3 / 7
2 旅のはじまり
しおりを挟む
快晴の朝。待ち合わせの広場の偉人像前に、約束通りにアメアは現れた。寝不足のような顔をしていたが、昨日ほどの怯えは見られない。
「本当に大丈夫か?」
挨拶を交わしてから訊ねると、アメアは頷いた。
「覚悟を決めました」
言葉通り本当に覚悟を決めた表情をしていて、気の毒になった。ジェイスは屈んで、彼の耳元に口を寄せる。
「もし嫌になったら無理せず言ってくれ。俺が責任もってレイを説得するから」
アメアはなぜかジェイスに疑わし気な目を向けたが、大丈夫です、と言うだけだった。
「改めて、俺がジェイス。剣士……になるのか? こっちが魔導士のレイ。よろしく」
ジェイスはしがない便利屋でしかないが、剣を使うから剣士の分類になるだろうと自己紹介した。
「よろしくお願いします。この春に治療術師の資格とったばかりなんで、お役に立てるかわからないですけど……。ほんとに三人だけなんですね」
「機会があれば増やしてもいい。次は女性がいいだろう」
女性を仲間にしたいという俗っぽい発言に、ジェイスは些か驚いてレイの顔を見た。レイは笑ってジェイスと視線を合わせる。
「お前はどういう女性が好みだ? 必ずお前に釣り合うお前好みの素晴らしい女性を見付けてやろう」
眩暈がした。
「そういうのマジでいらないから」
「もしかしてすでに好きな女が居るのか?」
「いないけど!? マジでやめてくれる!?」
悲鳴のような声が出た。レイは自身が女性に興味があるのではなく、ジェイスの嫁にするために女を宛がおうとしているのだ。顔が引きつるジェイスに、アメアが戸惑いの声を上げる。
「あの……、お二人はどういう関係なんですか……?」
「わからん。とりあえずレイは雇い主ではある。俺便利屋なんだよ」
アメアがあからさまに不安げな顔をする。それはそうだろう。この少人数でこれから旅をしようと言うのに、そのうちの一人が冒険者ですらないのだ。だから言うつもりはなかったのだが、つい口が滑ってしまった。
「や、俺はともかく、レイはすげー強いから」
安心させるためにそう言うと、レイが鷹揚に頷いた。
「危険があれば守ってやるから、お前たちは心配せず修練に励むと良い」
アメアの顔は全く安心していなかった。確かにパーティ内で一番様子がおかしい人間が一番強いと言われても、あまり安心材料にはならないかもしれない。
アメアのためにも、ジェイスはできるだけ早く、強くならなければならないと思った。
ハルクスの初級ダンジョンは、よくある石壁の迷路のような場所だった。ダンジョンの難易度によって出て来る魔物のタイプは異なって、初級なら虫型、中級なら獣型、そして上級だと異形の怪物であることが多い。
ダンジョン内部は光る石が一定間隔で壁に埋め込まれており、最低限の視界は確保されている。薄暗い中、石床を進む三人分の足音が響いていた。
「お前は防御魔法は使えるか」
「簡単なものなら」
「私はお前のことも守ってやるつもりでいるが、あくまでジェイスが最優先になる。たとえば天井が崩落したとしても、自分で自分のことを守れる程度にはなってほしい」
レイのことをアメアが怪訝そうな顔で見上げる。その表情を見れば、魔法に詳しくないジェイスでもレイがいかに無茶な要求をしているのかは察せられた。治癒魔法と防御魔法では要領が違うのだろう。
「……努力します」
アメアの声と被るように、遠くからかすかにぞろぞろと足音が聞こえた。出番だとジェイスが二人の前に立つ。
「下がっててくれ」
いくらも待たずに、魔物たちが姿を現す。人の背丈ほどの大きさの蜘蛛や蟻に似た魔物に、ジェイスは石床を蹴って斬りかかって行った。
この程度の魔物なら、幾度も相手にしたことがある。何体も現れる魔物たちを、大して苦労せず次々と斬り捨てた。
現れた魔物を一掃し、剣に着いた黒い血を払って二人を振り返る。レイは満足げな顔をしていて、アメアもジェイスがそれなりに戦えることを知って安堵したようだった。
「この調子なら、オレの出番ないかもしれないですね」
「だといいな」
一行は地図を見ながら、時折現れる魔物を倒しつつ最深部を目指して進んで行った。
最深部にはボスが居るが、初級ダンジョンのボスは大概が既に倒されている。ボスを倒してダンジョンの核を破壊するのが探索の目的だが、今回のような初級ダンジョンでは核もすでに破壊されており、魔物の残党を倒すのみだ。
軽い休憩を挟みつつ三時間ほど進むと、道の先に開けた空間があった。
「ここが最深部だな」
天井も広く、声が反響して聞こえる。ここまで来ればあとは核の残骸を探して、かけらでも見つかれば幸運だ。とりあえず問題なく帰れそうだと気が楽になったところで、違和感を覚えてジェイスは辺りを見回した。
足の裏にかすかな振動を感じる。石壁が小さく震えてジジジと音がした。
「何か……」
変じゃないか。最後まで言い切ることができずに、石壁が割れる轟音が響く。
「うわっ」
飛来してくる巨石を飛び退って避ける。慌てて二人の方を窺えば、まったく反応できていないアメアをレイが小脇に抱えて、身軽に落下物をよけていた。
「レイ! 大丈夫か」
「問題ない」
石壁を破った魔物が姿を現す。それは象ほどもあろうかという巨大な蠍の姿をしていた。振り回した尾が壁にぶつかる度に、砕けた石が弾け飛ぶ。とんでもない硬さだ。
「っ、ボスです!」
顔色を失ったアメアが叫ぶ。ダンジョンの地図に記してあった、倒されたはずのボスと同じ姿をしている。
「マジかよ!」
叫びながら、ジェイスは魔物に斬りかかって行った。振るった剣は尾に跳ねのけられる。金属を殴っているような硬質な音が響いて、あまりの硬さに手が痺れた。
本体の動きは速くないが、振り回される尾が厄介だ。ジェイスが近付くことを許さず、ついでのように壁にぶち当たっては岩石が飛んでくる。レイとアメアが心配でちらちらと視線をやっていると、レイから「よそ見するな」と叱られた。
「硬すぎる! どうすりゃいいんだよ」
攻撃を避けながら硬い外皮を幾度か殴り、ついぼやきが口からこぼれた。ジェイスの剣では全く歯が立たない。そもそもボスと戦うはずではなかったのだから、予め対策なども立てていなかった。
そうしている間にも飛んできた巨石を避けるが、小さな礫までは避けきれない。細かな傷を作りながら走り回っていても、一方的に消耗するばかりだ。
「ジェイス」
意外なほど近くで、涼やかな声が聞こえた。レイが攻撃や礫を避けながら、ジェイスのすぐそばまで歩いて来ていた。
「レイ!」
その姿に気を取られた隙に、ジェイスめがけて太い毒針を持つ尾が振り下ろされる。ジェイスが反応するよりも先に、レイが冷ややかに一瞥した。
硬いものが爆ぜる音がして、尾が中ほどから千切れ飛ぶ。
あっけにとられるジェイスとは対照的に、レイは落ち着き払っていた。
「あの手合いは毒を持っている。気を付けろ」
「あ……ありがと」
お前が倒した方が早いんじゃないか? そんな言葉を何とか飲み込む。レイは魔物を倒すことが目的なのではなく、ジェイスを教育することが目的なのだ。ジェイスが散々手こずっている強度の魔物の外皮をいとも簡単に砕いて見せて、本人がこんなに強いのにジェイスが鍛える意味は一体何なんだろうと思わずにはいられない。だがそういう依頼だから、と自分に言い聞かせるしかなかった。
「借りるぞ」
黒手袋に包まれた手が、ジェイスの手から剣を受け取る。レイは刀身を己のマントで無造作に拭ってから、軽く口付けた。
途端、刀身を黒い光がパッと走り、刃全体が漆黒に染まった。錆びや酸化などとは違う。磨かれた黒曜石のように鋭く光を反射している。
「ほら」
黒く輝く剣が、ジェイスの手に戻された。
「これで何でも斬れる」
受け取った剣を片手に、半信半疑のまま再び魔物へ突っ込んでいく。気合の声を込めて振り下ろした剣は、軽やかに魔物の外皮を貫き、切り落とした。足を一本奪われた魔物が、耳障りな叫び声を上げる。
「マジだ! めちゃくちゃ斬れる!」
怒り狂って暴れる魔物の攻撃を斬ってのけ、高く跳躍すると勢いをつけて首を斬り落とした。
「っと」
魔物の巨体が石床に音を立てて崩れ落ち、ジェイスも着地する。散々硬い外皮を殴っていたせいで、まだ手が痺れていた。
「レイ」
強化の魔法だろうか。そんなものもあるのか。明るい顔でレイを振り向くと、彼も満足げに笑ってジェイスを見ていた。
「ありがと、助かった」
「よくやった」
レイの方に歩いて行くと、にわかに彼の表情が曇る。
「傷が多いな」
「あーいや、大したことないよ」
飛んでくる礫で、露出していた顔や腕に擦り傷ができていたが、それだけだ。心配されるほどのものではなかったが、レイはそうは思っていないようだった。
「アメア。早く治してやれ」
「はいっ!」
