上 下
31 / 66
第二章 迷宮へ挑む

第31話

しおりを挟む
 力が体の奥底から溢れてくる感覚の中、未だ腹部に刺さっている聖剣に目をやり手を背中に回して一気に引き抜き、同時に魔法で治療を即座に行った。

「な、何で起き上がれるんだよ! それに、何だよ。その見た目はッ!」

「見た目? 何言ってるんだ?」

 俺が起き上がるとは思わなかったクソ勇者は、意味不明な事を叫びながら聖剣をブンブンと振っていた。そんなクソ勇者に、もう容赦をする意味も無いと頭の中で理解した俺は、聖剣を持っていた剣で吹き飛ばし、剣を失った勇者は這いずって逃げようとしたが勇者の首を掴み、持ち上げた。

「グッ」

「さっきまでだったら、俺に関わらないと誓えば苦手してやったけど、もう容赦はしないから」

 クソ勇者は俺の言葉にバタバタと体を動かしたが、そのまま力を入れていくと段々と静かになり数秒後、勇者は動かなくなった。クソ勇者が動かなくなったのを見届けた俺は、クソ勇者を持っていた手を放して首が変な方向に向いているクソ勇者の体を一瞥してアリサ達の方へと歩いて行った。

「ごめんね。心配かけた」

 俺がそう言うと、泣いていたアリサ達は一斉に俺に抱き着いて来て、そのまま盛大に泣き始めた。それと、同時に騒ぎを聞きつけた街の住民や兵士達がやって来て泣いているアリサ達と地面に転がっている勇者の姿を見て困惑していた。そんな状況を確認し、どうしようか思考を巡らせているとプツンッと俺の意識は途切れてしまった。

***

「主! 起きろ、主!」

「んっ……どこだ、ここ?」

 次に意識を取り戻すと、何者かが俺に声を掛けていた。そして、目を開けると見たことも無い白い空間に寝ころんでいたので体を起こし、周りを確認すると近くに一匹の狼が佇んでいた。

「やっと起きたのう。今まで、我を無視していたのは許してやるが既に我を認識しているのに無視をするのは、許さんぞ」

「え~っと……君は誰?」

 その狼は俺の事を知っている感じだったが、俺の記憶にはその狼の姿は無かったのでそう尋ねると、その狼は「我を忘れたのかッ!」と吠えた。

「す、すまん」

「……まあ、呪いのせいで記憶が混乱しておるのだろう。我は、種は神獣フェンリル。名をリフェルと申す。この名は、主であるロイドに付けられた大事な名じゃ、思い出したか?」

「……えっ、リフェル?」

 その狼がリフェルと名乗り、俺は記憶の片隅にあった小さな狼を従魔にした時の記憶を思い出した。その時の狼は、俺の膝位しかなかったはずだが目の前に居る狼は俺よりも大きな体をしていた。

「あの、リフェルなのか?」

「そうじゃ、そのリフェルじゃ。主の体感では数年じゃろうが、我は主の異空間で何百年も修業を行っていたんじゃ、体が大きくなって分からなかったか?」

「当り前だ! あんな小さかった狼がこんなに大きくなるとは、思わないだろ! それに、さっき神獣フェンリルとか言ってたけど、お前普通の狼じゃなかったのか!?」

「元は普通の狼じゃったよ。ただ、主に加護を付けておった神の連中にロイドの従魔なら箔が必要じゃろうと言われてな、フォレストウルフの子供じゃった我を神獣にされたんじゃ、そのおかげでここまで体も大きくなったんじゃ」

 そう言われた俺は、神が勝手にそんな事を? と思ったが、記憶の中にある神達は事ある毎に俺に試練だのなんだのと言って、色んな事をさせられていたのを思い出し、納得してしまった。しかし、そこで俺は違和感を感じた。それは、今まで封印されていたかの様に消えていた記憶が戻り、今までの記憶と大分違う光景などがあった。

「何だこの記憶は……」

「んっ? ああ、その事なら多分呪いのせいじゃろう」

「呪いって、俺呪いに掛かっていたのか?」

「うむ、我もついさっき気が付いたがのう。聖剣が主を貫き、呪いの一部が欠けて異空間に居った我が察知し、ようやく気が付いた物じゃったからのう。上手く隠されていたようじゃ、じゃがその呪いから見て主の母であるメリアが掛けた物で間違いなかった」

 リフェルの言葉に「母さんが俺に呪いを?」と反応した。すると、リフェルは頷き「主よ。既に記憶が戻っているなら、知っていると思うが主の母は呪術師として最高位の者じゃぞ」と言われた。

