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21. 夢中にさせて (1/3)

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「えっ! 試合の後、浴びたんじゃないの?」
 驚いた樹生が尋ねると、翔琉は素直に頷く。
「うん、浴びたけど。樹生さんを見たい」
玄関のほうを見遣ると、翔琉が脱ぎ散らした服が脱衣所まで道を成している。まずジャージの上、そして下。次がTシャツ。靴下を先に脱いでから下着、という順番で脱いだことが手に取るように分かる。
(……こりゃあ、だいぶしつけが必要そうだな)
「これから見るじゃん」
「俺、すごい興奮してるから。ちゃんと覚えてられるか自信ないから、今のうちにしっかり見とかなきゃと思って」
「ちゃんと、とか、しっかり、って何だよ」
 呆れ顔の樹生をよそに、翔琉は嬉しそうに樹生の服のファスナーを下し、ボタンを外し、器用に服を脱がせていく。一方、樹生は居心地悪げに身を竦める。獲物を目の前にした猟犬のようにがっついていた翔琉だが、樹生の態度が微妙なことにはすぐ気付いた。手を止めて、遠慮がちに問い掛ける。
「……樹生さん?」
「ごめん。ちょっと怖くなっちゃってさ。翔琉、ホントに男の身体抱けるのかなって」
「あぁ、そういう心配? 樹生さんが相手なら全く問題ないと思う。さっきから興奮する一方だもん。……ほら」
 杞憂きゆうだと、翔琉は、樹生の手を彼自身にそっと誘導した。
(デカッ!)
 あまりの猛々しさに、樹生は白目を剥きかけた。
「違う意味で心配になってきた。翔琉、僕の身体壊さないでね」
「大丈夫。優しくする」
「ホントに? さっきから取って食われそうなんだけど」
 疑わしげな樹生に、翔琉は照れた表情を浮かべ、困ったように口を尖らせて甘い声で囁きかける。
「だって。こんなに好きだと思ったのも自分から好きになったのも、樹生さんが初めてだから」
「……お前は口がうますぎる。人の服を脱がせるのも」
 頬を真っ赤に染めている間に、残すところ下着一枚まで脱がされた。最後のラインは樹生のほうから超えて来て欲しいと訴えるように、翔琉はじっと見ている。ひとつ息をつき、樹生は自分の下着を引き下ろした。ここまで来て今更全部見せるのは恥ずかしいなんて、男がすたる。『どうだ』とばかりに見上げると、翔琉はクスリと笑みを浮かべた。
「樹生さん、可愛い」
 一度まぶたを伏せ、樹生は、長い睫毛まつげをゆっくりと持ち上げながら、挑むように翔琉を見つめた。樹生からの能動的な誘惑は初めてだ。翔琉も「ウグッ」と頰を赤らめて固まった。今は樹生のターンだと感じているのか、翔琉もおとなしく、されるがままだ。甘えるように彼の首に腕を回して口付ける。
(翔琉が好き。大好き)
 優しく唇を合わせ、歯を立てずに甘く食むと、もう堪らなくなったのか、翔琉はすぐさま舌をねじ込もうとする。
「まだ、ダメ。おあずけ」
 焦らすように唇を離すと、翔琉は鼻を鳴らして、むしゃぶりついて来る。
「ああ……樹生さん、ずるいよ。いつもは、やらしいことなんて全く興味なさそうな清潔な顔してるのに。こんな魔性隠し持ってたなんて。俺、もう我慢できない」
 もつれながら二人はバスルームに入った。荒い呼吸の中で唇を貪り合う。長い口付けの間に、翔琉がふとに戻って呟いた。
「肌、冷えちゃったね」
 翔琉はシャワーヘッドを自分の手に持ち、温かいお湯を樹生の身体にかけ始める。樹生はボディソープを手に取り、さっと泡立てて自分の肌に乗せる。
「洗ってくれる?」