駆け寄ってきたアメアが、ジェイスに向けて両手をかざす。
「〈清晄顕現〉!」
呪文を唱えると両手の前に青白く輝く魔法陣が浮かび上がり、傷がほのかに熱を持ってからふっと消えるのがわかった。
「ありが……」
言葉の途中でふと気付く。
先ほどレイが強化の魔法を施してくれた時、彼は呪文など唱えていなかったのではないか。魔法を行使するのには呪文が必要だ。呪文を唱えることで、世界中で信仰されている光の神から力を借りるのだと、いつだったか聞いたことがある。
優秀な魔導士であれば呪文を短縮できるらしい。アメアの治癒魔法の呪文も十分省略されていた。だが、呪文の詠唱を全くせずに魔法を使うだなんて可能なのだろうか。
急に黙り込んだジェイスに、魔法に不備があったかとアメアが心配げな表情を浮かべる。ジェイスははっと我に返り、すぐに笑顔を取り繕ってアメアに礼を伝えた。
ダンジョンから外に出ると、ちょうど夕陽が沈もうとしているところだった。たまに休憩を挟んだとは言え歩き通しだったせいで、アメアなどは目に見えて疲労している。
「大丈夫か」
「なにがですか」
「疲れたんじゃないか」
「問題ないです」
戦っていたジェイスよりもはるかに疲弊している少年が心配になる。このまま夕飯を食べに行こうと思っていたが、それより体を休めた方がいいだろうと判断して、別の宿に泊まっているアメアとは今日も早々に別れることになった。
アメアほどではないにしろ、ジェイス自身も疲れている。こんな時には肉を食うに限る。唯一まったく疲れの見えない、機嫌が良さそうですらあるレイを連れて、食堂へ向かった。
本当ならもっと綺麗な店へ連れて行きたいところだったが、質より量を求める今は、こういった店のほうがちょうどよかった。雑多な店内では相変わらずレイの美麗さは浮いているが、本人は気にした様子も無い。
ジェイスが湯気を立てる分厚いステーキをがっついている一方で、レイは今日も甘いジュースを飲みながら、庶民的なケーキを食べている。ダンジョン内では簡単な携帯食料しか食べていないのに、一日動いた後でそれで足りるのか? 妖精かなんか? ジェイスはにわかに心配になる。
「レイ、そんなんで腹減らない? 大丈夫か」
長身で筋肉のついた引き締まった身体をしているレイが、さすがに妖精のような食事だけでその体を健康的に保てるとは思えない。
レイはフォークを口にくわえて、不思議そうに軽く首を傾げた。
「ステーキ食べる?」
ナイフで端を切ってやると、レイは少し戸惑った。
「肉苦手?」
「食べたことがない」
このような安い肉は食べたことがないという意味だろうか。さすがに肉そのものを食べたことがない人間が居るとは思えない。
「俺はおいしいと思うけど……」
レイの口に合うかどうか断言はできずにいると、レイはもらおう、と言ってひとかけフォークで刺した。
薄い唇に肉が運ばれて、頬と顎がもぐもぐと動く。それがなぜかいけないものを見ているような気分になってさりげなく目をそらしたが、レイの明るい声にすぐに視線を戻した。
「おいしい!」
驚いたように目を丸く開いて咀嚼している様は、やはり無垢な愛らしさがあった。いくらでも食べさせてやりたくなってくる。
「もっと食べるか?」
「お前のものを奪う気はない」
「じゃあ食べれそうな分だけ注文しよ」
なぜかむっとした顔のレイをいなして、追加で注文した。運ばれてきたステーキを美味しそうに頬張るレイを見ていると自然と頬が緩む。
「明日は」
ステーキを食べ終わって喋りだしたレイの唇に、ソースがついている。ジェイスは幼い子供にするような軽い気持ちで、手を伸ばしてソースを拭った。
「ついてる」
レイの顔が真っ赤になってそのまま硬直する。ステーキを食べるレイが子供のようだったせいで軽率に動いてしまったが、さすがに大人にすることではなかったと遅れて気が付いた。
「ごめん。明日なに?」
「あ、あした……」
レイは動揺がひどく、自分が何を喋ろうとしているのかもわからない様子だった。赤い目が潤んでいる。
迂闊な行動を申し訳なく思う気持ちと、自分の行動ひとつでこんな風になってしまう彼を可愛いと思う気持ちがジェイスの中でせめぎ合う。そしてレイを自然に可愛いと思いつつある自分にも気付いていた。
レイはジュースを飲んで一息ついてから、ようやく落ち着いて話し出した。
「次はパドストートンという港町に向かう予定だが、その前にこの町を見て回りたい。明日はまだこの町に滞在して、それから移動してもいいだろうか」
「観光? いいよ、レイの好きなようにしよう」
このハルクスは観光名所などそれこそダンジョンくらいしかない田舎町だが、レイにとっては珍しいのかもしれない。雇い主が観光したいと言うのなら、ジェイスに異論は無かった。
「パドストートンの次はブレニアに行く。そこに腕のいい鍛冶師が居るから、新しく剣を買おう」
一体どこまで計画を立てているのか空恐ろしくなりつつも、ジェイスは首を傾げる。
「ん? 俺の剣の話してる? 俺は今のでいいよ」
「だが、黒くしてしまった」
表情を見るに、どうも申し訳なく思っているらしい。だが、ジェイスはあの尋常じゃなく切れ味のよくなった剣を気に入っていた。黒曜石のように輝く刃が、己の意思そのままに何をも切り裂けるのは、爽快でさえあった。
「黒いのかっこいいよ」
「お前にふさわしくない」
「かっこいいの似合わない!?」
「そうじゃない! お前にふさわしい美しい剣がもっとあるはずだ。鍛冶師に特別な剣を造らせよう。そのためにしばらく滞在してもいい」
やんごとなき家柄の箱入り息子は発想が違う。レイはジェイスに対して夢見がちすぎるところがあると若干呆れた。
「いいって。俺はレイが強化してくれた剣がいいよ」
これがいいのだと伝えれば、レイは渋々といった様子で口を閉ざした。
翌朝、アメアの泊まる宿まで赴いて出発は明日になることを伝えてから、ジェイスとレイはハルクスを見て回った。
ジェイスにとってはどこにでもあるような広場と市場を見て回るレイは、一見無表情のようでありながら、よく見れば楽しげに目が輝いている。
純粋な子供のような顔を見せる彼を、傷付かないように守ってやらないと――相手は自分よりはるかに強いであろう魔導士なのに、そんなことを思った。
汽車に乗って港町パドストートンに着いたのは、昼過ぎだった。
三人は駅の近くで昼食を摂り、宿を確保してから、海に来ていた。今度のダンジョンは入り口が海辺にあるというのだ。
太陽の位置が高く、軽く汗ばむような陽気だった。このまま海水浴でもしたくなるが、ダンジョンが近くにある影響で水棲の魔物が現れるらしく、地元民は近寄らないようで、人気がない。
波打ち際に立つレイの背中を、少し離れた場所から眺める。風に銀髪がなびき、黒いマントがはためいていた。海は初めてなのかレイが興味深そうだったので、好きなようにさせている。
日差しを嫌ったアメアは、ジェイスの影になる方に立っていた。
「アメアはさ、結構強引に誘われたと思うんだけど、なんかやりたいこととかあった? 大丈夫か?」
視線だけはレイを追いながら訊ねる。レイは遠くを飛んでいく白い鳥を眺めていた。
「ああ、別に、オレ家出してきただけなんで大丈夫ですよ。兄さんと喧嘩して」
意外な言葉に、思わずアメアの顔を見る。彼はとくに悲しそうでも気まずそうでも怒っているでもなく、平然としていた。
「お兄さんと仲悪いのか?」
「すごくいいですよ。ちょっと良すぎて喧嘩になったんで距離置こうと思って」
「へえ」
自分のように家族と折り合いが悪いのかと思ったが、そうではないようだ。仲が良すぎて喧嘩になるというのが、ジェイスには想像がつかなかった。
「それじゃあお兄さん心配してるんじゃないか?」
アメアに離脱されたら困るが、心配するような家族が居るのに無理に連れ回すものでもない。そう思って訊ねたが、アメアはしれっと答えた。
「いいんです、一緒に居ても碌なことにならないんで……」
「そうか。まあ気が変わったらいつでも言ってくれ。仲が悪いわけじゃないんなら、そのうち帰る気になるかもしれないし。それまでは居てくれると助かる」
アメアが無表情でジェイスを見て、そうですか、と抑揚のない声で言った。いまいちどういう感情なのか分からなかった。
ひとしきり海を眺めて満足したらしいレイを連れて、ダンジョンの入り口を探しはじめる。地図を見ながら周辺をうろうろし、岩場まで見て回ったが、それらしい場所は見当たらない。
「この辺だと思うけど……これもしかして海の中か?」
ジェイスの呟きに、アメアが地図を覗き込み、周囲と見比べる。
「そうかもしれません」
「潮が引くまで待つか?」
「結構奥じゃないですか? 潮が引いても見えるかどうか」
