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第三話

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 頭の中で色々と言葉が浮かぶも、どれもこれも芳樹を責める事しか思いつかない。
 しかし責めて良いタイミングではない、と思う。
 まだ芳樹は何もボロを出していない。

 頭の中で言葉がぐるぐるとまわり、考えるのも嫌になったので、適当に返事をする。
 そういう対応をしたことがない、と初めて気が付いた。自分にとってフリだと思った。


『ピザは適当に頼むから。ゆっくり帰ってきて』


 後輩の事は質問しなかった。
あくまでいつも通りだと、芳樹には印象付けたい。腑は煮えくり返っているが。

 ふと、頭の中で後輩が白木亜美ではと思った。
 直感だった。
 まさか堂々と後輩として不倫している、なんて事はないだろうと考えてみる。
 昼ドラの見過ぎなのか、それを否定出来ないのが悲しい。

 私はケータイを握り締めたまま、芳樹にもう一度メールを送りたい気持ちを必死に堪えた。

 今はダメ。
 今は。


 するとケータイが鳴った。 

『有難う。帰りは食って帰って来るから、少し遅くなる。その後、家で少し呑むかもしれないが、かまわないか? 一緒に呑むか?』


 何考えてるの!?


 私はケータイを投げつけたい気持ちになった。
 今日のエレベーターで起きた事を知らないとはいえ、芳樹はこんなにも自由奔放だった?
勝手に決めて行動したり、私より仕事を優先したか。
 いつからそうなったの。

 今までこうだった?

 違う。何か違う。

 私の頭の中のヤカンがどんどん沸騰してゆく。
 私の事を忘れて女に入れ込み、挙句に呑んだ後に、家に後輩を連れ込み酒をまた飲むなんて!
 
 信じられない!
 
 私はエレベーターの会話を思い出し、何年も信じた芳樹も、所詮は変わらないのだと、悔しい気持ちと怒りがこみ上げてきた。
 私は腕組みをして鼻息を荒くした。
 私の旦那様の芳樹はこんなではなかったと思う。
 節操があって、女性に優しくて、でも浮気なんてしない。

 何より、もっと真面目な男だった。
  

 おまけに、白木亜美って女は何?


 私は見えない女の影に怒る。
 芳樹に貯金までさせる程の女なの?
一体なに?

 私は一人怒りを鎮められずにいた。
 今日来る後輩がどんな奴かというのも私の怒りを増幅させていた。

 男か女かも分からないけれど、夜に人の家にくるなんて!
  
 私はソファを芳樹だと思いながら、思い切りパンチをした。

 ぼよんと鈍くパンチが跳ね返ってくる。
 苛立ち、またパンチをした。それを繰り返した。
 誰かも分からない人間に怒り、怯え、振り回される。
 こんな生活を望んでいるのではなかった。
 もっと穏やかで、いつも芳樹は私を想ってくれて、それは永遠に続くと思った。
 たとえ少し冷めても、それは一般的な事で、歳をとるだけで・・・。

 私は怒り疲れて、またひと眠りしようと決めた。

 芳樹への返信メールなど、1度で充分だ。 

 私はケータイをソファに放り投げ、ふて寝した。
 今ピザを頼んでも冷めたものになってしまうし、面倒だし、わけの分からない後輩につまみを作るなんてありえない。
 その後輩とやらの顔をじっくり見てからか、芳樹から駅に着いたというメールを受けてからピザを頼もう。

 それで充分だ。
 
 私はまた眠ろうと目を閉じた。
 睡眠というよりは、目を閉じる事に意味があった。
 目を閉じたら、芳樹を思い出してしまった。

 バカらしい。
 自分が、バカらしい。 
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