も食える。だが、たとえば食事や運動によって変化する事はない。それはこの身体が魔力で構成されたものだからだ」
「女の敵みたいな身体ね」
「即物的な言い方をやめろ。ともかく、この身体は仮初のものであるということだ」
嫌そうな言い方で紅茶を飲むアルヴァを前に私はカレーを一口食べて、考える。
……まあ、確かにクローバーボムでフッ飛ばしても宝石の部分は残ってたし、何となく言いたいことは分かる。
「じゃあ、あの宝石部分が本体なの?」
「別にアレを壊されて死ぬわけではないがな」
じゃあ何なのよ、と言いたくなったのをグッとこらえる。
別に知ったからどうってわけでもないし。
「此処で大事なのは、アストラル体とは可変なものであるということだ」
「うん、そうね?」
「言ってみれば、既存の生命体の如き姿をとる必要もない。それが便利である事は事実だがな」
「幻想的な生物にもなれるってこと?」
「もしかすると、伝説上の幻獣の幾つかはそうであるかもしれないな」
楽しそうにアルヴァは言うけど、何が楽しいのかは私には分からない。
ただ迷惑なだけじゃないの。
「だが此処で大切なのは、アストラルとは生物とは言い難いということだ」
「……そうなの?」
「食わずとも生きられ、確かな肉体を持たない。生物の定義からは外れていると思うがな」
「まあ、それはそうかもしれないけど」
「ともかく、問題は其処ではない。つまりアストラルは、無生物の姿もとれるということだ」
そう言うと、アルヴァの姿は剣に変わる。なんか、ちょっと禍々しい感じのデザイン。
「剣になっても邪悪さが染み出てるわね」
「煩い。世間で言う強力なマジックアイテムの中には、こういう姿をとるアストラルが混じっている可能性もあると覚えておけばいい」
「ふーん」
そういうのが居たとして、私にあまり関係があるとも思えないんだけど。
別に強そうな剣があったから持って帰ろうなんて思わないし。
「分かっていない顔をしてるな」
「ていうか、カレー冷めるわよ」
もぐもぐとカレーを食べる私の前でアルヴァは元の姿に戻ってスプーンを掴むと、私を指す。
「貴様は分かっていない。マジックアイテムの姿をとって貴様の下に入り込もうとするアストラルがいるかもしれないと言っているんだ」
「貴方みたいに?」
「そうだ……違う! 俺はいいんだ、俺は!」
ちっとも良くないわよ。
思わずジト目になった私はアルヴァを睨みつけるけど、カレーをパクつくアルヴァは知らんぷりだ。
「まあ、いいわ。それよりこれからの話よ」
「フン、指針を決めたのか?」
「というか、決めたいの。もう言ったけど、可能な限り平穏に生きたいのよ」
「無理だと言ったはずだが」
「それでもよ」
私がそう念押しすると、アルヴァは溜息と共にカレーのスプーンを空になったお皿に置く。
「……ならば、E級冒険者であり続けるべきだろう。適当に仕事をこなし、それらしく生きろ。それでどうにかなるはずだ」
「それらしく……」
「まあ、無理だと思うがな」
「で、出来るわよ」
「どうだかな」
ハッと笑うアルヴァに、ちょっとムカッとする。出来るもん、無理じゃないもん。
「そもそもの話、魔族と人間の確執は根深い。お前の姿が人間である限り、そういった点での注目は避けられん」
「人間の国に行くのは無しだったわよね」
「魔族の国以上の面倒ごとに巻き込まれてもいいのならアリだな。あの辺りは奴隷制度も残っているから、見目が整っていれば充分に売買対象になる」
……うん、絶対行かない。
「俺には見えるぞ。うっかり攫われた後、奴隷商人を壊滅させる貴様の姿がな」
「そんなことないもん……たぶん」
自信はないけど。
「とりあえず、アルヴァの言った通りにするとして、私が最初にするべきことって何かしら?」
「そうだな……」
少し考えるような様子を見せた後、アルヴァは「拠点だな」と呟く。
「拠点? 此処じゃなくて?」
「お前が住んでいると見せかけるための拠点だ。宿ではなく、家を手に入れろ。その方が誤魔化しがきく」
……それって、もしかしなくても難しいんじゃないかしら?