そもそも海中にあるダンジョンの中なんて、海水で満ちているのではないか? 入口が見つかったところで、中に入れるのだろうか。
思案する二人の隣で、レイが海に向かって手を翳した。
あっと思う間もなく、激しい音を立てて海水が弾ける。雨のように海水が降り注ぐ中、露出した海底に一瞬四角い穴のようなものが見えたが、再び溜まった海水ですぐに見えなくなった。
突然海が爆発したかのような光景に心臓をばくばくさせるジェイスの顔を、レイが事もなげに覗き込んでくる。
「あったな」
「あっ……あったな……」
繊細な作りの顔をしている割に、やり方が大胆すぎる。
「いまの音なんですかぁ」
海岸に繋がる坂の上から、人が降りてくる。エプロンをした若い女性で、おそらく近くのカフェの店員のようだった。
「あー、すいません。ダンジョンの入り口を探してたんですけど」
誤魔化すように愛想笑いを浮かべるジェイスに、女性の頬が染まった。
「そうなんですね。ここ、地形が変わって、入り口が海の底に沈んじゃったので、もう入れないんですよぉ。ダンジョン目当てで来たんですか? せっかくだから観光とか、私案内するので……」
媚びるような目も、親切心だけでない下心を感じる声も、覚えがある。急に面倒になった。
視線を感じて隣を見ると、レイがこちらを見ていた。ジェイスが女性から声を掛けられて嫉妬でもしていればいいものを、目が合うとニコッと笑うものだから、どうにも理不尽な気持ちになった。
「親切にどーも、じゃあ俺たち帰りますね」
あからさまな作り笑いを女性に向けて、付け入る隙も与えず足早に歩き出す。小走りで着いてきたアメアが小声で言う。
「慣れてるんですね」
「いや、うーん、まあ、無くはない」
苦々しい顔で頷いた。
追いかけて来たレイが横に並ぶ。
「かわいらしい女性だったではないか。お前に気があるようだった。よかったのか?」
「あんたさあ、ほかになんか無いの?」
好きな相手が目の前で女にナンパされているのに? 彼は本当にジェイスを女とくっつける気で、嫉妬なんかは一切抱かないのだろうか。
レイは不思議そうな顔をしていた。
「好みでなかったか? どういう女が好みだ。言ってみろ」
「えらそーで背が高くて長い銀髪のすげー美人かな」
「わかった、探して来よう」
あてつけのつもりで言ったが、レイ本人は全くピンと来ていないようだった。代わりに隣で否応なく聞かされているアメアが物凄い顔をしていたが、レイに顔を向けているジェイスは気付かなかった。
「鏡見ろよ」
「なぜだ」
「マジで言ってる?」
「往来で痴話喧嘩すんのやめてもらえますゥ!?」
ついに耐えかねたアメアが大声で割って入る。年下の前で自分はむきになって一体何を言っていたんだと気恥ずかしくなったが、レイは至って真面目な顔で眉をひそめた。
「痴話喧嘩ではないが」
「悪い」
付き合っていると埒が明かないので、レイの言葉は遮ってアメアに謝った。
「それでどうする? ここのダンジョン入れないみたいだけど。今日はとりあえず一泊してもう次のとこ行く?」
「問題ない。中に入れないなら引きずり出せばいいだけだ。また明日来よう」
思わずレイを見るが当然のような顔をしている。彼なら、ダンジョンを破壊して魔物を引きずり出すという荒業をやってのけかねない。
対照的にアメアは青い顔をしていた。
「そんなことしたら海に魔物が溢れ出しますよ!」
「ダンジョンを破壊した時点で小物の魔物は消滅させる。ジェイスは大物を相手にすればいい」
「……もしかしてまたボスが現れるって思ってる?」
パドストートンのダンジョンは初級で、当然ボスも討伐済みのはずだ。だが、先日のハルクスでもすでに討伐されているはずのボスが出現した。ここでも同じことが起こりうるということなのか。
レイはジェイスにちらりと視線を向け、そういうこともあるかもしれない、と歯切れ悪く答えた。
「わかった、じゃあボスに備えて下調べしよう。ちょっと体休めたいし、何日か後でもいいか?」
レイが驚いたように軽く目を見開く。
「そうか。疲れるのか。そうだな、休息をとるべきだ。すまない」
疲労というものを全く失念していたような口ぶりだった。
宿は、アメアが絶対に一人部屋がいいと言うので、アメアで一部屋、ジェイスとレイで一部屋とっていた。今度はベッドルーム以外に小さな丸テーブルと椅子のスペースがある、少しだけいい部屋にした。ハルクスでは狭い部屋にレイと二人きりで落ち着かなかったし、安くて狭い部屋はあまりにもレイに似合わなかったからだ。
本当ならジェイスとレイも別々の部屋にしようかと思ったが、レイは同じ部屋に泊まることに何の問題も感じていないらしかった。旅費はすべてレイ持ちだが、さすがにそれに甘えて浪費するのは気が引けて、結局節約のためにベッドが二つあるそこそこの部屋に落ち着いたのだ。
翌日はレイが観光したいと言うので、ジェイスは情報収集がてらついて行くことにした。
初夏の日差しに白く塗られた壁の街並みが眩しく、家々の軒先には色とりどりの花が溢れている。街の中心へ近付くにつれ露店が増えていき、客を呼び込む声、どこからか聞こえてくる楽器の音、行き交う人々の会話で賑やかだった。二人の脇を、明るい声で子供たちが笑いながら駆けて行く。
陽気な雰囲気の街中で、レイの姿は浮いて見えた。一人だけ別世界の生き物のようだ。
二人はカフェの軒先にあるテーブルで、昼食として薄い生地に肉と生野菜を包み、辛みのあるソースをかけたものを食べた。
「大丈夫か?」
ジェイスにとってはちょうどいい辛さだったが、レイは息を吐きながらいかにも辛そうに食べている。彼は少し潤んだ目で頷いた。
ミルクの入った甘い飲み物を注文してやると、レイはそれをちょこちょこと飲みながら食べ進める。元々食べるのが速いジェイスは早々に完食し、レイが食べ終わるまで彼を眺めていた。
最後のひとくちを飲み込んだのを見届けて、再度問いかける。
「大丈夫?」
「おいしかった」
そう答えはしたが、その後に小さくけほ、と咳払いした。今後は刺激物には気を付けてやろうと思った。
「汗」
かいてる、と額を拭ってやろうと手を伸ばしかけ、すんでのところで留まった。またやってしまうところだった。何か拭くものはと探すが、あいにくハンカチなどは持ち歩いていない。
レイは手首でぐいと額を拭った。
「色々と美味しいものがあるのだな」
「そうだな。夜は海鮮にしないか? 海辺の街だからきっとおいしいぞ」
「ああ」
勧めなければ何も食べないが、勧めればレイは何でも食べる。そしてそのどれもに新鮮な反応をするものだから、美味しいものをあれこれ勧めたくなるのだった。
それからまた街を眺めつつ歩いていると、少し遠く、建物の向こうに突き出した尖った屋根が見えた。その天辺に光の神のシンボルである光輪のマークが輝いている。ジェイスの視線を追って、レイもそれに気付いた。
「教会か。少し見に行ってもいいか」
「いいよ。行こう」
レイが教会に行きたいというのは意外だった。信心深そうには見えない。これも観光の一環かもしれなかった。
近くで見上げる教会は大きく、白い壁に施された金の装飾の豪華さに圧倒された。
「すごいな」
「聖フィアメッタ教会」
門の脇に掲げられた名前をレイが読み上げると、門の向こうから明るい声がした。
「そうなんです! 聖女フィアメッタ様からお名前を頂きました! ご存じですか? 百年前、勇者と共に旅をし、魔王を討った聖女フィアメッタ様はこの教会の出身だったのです!」
「へえ」
イキイキと喋りだすシスターに生返事をする。だからこんなにも立派な建物なのかと納得した。
「どうぞ中までご覧ください! 夕方からはミサもありますよ」
てっきり興味を持つかとレイを窺うと、彼は鼻白んだ様子で、結構だ、と返した。
すぐにマントを翻して去って行こうとするので、ジェイスは慌てて追いかけた。
「レイ? 中まで見なくてよかったのか?」
「いい」
冷たい横顔は、本当に興味が無さそうだった。
街中を見て回っていた時はあんなに楽しそうだったのに。最初に見たいと言ったのはレイなのだから、教会が嫌いというわけでもないだろう。
彼が興味を持つものと持たないもの、その差異がわからずにジェイスは内心首を傾げた。
それから、パドストートンの名産品を食べたり、ダンジョンのボスについて調べたりして三日を過ごし、いよいよ海中のダンジョンに挑む日となった。
明け方、ふと気配を感じてぼんやりと意識が浮上する。優しい手が頭を撫でていた。レイだ。
眠気に抗ってうっすらと目を開けば、予想に違わず枕元に美しい男が腰かけている。身に纏う白いシャツは宿の安い寝間着だというのに、肩に流れる銀髪がカーテン越しの朝日に照らされている姿に神聖ささえ感じた。
ジェイスを見下ろす赤い目は慈愛に満ちている。
このひと何でこんなに俺を好きなんだ?