 物欲しそうに凝視する翔琉に言ってみると、嬉し恥ずかしと言わんばかりの表情を浮かべ、彼は素直にシャワーヘッドをフックに戻す。彼の大きな手が、樹生の肌の上を遠慮がちに優しく滑っていく。生卵の殻を洗おうとするかのように慎重に繊細に指先を動かし、首、肩、腕と順に丁寧にさする。
「……んっ」
 吐息交じりに小さく声をあげると、翔琉の手は大胆に這い始めた。背中を撫でおろし、脇腹へ。そしてお腹から胸へと、焦らすようにゆっくりと撫で上げる。
「っ、うん……」
 身体をよじり甘い喘ぎを漏らすと、翔琉の表情はうっとりと、一段と色気を滲ませる。
「樹生さん、すごく綺麗だ……。感じやすいんだね」
 欲情を孕む低い声で囁きかけられ、耳朶みみたぶを吐息でくすぐられる。樹生はイヤイヤをするようにかぶりを振る。
「だって、翔琉の触り方、やらしいんだもん」
「やらしいことで頭一杯だからね。ずっと堂々と樹生さんを見たかったし、触りたかった。もっと気持ち良くしてあげたい。感じてるとこ見たい」
 ひときわ繊細な指遣いで淡く色づく乳暈にゅううんに触れられると、電気が流れたように、びくっと身体が跳ねる。最初は埋もれるように小さく柔らかかった胸の中心が、熱を持ってツンと尖る。翔琉の手は胸を離れ、樹生の前と後ろに下りていく。
「……っ」
 快感を逃がしたいが手のやり場がなく、翔琉の逞しい腕の上に載せたり掴んだりと、そわそわしてしまう。
「良かった。樹生さんも反応してくれてる」
 熱を孕んだ中心を優しく撫で擦られ、ゆるく握り込まれる。翔琉の愛撫は的確に樹生を快感の波に押し上げる。後ろはと言えば、優しく双丘を撫でていたかと思えば、いつの間にか窄まりに指が近づいている。
「あ……、そこはまだ……。洗ってから。ね?」
「俺にやらせて。ちゃんとやり方、勉強して来たから」
 戸惑う樹生に優しく微笑みかけた翔琉の指先は、ためらわず樹生の蕾に触れる。羞恥にうっすら涙ぐむまなじりに口付け、厚い舌で涙を舐めとる。
「……俺、プールに落ちた樹生さんのお世話した時から惹かれてたんだ。服の上から触っても、同じ男と思えないくらい華奢で、ドキッとした。こんなはかなげな人が、俺を力一杯押したり引っ張ったりして、リハビリしてくれてたんだと思ったら、健気で愛おしくって。もう、やらしい目でしか見れなくてさ。ジロジロ見たら悪いなって自制したんだけど、服脱いでるとことか、シャワーに打たれてる後姿とか、ちょっと興奮した」
「……バカ」
「初めてハグした後、樹生さんのシャツ、皺んなってたよね。イチャイチャした後みたいだなぁってドキドキした。俺のシャツ着たとこも可愛かった。うわ、『彼シャツ』みたい! って萌えたけど、言ったら絶対怒られると思って黙ってた」
 翔琉は目を細め、声を殺して笑っている。盛り上がる胸筋と、線が入っている腹筋が揺れている。日々鍛錬を積み重ねているアスリートの肉体美に、改めて樹生は見とれた。眩しくて、よこしまな気持ちを抱いてしまいそうで、いつもこっそり盗み見るだけだった。しかし今、この見事な肉体の持ち主は樹生の恋人なのだ。
 掌を、その盛り上がった胸筋にそっと当て、中指と薬指の隙間で胸の頂を挟むと、翔琉も切なげに吐息を漏らした。
「リラックスして欲しくて、わざとアホな話してたのに。煽るなよ……」
「うん、知ってる。翔琉は優しいし、繊細だからね。でも、この身体が僕のなんだと思ったら、触りたくて」
「そうだよ。全部、樹生さんのだよ。幾らでも触って」
 ボディソープの泡で滑る身体を互いに愛撫し合う。快感に目を細める翔琉の表情に滴るような色気を感じ、ドキドキする。二人の抑え気味の悩ましい声がバスルームに響く。身体の泡をお湯で流し、窄まりへもお湯を注ぎ、中に何も残ってないのを確認した。今や二人は心も身体も準備が整った。
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