「そうだ、魔法の深淵だ。魔法は奥深い。こればかりは、滅びようと探求をやめられない」
「滅び……」
言いかけて、私はアルヴァをじっと見る。
「そういえば、結局貴方って何なの? アストラルとか言ってたわよね」
「アストラルのことか。さっきも軽く言ったが、高度精神体だ。平たく言えば、自分の肉体を捨てるのではなく縛りを入れる事で、自分の領域を押し上げる方法だな」
「……よく分からないんだけど」
私が首を傾げると、アルヴァは机を指でコツンと叩く。
「まず、この身体はこうして物理的に干渉できるし飯も食える。だが、たとえば食事や運動によって変化する事はない。それはこの身体が魔力で構成されたものだからだ」
「女の敵みたいな身体ね」
「即物的な言い方をやめろ。ともかく、この身体は仮初のものであるということだ」
嫌そうな言い方で紅茶を飲むアルヴァを前に私はカレーを一口食べて、考える。
……まあ、確かにクローバーボムでフッ飛ばしても宝石の部分は残ってたし、何となく言いたいことは分かる。
「じゃあ、あの宝石部分が本体なの?」
「別にアレを壊されて死ぬわけではないがな」
じゃあ何なのよ、と言いたくなったのをグッとこらえる。
別に知ったからどうってわけでもないし。
「此処で大事なのは、アストラル体とは可変なものであるということだ」
「うん、そうね?」
「言ってみれば、既存の生命体の如き姿をとる必要もない。それが便利である事は事実だがな」
「幻想的な生物にもなれるってこと?」
「もしかすると、伝説上の幻獣の幾つかはそうであるかもしれないな」
楽しそうにアルヴァは言うけど、何が楽しいのかは私には分からない。
ただ迷惑なだけじゃないの。
「だが此処で大切なのは、アストラルとは生物とは言い難いということだ」
「……そうなの?」
「食わずとも生きられ、確かな肉体を持たない。生物の定義からは外れていると思うがな」
「まあ、それはそうかもしれないけど」
「ともかく、問題は其処ではない。つまりアストラルは、無生物の姿もとれるということだ」
そう言うと、アルヴァの姿は剣に変わる。なんか、ちょっと禍々しい感じのデザイン。
「剣になっても邪悪さが染み出てるわね」
「煩い。世間で言う強力なマジックアイテムの中には、こういう姿をとるアストラルが混じっている可能性もあると覚えておけばいい」
「ふーん」
そういうのが居たとして、私にあまり関係があるとも思えないんだけど。
別に強そうな剣があったから持って帰ろうなんて思わないし。
「分かっていない顔をしてるな」
「ていうか、カレー冷めるわよ」
もぐもぐとカレーを食べる私の前でアルヴァは元の姿に戻ってスプーンを掴むと、私を指す。
「貴様は分かっていない。マジックアイテムの姿をとって貴様の下に入り込もうとするアストラルがいるかもしれないと言っているんだ」
「貴方みたいに?」
「そうだ……違う! 俺はいいんだ、俺は!」
ちっとも良くないわよ。
思わずジト目になった私はアルヴァを睨みつけるけど、カレーをパクつくアルヴァは知らんぷりだ。
「まあ、いいわ。それよりこれからの話よ」
「フン、指針を決めたのか?」
「というか、決めたいの。もう言ったけど、可能な限り平穏に生きたいのよ」
「無理だと言ったはずだが」
「それでもよ」
私がそう念押しすると、アルヴァは溜息と共にカレーのスプーンを空になったお皿に置く。
「……ならば、E級冒険者であり続けるべきだろう。適当に仕事をこなし、それらしく生きろ。それでどうにかなるはずだ」
「それらしく……」
「まあ、無理だと思うがな」
「で、出来るわよ」
「どうだかな」
ハッと笑うアルヴァに、ちょっとムカッとする。出来るもん、無理じゃないもん。
「そもそもの話、魔族と人間の確執は根深い。お前の姿が人間である限り、そういった点での注目は避けられん」
「人間の国に行くのは無しだったわよね」
「魔族の国以上の面倒ごとに巻き込まれてもいいのならアリだな。あの辺りは奴隷制度も残っているから、見目が整っていれば充分に売買対象になる」
……うん、絶対行かない。
「俺には見えるぞ。うっかり攫われた後、奴隷商人を壊滅させる貴様の姿がな」
「そんなことないもん……たぶん」
自信はないけど。
「とりあえず、アルヴァの言った通りにするとして、私が最初にするべきことって何かしら?」
「そうだな……」
少し考えるような様子を見せた後、アルヴァは「拠点だな」と呟く。
「拠点? 此処じゃなくて?」
「お前が住んでいると見せかけるための拠点だ。宿ではなく、家を手に入れろ。その方が誤魔化しがきく」
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