何もわからないのに、その手を心地よく感じる。
「すまない、起こしたか」
「いや……」
答えるうちにまた眠気が襲ってきて、瞼が重くなる。
次に目を開けた時にはすでに陽が昇っていて、レイも枕元には居なかった。彼はすでに着替えを終えて、何事もなかったような顔で椅子に腰かけて頬杖をついていたから、ジェイスも素知らぬ顔で挨拶をする。
身支度を整えてアメアと合流し、朝食を摂ってから海へと向かった。
「邪魔が入らないように結界を張る。ダンジョンを破壊するからお前たちは下がっていろ」
レイは海の前に立ち、海中のダンジョンへ向けて手をかざした。ジェイスとアメアは十分後ろに下がり、アメアが念のために二人の前に防御魔法で障壁を生み出す。
「行くぞ」
厳かに告げるレイの声と共に、爆発音がして海が抉れ、揺れる地面にたたらを踏んだ。ダンジョンの天井である海底がばきばきと割れ、巨大な影が姿を現す。
「くらげ状の魔物……」
アメアが小さく呟く。半透明の体に、うねる無数の触手。やはり、下調べしておいたボスの特徴と一致していた。
「行ってくる」
ジェイスは黒い剣を握り、魔物へ向かって飛び出して行った。
そこかしこで水しぶきが上がっているのは、レイが小物を殲滅しているせいだろう。
海水を掻き分けて行くのは足が重く、動きにくい。しかし触手をしならせて攻撃してくる魔物を前にして、のんびりしてなどいられない。
ひざ下まで浸かった水をざぶざぶと蹴りながら、ジェイスは攻撃を避けて飛び回り、隙を見ては触手を斬り落とした。触手が海に落下しては、また新しく生えてくる。きりがない。
魔物は頭を斬り落とすか心臓とも言える核を破壊しなければならないが、この魔物は頭部がどこなのかいまいちわからない。半透明の体だが、中心部にいくに従って白濁していくせいで、核がどこにあるのかも視認できなかった。
以前倒されたボスの記録によると、体の中心部に核があるらしい。しかしこの巨体の中心部まで切り裂くのに、ジェイスの剣で届くだろうか。
わからないが、やってみるしかない。
ジェイスは触手を蹴って魔物の巨体に駆け上がろうとしたが、ぬめる触手に足をとられて海中に落下した。
げ、と呻くのに、ごぼりと空気が漏れて海面へ浮かんでいく。着衣の上、片手に剣を握ったままで泳ぎにくいが、何とか海面に顔を出した。
「しょっぱ」
呟いて、浅瀬へと向かう。そんな隙だらけの姿を見逃してくれるはずもなく、空中から迫る触手が、目前で弾かれた。
「ジェイス。怪我は無いか?」
「平気だ。ありがと」
またレイに助けられてしまった。早く一人で戦えるようになりたい。しかしいくら初級ダンジョンであっても、本来ボスなんて一人で挑むものではない。考えないことにした。
すっかり濡れて重くなった服が纏わりついて鬱陶しい。
ふと、ジェイスは握っていた剣へ目を落とした。
レイが強化してくれた黒い剣。何でも斬れると言っていた。――なんでも斬れる?
ジェイスは気合の掛け声と共に、思い切り振りかぶった剣を、魔物へ向けて振り下ろした。届くはずのない距離だったその切っ先はしかし、魔物の触手と体の斜め上を切り裂いた。遅れて、少し遠くで何かが爆ぜるような音が聞こえたのは、斬撃がレイの生み出した結界に弾かれたらしい。
何も考えずに剣を振るったら、本当に無制限にどこまでも斬れてしまいそうでぞっとした。今は結界があったからいいものの、そうでなかったらどこかに被害が出ていたかもしれない。
ジェイスは触手の猛攻を避けながら、遠くから魔物に向けて剣を振り下ろし、あるいは斬り上げる。剣はジェイスの意思に応えるように、斬撃が届く範囲を自在に変えた。
しかしなかなか距離感が掴めず、しかも怒れる魔物はじっとしていてなどくれない。中途半端に斬り付けては、触手に薙ぎ払われそうになるのを避け、また足をとられて浅瀬で転ぶ。転がった勢いのまま起き上がり、今度こそと感覚を調整し、剣を振り下ろした。
魔物の巨体が鮮やかに両断される。中央部で守られていた核が砕ける音がかすかに聞こえて、魔物は一気に水になって海水へと流れ落ちた。
荒い息を吐きながらしばらく様子を窺うが、最早穏やかな波の音が聞こえるばかりだ。気付けばレイの方も片付いていたらしい。
「終わった……?」
「よくやった」
にこにこと機嫌の良さそうなレイが近付いて来る。ジェイスは深々と溜息を吐き、その場にしゃがみ込んだ。
「は~……疲れた~……」
濡れた衣服は重いし、水には足をとられるし。普通に戦うより何倍も疲れてしまった。
ジェイスの様子に、途端にレイが険しい顔になってアメアを呼びつける。
「アメア! 疲労回復の魔法はないのか?」
「あるにはありますけど、こんなとこで使っても大して意味ないですよ。治癒魔法って本人の体力を削って、怪我を治すスピードを速くするようなものなので。疲労回復させたところで結局体力を使ってしまうんです」
レイが眉根を寄せて、ジェイスを見る。
「ジェイス。宿まで運んでやろうか」
「いや!? いいよ、大丈夫、ぜんぜん歩ける」
「無理はするな」
「大丈夫だって!」
レイはジェイスよりは背が低いが、その気になったら本当にジェイス一人くらい抱えて歩けるだろう気がした。そんな事態は御免こうむりたい。あの人通りの中を、大の男が抱えられて歩くだなんて。
ジェイスは立ち上がってシャツの裾を絞り、体についた細かな汚れを払ってから、帰ろう、と言った。
レイの様子がおかしくなったのは、一旦帰ってシャワーを浴びた後あたりからだ。
晴天で歩いているうちにある程度乾いたものの、ジェイスとレイの二人は海水で全身がベタベタで、先にレイにシャワーを使わせた。それからジェイスがシャワーを浴びてシャワールームから出ると、レイがベッドに腰掛けて俯いていた。
「レイ? 大丈夫か?」
これまでどんなに動いても一人平然としていたレイだが、今はぐったりとしている。疲れたのかと思って顔を覗き込むが、彼はきつく眉根を寄せて、険しい顔をしていた。
「具合悪いのか?」
「何かいやな感じがする……」
小さな声でそう呟いた後、ぐらりと体が傾いだ。
「レイ!」
咄嗟にその体を受け止める。
「レイ、大丈夫か!?」
呼びかけても反応はない。もしかして気付かない内に怪我でもしていたのか、はたまた魔物の毒でも受けてしまったのか。あるいは、ジェイスが手助けして貰ってばかりだから、負担がかかっていたのかもしれない。
ジェイスはひどく焦りながらも、体に障らないようゆっくりゆっくりその体をベッドに横たえ、慌てて隣室のアメアを呼びに行った。
「急に様子がおかしくなったんだ。なんか嫌な感じがするって言って倒れて」
焦って説明するジェイスの横で、アメアがレイを覗き込む。一瞬怪訝そうな顔をしてから脈拍と呼吸を確認し、手首を掴んで呪文を唱えると、手首を囲むように小さな魔法陣が現れた。その状態で全身に視線を走らせ、手を離すと魔法陣はふっと消失した。
「寝てます」
「え?」
「寝てるだけです」
突然倒れたのに? 納得していないのが顔に現れていたのか、アメアが苦々しい声で説明する。
「どこも悪くないです。悪い場所があれば反応する魔法で確認しましたが、問題ありません。寝てます」
「いやな感じがするって……」
アメアは渋い顔でしばらく躊躇ってから言った。
「……赤子は、眠気を不快に感じてぐずると聞いたことが……」
「赤ちゃんってこと!?」
予想外の言葉に大声が出てしまった。
そんなことがあるだろうか。いくらなんでも無理がないか。確かに一般常識に欠けるところはあるし、何を食べても新鮮に喜ぶ姿は子供のようでかわいらしいと思った。思ったが、どう見ても二十代の青年にしか見えないレイが赤子のわけはないし、赤子ほど睡眠に慣れていないはずがない。
混乱するジェイスの耳に、小さな呻きが届いた。
「ぅ……」
「レイ!」
横たわっていたレイが身動ぎして、目を覚ます。彼は不快気な顔で何度も目を瞬いた。
「大丈夫か? 寝てたみたいだけど」
「寝ていた?」
レイは体を起こし、目元を押さえる。
「……この体は睡眠が必要なのか。面倒だな……。迷惑をかけた」
まるで初めて眠ったかのような言い草だった。普段なら一番突っ込みそうなアメアは何故か黙っている。
不意に、明け方にジェイスの枕元にレイが座っていたことを思い出す。あれはもしかして、たまたまあの時に目覚めていたとか早起きしたとかではなく、常に夜通し起きていたのだろうか。そういえばいつもジェイスが先に就寝していて、レイが眠っているところは見たことがなかった。
「よくわかんないけど、眠いなら寝た方がいいよ。もう少し休む?」
レイはのろのろと顔を上げてジェイスを見た。目が眠そうだが、表情を歪めている。
「この感じいやだ……」
「眠れるまで傍に居るから」
宥めるように肩を擦りながら、横になるのを手伝ってやる。
「オレ出てますね」
アメアは眠りやすいようカーテンを閉めてさっさと出て行き、部屋には二人だけが残された。