「……確かに、記憶にある母さんの戦い方は呪術師のそれだ。って、あれ母さんってこんな姿してたっけ? それに父さんの姿も記憶と大分違うんだが」

 以前までの記憶上の両親は、普通の人間の姿をしていたが現在の両親の記憶は、母さんは魔人族の証である真っ赤な瞳に深紅の髪をしており、父さんは2mはある体躯に竜人族の証でもある角を額にはやしていた。

「って、ちょっと待て!」

 俺はそこで、先程勇者が俺に対して「何だ。その見た目は!」と言っていた事を思い出して異空間から鏡を取り出して自身の今の姿を確認した。すると、そこに映し出されていたのは、茶髪だった髪は深紅に染まっており、目の色も赤く変わっていた。極めつけには、額には竜人の証でもある角が生えていた。

「まあ、その見た目から分かる通り、主は竜人族と魔人族のハーフじゃろうな……我の記憶では、出会った頃には隠されて居ったから長い間、隠されていたんじゃろう」

「はぁ!?」

 俺はリフェルからの言葉にそう叫ぶと同時に、白い空間が壊れ、次に目が覚めるとフカフカのベッドに横になっており、その脇にはアリサ達が付いていた。そして、俺が起きた事にアリサ達が気が付きましても泣きながら俺に抱き着いて来た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋人を寝取られ死刑を言い渡された騎士、魔女の温情により命を救われ復讐よりも成り上がって見返してやろう

灰色の鼠
ファンタジー
騎士として清くあろうとし国民の安寧を守り続けようとした主人公カリヤは、王都に侵入した魔獣に襲われそうになった少女を救うべく単独で撃破する。 あれ以来、少女エドナとは恋仲となるのだが「聖騎士」の称号を得るための試験を間近にカリヤの所属する騎士団内で潰し合いが発生。 カリヤは同期である上流貴族の子息アベルから平民出身だという理由で様々な嫌がらせを受けていたが、自身も聖騎士になるべく日々の努力を怠らないようにしていた。 そんなある日、アベルに呼び出された先でカリヤは絶望する。 恋人であるエドナがアベルに寝取られており、エドナが公爵家令嬢であることも明かされる。 それだけに留まらずカリヤは令嬢エドナに強姦をしたという濡れ衣を着せられ国王から処刑を言い渡されてしまう———

英雄に幼馴染を寝取られたが、物語の完璧美少女メインヒロインに溺愛されてしまった自称脇役の青年の恋愛事情

灰色の鼠
ファンタジー
・他サイト総合日間ランキング1位! ・総合週間ランキング1位! ・ラブコメ日間ランキング1位! ・ラブコメ週間ランキング1位! ・ラブコメ月間ランキング1位獲得!  魔王を討ちとったハーレム主人公のような英雄リュートに結婚を誓い合った幼馴染を奪い取られてしまった脇役ヘリオス。  幼いころから何かの主人公になりたいと願っていたが、どんなに努力をしても自分は舞台上で活躍するような英雄にはなれないことを認め、絶望する。  そんな彼のことを、主人公リュートと結ばれなければならない物語のメインヒロインが異様なまでに執着するようになり、いつしか溺愛されてしまう。  これは脇役モブと、美少女メインヒロインを中心に起きる様々なトラブルを描いたラブコメである———

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

外れスキル『レベル分配』が覚醒したら無限にレベルが上がるようになったんだが。〜俺を追放してからレベルが上がらなくなったって?知らん〜

純真
ファンタジー
「普通にレベル上げした方が早いじゃない。なんの意味があるのよ」 E級冒険者ヒスイのスキルは、パーティ間でレベルを移動させる『レベル分配』だ。 毎日必死に最弱モンスター【スライム】を倒し続け、自分のレベルをパーティメンバーに分け与えていた。 そんなある日、ヒスイはパーティメンバーに「役立たず」「足でまとい」と罵られ、パーティを追放されてしまう。 しかし、その晩にスキルが覚醒。新たに手に入れたそのスキルは、『元パーティメンバーのレベルが一生上がらなくなる』かわりに『ヒスイは息をするだけでレベルが上がり続ける』というものだった。 そのレベルを新しいパーティメンバーに分け与え、最強のパーティを作ることにしたヒスイ。 『剣聖』や『白夜』と呼ばれるS級冒険者と共に、ヒスイの名は世界中に轟いていく――。 「戯言を。貴様らがいくら成長したところで、私に! ましてや! 魔王様に届くはずがない! 生まれながらの劣等種! それが貴様ら人間だ!」 「――本当にそうか、確かめてやるよ。この俺出来たてホヤホヤの成長をもってな」 これは、『弱き者』が『強き者』になる――ついでに、可愛い女の子と旅をする物語。 ※この作品は『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しております。

処理中です...