まだ何か小さなうめき声をあげているレイは、本当にぐずる子供のようだった。落ち着かせるように手を握ってやる。シャワーを浴びた後なのに、やはり今もいつもの黒手袋をしていた。
「大丈夫大丈夫、傍に居るよ」
「ん……」
ゆるゆると瞼が下りては抵抗するように開くのを繰り返していたが、縋るように握っていた手から力が抜けて、ついに眠りに落ちたのがわかった。
寝顔は静謐な美しさを湛えていて、その長い睫毛を見るとはなしに見ながら、出逢ってからの彼の姿を思い返す。
箍の外れたような発言、詠唱のない強力な魔法、一般常識に欠ける振る舞い。誰もが目を奪われる人間離れした美しい容姿。
もし彼が人間でないと言われても信じられるな。そんなことを考えた。
「本当に大丈夫か?」
挨拶を交わしてから訊ねると、アメアは頷いた。
「覚悟を決めました」
言葉通り本当に覚悟を決めた表情をしていて、気の毒になった。ジェイスは屈んで、彼の耳元に口を寄せる。
「もし嫌になったら無理せず言ってくれ。俺が責任もってレイを説得するから」
アメアはなぜかジェイスに疑わし気な目を向けたが、大丈夫です、と言うだけだった。
「改めて、俺がジェイス。剣士……になるのか? こっちが魔導士のレイ。よろしく」
ジェイスはしがない便利屋でしかないが、剣を使うから剣士の分類になるだろうと自己紹介した。
「よろしくお願いします。この春に治療術師の資格とったばかりなんで、お役に立てるかわからないですけど……。ほんとに三人だけなんですね」
「機会があれば増やしてもいい。次は女性がいいだろう」
女性を仲間にしたいという俗っぽい発言に、ジェイスは些か驚いてレイの顔を見た。レイは笑ってジェイスと視線を合わせる。
「お前はどういう女性が好みだ? 必ずお前に釣り合うお前好みの素晴らしい女性を見付けてやろう」
眩暈がした。
「そういうのマジでいらないから」
「もしかしてすでに好きな女が居るのか?」
「いないけど!? マジでやめてくれる!?」
悲鳴のような声が出た。レイは自身が女性に興味があるのではなく、ジェイスの嫁にするために女を宛がおうとしているのだ。顔が引きつるジェイスに、アメアが戸惑いの声を上げる。
「あの……、お二人はどういう関係なんですか……?」
「わからん。とりあえずレイは雇い主ではある。俺便利屋なんだよ」
アメアがあからさまに不安げな顔をする。それはそうだろう。この少人数でこれから旅をしようと言うのに、そのうちの一人が冒険者ですらないのだ。だから言うつもりはなかったのだが、つい口が滑ってしまった。
「や、俺はともかく、レイはすげー強いから」
安心させるためにそう言うと、レイが鷹揚に頷いた。
「危険があれば守ってやるから、お前たちは心配せず修練に励むと良い」
アメアの顔は全く安心していなかった。確かにパーティ内で一番様子がおかしい人間が一番強いと言われても、あまり安心材料にはならないかもしれない。
アメアのためにも、ジェイスはできるだけ早く、強くならなければならないと思った。
ハルクスの初級ダンジョンは、よくある石壁の迷路のような場所だった。ダンジョンの難易度によって出て来る魔物のタイプは異なって、初級なら虫型、中級なら獣型、そして上級だと異形の怪物であることが多い。
ダンジョン内部は光る石が一定間隔で壁に埋め込まれており、最低限の視界は確保されている。薄暗い中、石床を進む三人分の足音が響いていた。
「お前は防御魔法は使えるか」
「簡単なものなら」
「私はお前のことも守ってやるつもりでいるが、あくまでジェイスが最優先になる。たとえば天井が崩落したとしても、自分で自分のことを守れる程度にはなってほしい」
レイのことをアメアが怪訝そうな顔で見上げる。その表情を見れば、魔法に詳しくないジェイスでもレイがいかに無茶な要求をしているのかは察せられた。治癒魔法と防御魔法では要領が違うのだろう。
「……努力します」
アメアの声と被るように、遠くからかすかにぞろぞろと足音が聞こえた。出番だとジェイスが二人の前に立つ。
「下がっててくれ」
いくらも待たずに、魔物たちが姿を現す。人の背丈ほどの大きさの蜘蛛や蟻に似た魔物に、ジェイスは石床を蹴って斬りかかって行った。
この程度の魔物なら、幾度も相手にしたことがある。何体も現れる魔物たちを、大して苦労せず次々と斬り捨てた。
現れた魔物を一掃し、剣に着いた黒い血を払って二人を振り返る。レイは満足げな顔をしていて、アメアもジェイスがそれなりに戦えることを知って安堵したようだった。
「この調子なら、オレの出番ないかもしれないですね」
「だといいな」
一行は地図を見ながら、時折現れる魔物を倒しつつ最深部を目指して進んで行った。
最深部にはボスが居るが、初級ダンジョンのボスは大概が既に倒されている。ボスを倒してダンジョンの核を破壊するのが探索の目的だが、今回のような初級ダンジョンでは核もすでに破壊されており、魔物の残党を倒すのみだ。
軽い休憩を挟みつつ三時間ほど進むと、道の先に開けた空間があった。
「ここが最深部だな」
天井も広く、声が反響して聞こえる。ここまで来ればあとは核の残骸を探して、かけらでも見つかれば幸運だ。とりあえず問題なく帰れそうだと気が楽になったところで、違和感を覚えてジェイスは辺りを見回した。
足の裏にかすかな振動を感じる。石壁が小さく震えてジジジと音がした。
「何か……」
変じゃないか。最後まで言い切ることができずに、石壁が割れる轟音が響く。
「うわっ」
飛来してくる巨石を飛び退って避ける。慌てて二人の方を窺えば、まったく反応できていないアメアをレイが小脇に抱えて、身軽に落下物をよけていた。
「レイ! 大丈夫か」
「問題ない」
石壁を破った魔物が姿を現す。それは象ほどもあろうかという巨大な蠍の姿をしていた。振り回した尾が壁にぶつかる度に、砕けた石が弾け飛ぶ。とんでもない硬さだ。
「っ、ボスです!」
顔色を失ったアメアが叫ぶ。ダンジョンの地図に記してあった、倒されたはずのボスと同じ姿をしている。
「マジかよ!」
叫びながら、ジェイスは魔物に斬りかかって行った。振るった剣は尾に跳ねのけられる。金属を殴っているような硬質な音が響いて、あまりの硬さに手が痺れた。
本体の動きは速くないが、振り回される尾が厄介だ。ジェイスが近付くことを許さず、ついでのように壁にぶち当たっては岩石が飛んでくる。レイとアメアが心配でちらちらと視線をやっていると、レイから「よそ見するな」と叱られた。
「硬すぎる! どうすりゃいいんだよ」
攻撃を避けながら硬い外皮を幾度か殴り、ついぼやきが口からこぼれた。ジェイスの剣では全く歯が立たない。そもそもボスと戦うはずではなかったのだから、予め対策なども立てていなかった。
そうしている間にも飛んできた巨石を避けるが、小さな礫までは避けきれない。細かな傷を作りながら走り回っていても、一方的に消耗するばかりだ。
「ジェイス」
意外なほど近くで、涼やかな声が聞こえた。レイが攻撃や礫を避けながら、ジェイスのすぐそばまで歩いて来ていた。
「レイ!」
その姿に気を取られた隙に、ジェイスめがけて太い毒針を持つ尾が振り下ろされる。ジェイスが反応するよりも先に、レイが冷ややかに一瞥した。
硬いものが爆ぜる音がして、尾が中ほどから千切れ飛ぶ。
あっけにとられるジェイスとは対照的に、レイは落ち着き払っていた。
「あの手合いは毒を持っている。気を付けろ」
「あ……ありがと」
お前が倒した方が早いんじゃないか? そんな言葉を何とか飲み込む。レイは魔物を倒すことが目的なのではなく、ジェイスを教育することが目的なのだ。ジェイスが散々手こずっている強度の魔物の外皮をいとも簡単に砕いて見せて、本人がこんなに強いのにジェイスが鍛える意味は一体何なんだろうと思わずにはいられない。だがそういう依頼だから、と自分に言い聞かせるしかなかった。
「借りるぞ」
黒手袋に包まれた手が、ジェイスの手から剣を受け取る。レイは刀身を己のマントで無造作に拭ってから、軽く口付けた。
途端、刀身を黒い光がパッと走り、刃全体が漆黒に染まった。錆びや酸化などとは違う。磨かれた黒曜石のように鋭く光を反射している。
「ほら」
黒く輝く剣が、ジェイスの手に戻された。
「これで何でも斬れる」
受け取った剣を片手に、半信半疑のまま再び魔物へ突っ込んでいく。気合の声を込めて振り下ろした剣は、軽やかに魔物の外皮を貫き、切り落とした。足を一本奪われた魔物が、耳障りな叫び声を上げる。
「マジだ! めちゃくちゃ斬れる!」
怒り狂って暴れる魔物の攻撃を斬ってのけ、高く跳躍すると勢いをつけて首を斬り落とした。
「っと」
魔物の巨体が石床に音を立てて崩れ落ち、ジェイスも着地する。散々硬い外皮を殴っていたせいで、まだ手が痺れていた。
「レイ」
強化の魔法だろうか。そんなものもあるのか。明るい顔でレイを振り向くと、彼も満足げに笑ってジェイスを見ていた。
「ありがと、助かった」
「よくやった」
レイの方に歩いて行くと、にわかに彼の表情が曇る。
「傷が多いな」
「あーいや、大したことないよ」
飛んでくる礫で、露出していた顔や腕に擦り傷ができていたが、それだけだ。心配されるほどのものではなかったが、レイはそうは思っていないようだった。
「アメア。早く治してやれ」
「はいっ!」
駆け寄ってきたアメアが、ジェイスに向けて両手をかざす。
「〈清晄顕現〉!」
呪文を唱えると両手の前に青白く輝く魔法陣が浮かび上がり、傷がほのかに熱を持ってからふっと消えるのがわかった。
「ありが……」
言葉の途中でふと気付く。
先ほどレイが強化の魔法を施してくれた時、彼は呪文など唱えていなかったのではないか。魔法を行使するのには呪文が必要だ。呪文を唱えることで、世界中で信仰されている光の神から力を借りるのだと、いつだったか聞いたことがある。
優秀な魔導士であれば呪文を短縮できるらしい。アメアの治癒魔法の呪文も十分省略されていた。だが、呪文の詠唱を全くせずに魔法を使うだなんて可能なのだろうか。
急に黙り込んだジェイスに、魔法に不備があったかとアメアが心配げな表情を浮かべる。ジェイスははっと我に返り、すぐに笑顔を取り繕ってアメアに礼を伝えた。
ダンジョンから外に出ると、ちょうど夕陽が沈もうとしているところだった。たまに休憩を挟んだとは言え歩き通しだったせいで、アメアなどは目に見えて疲労している。
「大丈夫か」
「なにがですか」
「疲れたんじゃないか」
「問題ないです」
戦っていたジェイスよりもはるかに疲弊している少年が心配になる。このまま夕飯を食べに行こうと思っていたが、それより体を休めた方がいいだろうと判断して、別の宿に泊まっているアメアとは今日も早々に別れることになった。
アメアほどではないにしろ、ジェイス自身も疲れている。こんな時には肉を食うに限る。唯一まったく疲れの見えない、機嫌が良さそうですらあるレイを連れて、食堂へ向かった。
本当ならもっと綺麗な店へ連れて行きたいところだったが、質より量を求める今は、こういった店のほうがちょうどよかった。雑多な店内では相変わらずレイの美麗さは浮いているが、本人は気にした様子も無い。
ジェイスが湯気を立てる分厚いステーキをがっついている一方で、レイは今日も甘いジュースを飲みながら、庶民的なケーキを食べている。ダンジョン内では簡単な携帯食料しか食べていないのに、一日動いた後でそれで足りるのか? 妖精かなんか? ジェイスはにわかに心配になる。
「レイ、そんなんで腹減らない? 大丈夫か」
長身で筋肉のついた引き締まった身体をしているレイが、さすがに妖精のような食事だけでその体を健康的に保てるとは思えない。
レイはフォークを口にくわえて、不思議そうに軽く首を傾げた。
「ステーキ食べる?」
ナイフで端を切ってやると、レイは少し戸惑った。
「肉苦手?」
「食べたことがない」
このような安い肉は食べたことがないという意味だろうか。さすがに肉そのものを食べたことがない人間が居るとは思えない。
「俺はおいしいと思うけど……」
レイの口に合うかどうか断言はできずにいると、レイはもらおう、と言ってひとかけフォークで刺した。
薄い唇に肉が運ばれて、頬と顎がもぐもぐと動く。それがなぜかいけないものを見ているような気分になってさりげなく目をそらしたが、レイの明るい声にすぐに視線を戻した。
「おいしい!」
驚いたように目を丸く開いて咀嚼している様は、やはり無垢な愛らしさがあった。いくらでも食べさせてやりたくなってくる。
「もっと食べるか?」
「お前のものを奪う気はない」
「じゃあ食べれそうな分だけ注文しよ」
なぜかむっとした顔のレイをいなして、追加で注文した。運ばれてきたステーキを美味しそうに頬張るレイを見ていると自然と頬が緩む。
「明日は」
ステーキを食べ終わって喋りだしたレイの唇に、ソースがついている。ジェイスは幼い子供にするような軽い気持ちで、手を伸ばしてソースを拭った。
「ついてる」
レイの顔が真っ赤になってそのまま硬直する。ステーキを食べるレイが子供のようだったせいで軽率に動いてしまったが、さすがに大人にすることではなかったと遅れて気が付いた。
「ごめん。明日なに?」
「あ、あした……」
レイは動揺がひどく、自分が何を喋ろうとしているのかもわからない様子だった。赤い目が潤んでいる。
迂闊な行動を申し訳なく思う気持ちと、自分の行動ひとつでこんな風になってしまう彼を可愛いと思う気持ちがジェイスの中でせめぎ合う。そしてレイを自然に可愛いと思いつつある自分にも気付いていた。
レイはジュースを飲んで一息ついてから、ようやく落ち着いて話し出した。
「次はパドストートンという港町に向かう予定だが、その前にこの町を見て回りたい。明日はまだこの町に滞在して、それから移動してもいいだろうか」
「観光? いいよ、レイの好きなようにしよう」
このハルクスは観光名所などそれこそダンジョンくらいしかない田舎町だが、レイにとっては珍しいのかもしれない。雇い主が観光したいと言うのなら、ジェイスに異論は無かった。
「パドストートンの次はブレニアに行く。そこに腕のいい鍛冶師が居るから、新しく剣を買おう」
一体どこまで計画を立てているのか空恐ろしくなりつつも、ジェイスは首を傾げる。
「ん? 俺の剣の話してる? 俺は今のでいいよ」
「だが、黒くしてしまった」
表情を見るに、どうも申し訳なく思っているらしい。だが、ジェイスはあの尋常じゃなく切れ味のよくなった剣を気に入っていた。黒曜石のように輝く刃が、己の意思そのままに何をも切り裂けるのは、爽快でさえあった。
「黒いのかっこいいよ」
「お前にふさわしくない」
「かっこいいの似合わない!?」
「そうじゃない! お前にふさわしい美しい剣がもっとあるはずだ。鍛冶師に特別な剣を造らせよう。そのためにしばらく滞在してもいい」
やんごとなき家柄の箱入り息子は発想が違う。レイはジェイスに対して夢見がちすぎるところがあると若干呆れた。
「いいって。俺はレイが強化してくれた剣がいいよ」
これがいいのだと伝えれば、レイは渋々といった様子で口を閉ざした。
翌朝、アメアの泊まる宿まで赴いて出発は明日になることを伝えてから、ジェイスとレイはハルクスを見て回った。
ジェイスにとってはどこにでもあるような広場と市場を見て回るレイは、一見無表情のようでありながら、よく見れば楽しげに目が輝いている。
純粋な子供のような顔を見せる彼を、傷付かないように守ってやらないと――相手は自分よりはるかに強いであろう魔導士なのに、そんなことを思った。
汽車に乗って港町パドストートンに着いたのは、昼過ぎだった。
三人は駅の近くで昼食を摂り、宿を確保してから、海に来ていた。今度のダンジョンは入り口が海辺にあるというのだ。
太陽の位置が高く、軽く汗ばむような陽気だった。このまま海水浴でもしたくなるが、ダンジョンが近くにある影響で水棲の魔物が現れるらしく、地元民は近寄らないようで、人気がない。
波打ち際に立つレイの背中を、少し離れた場所から眺める。風に銀髪がなびき、黒いマントがはためいていた。海は初めてなのかレイが興味深そうだったので、好きなようにさせている。
日差しを嫌ったアメアは、ジェイスの影になる方に立っていた。
「アメアはさ、結構強引に誘われたと思うんだけど、なんかやりたいこととかあった? 大丈夫か?」
視線だけはレイを追いながら訊ねる。レイは遠くを飛んでいく白い鳥を眺めていた。
「ああ、別に、オレ家出してきただけなんで大丈夫ですよ。兄さんと喧嘩して」
意外な言葉に、思わずアメアの顔を見る。彼はとくに悲しそうでも気まずそうでも怒っているでもなく、平然としていた。
「お兄さんと仲悪いのか?」
「すごくいいですよ。ちょっと良すぎて喧嘩になったんで距離置こうと思って」
「へえ」
自分のように家族と折り合いが悪いのかと思ったが、そうではないようだ。仲が良すぎて喧嘩になるというのが、ジェイスには想像がつかなかった。
「それじゃあお兄さん心配してるんじゃないか?」
アメアに離脱されたら困るが、心配するような家族が居るのに無理に連れ回すものでもない。そう思って訊ねたが、アメアはしれっと答えた。
「いいんです、一緒に居ても碌なことにならないんで……」
「そうか。まあ気が変わったらいつでも言ってくれ。仲が悪いわけじゃないんなら、そのうち帰る気になるかもしれないし。それまでは居てくれると助かる」
アメアが無表情でジェイスを見て、そうですか、と抑揚のない声で言った。いまいちどういう感情なのか分からなかった。
ひとしきり海を眺めて満足したらしいレイを連れて、ダンジョンの入り口を探しはじめる。地図を見ながら周辺をうろうろし、岩場まで見て回ったが、それらしい場所は見当たらない。
「この辺だと思うけど……これもしかして海の中か?」
ジェイスの呟きに、アメアが地図を覗き込み、周囲と見比べる。
「そうかもしれません」
「潮が引くまで待つか?」
「結構奥じゃないですか? 潮が引いても見えるかどうか」
そもそも海中にあるダンジョンの中なんて、海水で満ちているのではないか? 入口が見つかったところで、中に入れるのだろうか。
思案する二人の隣で、レイが海に向かって手を翳した。
あっと思う間もなく、激しい音を立てて海水が弾ける。雨のように海水が降り注ぐ中、露出した海底に一瞬四角い穴のようなものが見えたが、再び溜まった海水ですぐに見えなくなった。
突然海が爆発したかのような光景に心臓をばくばくさせるジェイスの顔を、レイが事もなげに覗き込んでくる。
「あったな」
「あっ……あったな……」
繊細な作りの顔をしている割に、やり方が大胆すぎる。
「いまの音なんですかぁ」
海岸に繋がる坂の上から、人が降りてくる。エプロンをした若い女性で、おそらく近くのカフェの店員のようだった。
「あー、すいません。ダンジョンの入り口を探してたんですけど」
誤魔化すように愛想笑いを浮かべるジェイスに、女性の頬が染まった。
「そうなんですね。ここ、地形が変わって、入り口が海の底に沈んじゃったので、もう入れないんですよぉ。ダンジョン目当てで来たんですか? せっかくだから観光とか、私案内するので……」
媚びるような目も、親切心だけでない下心を感じる声も、覚えがある。急に面倒になった。
視線を感じて隣を見ると、レイがこちらを見ていた。ジェイスが女性から声を掛けられて嫉妬でもしていればいいものを、目が合うとニコッと笑うものだから、どうにも理不尽な気持ちになった。
「親切にどーも、じゃあ俺たち帰りますね」
あからさまな作り笑いを女性に向けて、付け入る隙も与えず足早に歩き出す。小走りで着いてきたアメアが小声で言う。
「慣れてるんですね」
「いや、うーん、まあ、無くはない」
苦々しい顔で頷いた。
追いかけて来たレイが横に並ぶ。
「かわいらしい女性だったではないか。お前に気があるようだった。よかったのか?」
「あんたさあ、ほかになんか無いの?」
好きな相手が目の前で女にナンパされているのに? 彼は本当にジェイスを女とくっつける気で、嫉妬なんかは一切抱かないのだろうか。
レイは不思議そうな顔をしていた。
「好みでなかったか? どういう女が好みだ。言ってみろ」
「えらそーで背が高くて長い銀髪のすげー美人かな」
「わかった、探して来よう」
あてつけのつもりで言ったが、レイ本人は全くピンと来ていないようだった。代わりに隣で否応なく聞かされているアメアが物凄い顔をしていたが、レイに顔を向けているジェイスは気付かなかった。
「鏡見ろよ」
「なぜだ」
「マジで言ってる?」
「往来で痴話喧嘩すんのやめてもらえますゥ!?」
ついに耐えかねたアメアが大声で割って入る。年下の前で自分はむきになって一体何を言っていたんだと気恥ずかしくなったが、レイは至って真面目な顔で眉をひそめた。
「痴話喧嘩ではないが」
「悪い」
付き合っていると埒が明かないので、レイの言葉は遮ってアメアに謝った。
「それでどうする? ここのダンジョン入れないみたいだけど。今日はとりあえず一泊してもう次のとこ行く?」
「問題ない。中に入れないなら引きずり出せばいいだけだ。また明日来よう」
思わずレイを見るが当然のような顔をしている。彼なら、ダンジョンを破壊して魔物を引きずり出すという荒業をやってのけかねない。
対照的にアメアは青い顔をしていた。
「そんなことしたら海に魔物が溢れ出しますよ!」
「ダンジョンを破壊した時点で小物の魔物は消滅させる。ジェイスは大物を相手にすればいい」
「……もしかしてまたボスが現れるって思ってる?」
パドストートンのダンジョンは初級で、当然ボスも討伐済みのはずだ。だが、先日のハルクスでもすでに討伐されているはずのボスが出現した。ここでも同じことが起こりうるということなのか。
レイはジェイスにちらりと視線を向け、そういうこともあるかもしれない、と歯切れ悪く答えた。
「わかった、じゃあボスに備えて下調べしよう。ちょっと体休めたいし、何日か後でもいいか?」
レイが驚いたように軽く目を見開く。
「そうか。疲れるのか。そうだな、休息をとるべきだ。すまない」
疲労というものを全く失念していたような口ぶりだった。
宿は、アメアが絶対に一人部屋がいいと言うので、アメアで一部屋、ジェイスとレイで一部屋とっていた。今度はベッドルーム以外に小さな丸テーブルと椅子のスペースがある、少しだけいい部屋にした。ハルクスでは狭い部屋にレイと二人きりで落ち着かなかったし、安くて狭い部屋はあまりにもレイに似合わなかったからだ。
本当ならジェイスとレイも別々の部屋にしようかと思ったが、レイは同じ部屋に泊まることに何の問題も感じていないらしかった。旅費はすべてレイ持ちだが、さすがにそれに甘えて浪費するのは気が引けて、結局節約のためにベッドが二つあるそこそこの部屋に落ち着いたのだ。
翌日はレイが観光したいと言うので、ジェイスは情報収集がてらついて行くことにした。
初夏の日差しに白く塗られた壁の街並みが眩しく、家々の軒先には色とりどりの花が溢れている。街の中心へ近付くにつれ露店が増えていき、客を呼び込む声、どこからか聞こえてくる楽器の音、行き交う人々の会話で賑やかだった。二人の脇を、明るい声で子供たちが笑いながら駆けて行く。
陽気な雰囲気の街中で、レイの姿は浮いて見えた。一人だけ別世界の生き物のようだ。
二人はカフェの軒先にあるテーブルで、昼食として薄い生地に肉と生野菜を包み、辛みのあるソースをかけたものを食べた。
「大丈夫か?」
ジェイスにとってはちょうどいい辛さだったが、レイは息を吐きながらいかにも辛そうに食べている。彼は少し潤んだ目で頷いた。
ミルクの入った甘い飲み物を注文してやると、レイはそれをちょこちょこと飲みながら食べ進める。元々食べるのが速いジェイスは早々に完食し、レイが食べ終わるまで彼を眺めていた。
最後のひとくちを飲み込んだのを見届けて、再度問いかける。
「大丈夫?」
「おいしかった」
そう答えはしたが、その後に小さくけほ、と咳払いした。今後は刺激物には気を付けてやろうと思った。
「汗」
かいてる、と額を拭ってやろうと手を伸ばしかけ、すんでのところで留まった。またやってしまうところだった。何か拭くものはと探すが、あいにくハンカチなどは持ち歩いていない。
レイは手首でぐいと額を拭った。
「色々と美味しいものがあるのだな」
「そうだな。夜は海鮮にしないか? 海辺の街だからきっとおいしいぞ」
「ああ」
勧めなければ何も食べないが、勧めればレイは何でも食べる。そしてそのどれもに新鮮な反応をするものだから、美味しいものをあれこれ勧めたくなるのだった。
それからまた街を眺めつつ歩いていると、少し遠く、建物の向こうに突き出した尖った屋根が見えた。その天辺に光の神のシンボルである光輪のマークが輝いている。ジェイスの視線を追って、レイもそれに気付いた。
「教会か。少し見に行ってもいいか」
「いいよ。行こう」
レイが教会に行きたいというのは意外だった。信心深そうには見えない。これも観光の一環かもしれなかった。
近くで見上げる教会は大きく、白い壁に施された金の装飾の豪華さに圧倒された。
「すごいな」
「聖フィアメッタ教会」
門の脇に掲げられた名前をレイが読み上げると、門の向こうから明るい声がした。
「そうなんです! 聖女フィアメッタ様からお名前を頂きました! ご存じですか? 百年前、勇者と共に旅をし、魔王を討った聖女フィアメッタ様はこの教会の出身だったのです!」
「へえ」
イキイキと喋りだすシスターに生返事をする。だからこんなにも立派な建物なのかと納得した。
「どうぞ中までご覧ください! 夕方からはミサもありますよ」
てっきり興味を持つかとレイを窺うと、彼は鼻白んだ様子で、結構だ、と返した。
すぐにマントを翻して去って行こうとするので、ジェイスは慌てて追いかけた。
「レイ? 中まで見なくてよかったのか?」
「いい」
冷たい横顔は、本当に興味が無さそうだった。
街中を見て回っていた時はあんなに楽しそうだったのに。最初に見たいと言ったのはレイなのだから、教会が嫌いというわけでもないだろう。
彼が興味を持つものと持たないもの、その差異がわからずにジェイスは内心首を傾げた。
それから、パドストートンの名産品を食べたり、ダンジョンのボスについて調べたりして三日を過ごし、いよいよ海中のダンジョンに挑む日となった。
明け方、ふと気配を感じてぼんやりと意識が浮上する。優しい手が頭を撫でていた。レイだ。
眠気に抗ってうっすらと目を開けば、予想に違わず枕元に美しい男が腰かけている。身に纏う白いシャツは宿の安い寝間着だというのに、肩に流れる銀髪がカーテン越しの朝日に照らされている姿に神聖ささえ感じた。
ジェイスを見下ろす赤い目は慈愛に満ちている。
このひと何でこんなに俺を好きなんだ?
何もわからないのに、その手を心地よく感じる。
「すまない、起こしたか」
「いや……」
答えるうちにまた眠気が襲ってきて、瞼が重くなる。
次に目を開けた時にはすでに陽が昇っていて、レイも枕元には居なかった。彼はすでに着替えを終えて、何事もなかったような顔で椅子に腰かけて頬杖をついていたから、ジェイスも素知らぬ顔で挨拶をする。
身支度を整えてアメアと合流し、朝食を摂ってから海へと向かった。
「邪魔が入らないように結界を張る。ダンジョンを破壊するからお前たちは下がっていろ」
レイは海の前に立ち、海中のダンジョンへ向けて手をかざした。ジェイスとアメアは十分後ろに下がり、アメアが念のために二人の前に防御魔法で障壁を生み出す。
「行くぞ」
厳かに告げるレイの声と共に、爆発音がして海が抉れ、揺れる地面にたたらを踏んだ。ダンジョンの天井である海底がばきばきと割れ、巨大な影が姿を現す。
「くらげ状の魔物……」
アメアが小さく呟く。半透明の体に、うねる無数の触手。やはり、下調べしておいたボスの特徴と一致していた。
「行ってくる」
ジェイスは黒い剣を握り、魔物へ向かって飛び出して行った。
そこかしこで水しぶきが上がっているのは、レイが小物を殲滅しているせいだろう。
海水を掻き分けて行くのは足が重く、動きにくい。しかし触手をしならせて攻撃してくる魔物を前にして、のんびりしてなどいられない。
ひざ下まで浸かった水をざぶざぶと蹴りながら、ジェイスは攻撃を避けて飛び回り、隙を見ては触手を斬り落とした。触手が海に落下しては、また新しく生えてくる。きりがない。
魔物は頭を斬り落とすか心臓とも言える核を破壊しなければならないが、この魔物は頭部がどこなのかいまいちわからない。半透明の体だが、中心部にいくに従って白濁していくせいで、核がどこにあるのかも視認できなかった。
以前倒されたボスの記録によると、体の中心部に核があるらしい。しかしこの巨体の中心部まで切り裂くのに、ジェイスの剣で届くだろうか。
わからないが、やってみるしかない。
ジェイスは触手を蹴って魔物の巨体に駆け上がろうとしたが、ぬめる触手に足をとられて海中に落下した。
げ、と呻くのに、ごぼりと空気が漏れて海面へ浮かんでいく。着衣の上、片手に剣を握ったままで泳ぎにくいが、何とか海面に顔を出した。
「しょっぱ」
呟いて、浅瀬へと向かう。そんな隙だらけの姿を見逃してくれるはずもなく、空中から迫る触手が、目前で弾かれた。
「ジェイス。怪我は無いか?」
「平気だ。ありがと」
またレイに助けられてしまった。早く一人で戦えるようになりたい。しかしいくら初級ダンジョンであっても、本来ボスなんて一人で挑むものではない。考えないことにした。
すっかり濡れて重くなった服が纏わりついて鬱陶しい。
ふと、ジェイスは握っていた剣へ目を落とした。
レイが強化してくれた黒い剣。何でも斬れると言っていた。――なんでも斬れる?
ジェイスは気合の掛け声と共に、思い切り振りかぶった剣を、魔物へ向けて振り下ろした。届くはずのない距離だったその切っ先はしかし、魔物の触手と体の斜め上を切り裂いた。遅れて、少し遠くで何かが爆ぜるような音が聞こえたのは、斬撃がレイの生み出した結界に弾かれたらしい。
何も考えずに剣を振るったら、本当に無制限にどこまでも斬れてしまいそうでぞっとした。今は結界があったからいいものの、そうでなかったらどこかに被害が出ていたかもしれない。
ジェイスは触手の猛攻を避けながら、遠くから魔物に向けて剣を振り下ろし、あるいは斬り上げる。剣はジェイスの意思に応えるように、斬撃が届く範囲を自在に変えた。
しかしなかなか距離感が掴めず、しかも怒れる魔物はじっとしていてなどくれない。中途半端に斬り付けては、触手に薙ぎ払われそうになるのを避け、また足をとられて浅瀬で転ぶ。転がった勢いのまま起き上がり、今度こそと感覚を調整し、剣を振り下ろした。
魔物の巨体が鮮やかに両断される。中央部で守られていた核が砕ける音がかすかに聞こえて、魔物は一気に水になって海水へと流れ落ちた。
荒い息を吐きながらしばらく様子を窺うが、最早穏やかな波の音が聞こえるばかりだ。気付けばレイの方も片付いていたらしい。
「終わった……?」
「よくやった」
にこにこと機嫌の良さそうなレイが近付いて来る。ジェイスは深々と溜息を吐き、その場にしゃがみ込んだ。
「は~……疲れた~……」
濡れた衣服は重いし、水には足をとられるし。普通に戦うより何倍も疲れてしまった。
ジェイスの様子に、途端にレイが険しい顔になってアメアを呼びつける。
「アメア! 疲労回復の魔法はないのか?」
「あるにはありますけど、こんなとこで使っても大して意味ないですよ。治癒魔法って本人の体力を削って、怪我を治すスピードを速くするようなものなので。疲労回復させたところで結局体力を使ってしまうんです」
レイが眉根を寄せて、ジェイスを見る。
「ジェイス。宿まで運んでやろうか」
「いや!? いいよ、大丈夫、ぜんぜん歩ける」
「無理はするな」
「大丈夫だって!」
レイはジェイスよりは背が低いが、その気になったら本当にジェイス一人くらい抱えて歩けるだろう気がした。そんな事態は御免こうむりたい。あの人通りの中を、大の男が抱えられて歩くだなんて。
ジェイスは立ち上がってシャツの裾を絞り、体についた細かな汚れを払ってから、帰ろう、と言った。
レイの様子がおかしくなったのは、一旦帰ってシャワーを浴びた後あたりからだ。
晴天で歩いているうちにある程度乾いたものの、ジェイスとレイの二人は海水で全身がベタベタで、先にレイにシャワーを使わせた。それからジェイスがシャワーを浴びてシャワールームから出ると、レイがベッドに腰掛けて俯いていた。
「レイ? 大丈夫か?」
これまでどんなに動いても一人平然としていたレイだが、今はぐったりとしている。疲れたのかと思って顔を覗き込むが、彼はきつく眉根を寄せて、険しい顔をしていた。
「具合悪いのか?」
「何かいやな感じがする……」
小さな声でそう呟いた後、ぐらりと体が傾いだ。
「レイ!」
咄嗟にその体を受け止める。
「レイ、大丈夫か!?」
呼びかけても反応はない。もしかして気付かない内に怪我でもしていたのか、はたまた魔物の毒でも受けてしまったのか。あるいは、ジェイスが手助けして貰ってばかりだから、負担がかかっていたのかもしれない。
ジェイスはひどく焦りながらも、体に障らないようゆっくりゆっくりその体をベッドに横たえ、慌てて隣室のアメアを呼びに行った。
「急に様子がおかしくなったんだ。なんか嫌な感じがするって言って倒れて」
焦って説明するジェイスの横で、アメアがレイを覗き込む。一瞬怪訝そうな顔をしてから脈拍と呼吸を確認し、手首を掴んで呪文を唱えると、手首を囲むように小さな魔法陣が現れた。その状態で全身に視線を走らせ、手を離すと魔法陣はふっと消失した。
「寝てます」
「え?」
「寝てるだけです」
突然倒れたのに? 納得していないのが顔に現れていたのか、アメアが苦々しい声で説明する。
「どこも悪くないです。悪い場所があれば反応する魔法で確認しましたが、問題ありません。寝てます」
「いやな感じがするって……」
アメアは渋い顔でしばらく躊躇ってから言った。
「……赤子は、眠気を不快に感じてぐずると聞いたことが……」
「赤ちゃんってこと!?」
予想外の言葉に大声が出てしまった。
そんなことがあるだろうか。いくらなんでも無理がないか。確かに一般常識に欠けるところはあるし、何を食べても新鮮に喜ぶ姿は子供のようでかわいらしいと思った。思ったが、どう見ても二十代の青年にしか見えないレイが赤子のわけはないし、赤子ほど睡眠に慣れていないはずがない。
混乱するジェイスの耳に、小さな呻きが届いた。
「ぅ……」
「レイ!」
横たわっていたレイが身動ぎして、目を覚ます。彼は不快気な顔で何度も目を瞬いた。
「大丈夫か? 寝てたみたいだけど」
「寝ていた?」
レイは体を起こし、目元を押さえる。
「……この体は睡眠が必要なのか。面倒だな……。迷惑をかけた」
まるで初めて眠ったかのような言い草だった。普段なら一番突っ込みそうなアメアは何故か黙っている。
不意に、明け方にジェイスの枕元にレイが座っていたことを思い出す。あれはもしかして、たまたまあの時に目覚めていたとか早起きしたとかではなく、常に夜通し起きていたのだろうか。そういえばいつもジェイスが先に就寝していて、レイが眠っているところは見たことがなかった。
「よくわかんないけど、眠いなら寝た方がいいよ。もう少し休む?」
レイはのろのろと顔を上げてジェイスを見た。目が眠そうだが、表情を歪めている。
「この感じいやだ……」
「眠れるまで傍に居るから」
宥めるように肩を擦りながら、横になるのを手伝ってやる。
「オレ出てますね」
アメアは眠りやすいようカーテンを閉めてさっさと出て行き、部屋には二人だけが残された。
まだ何か小さなうめき声をあげているレイは、本当にぐずる子供のようだった。落ち着かせるように手を握ってやる。シャワーを浴びた後なのに、やはり今もいつもの黒手袋をしていた。
「大丈夫大丈夫、傍に居るよ」
「ん……」
ゆるゆると瞼が下りては抵抗するように開くのを繰り返していたが、縋るように握っていた手から力が抜けて、ついに眠りに落ちたのがわかった。
寝顔は静謐な美しさを湛えていて、その長い睫毛を見るとはなしに見ながら、出逢ってからの彼の姿を思い返す。
箍の外れたような発言、詠唱のない強力な魔法、一般常識に欠ける振る舞い。誰もが目を奪われる人間離れした美しい容姿。
もし彼が人間でないと言われても信じられるな。そんなことを考えた。
12
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる