上 下
12 / 66
第一章 旅の始まり

第12話

しおりを挟む

 王妃様の病を治療してから五日が経った。治療の翌日には目を覚ました王妃様はこれまで、悪魔のせいで食欲も抑えられていた事から目覚めて数時間は食欲が止まらずクロム王も心配していたが、摂取した料理は全て魔力へと還元されているので大丈夫だと伝えた。そして、五日経った今では、ミリア姫と一緒に庭で散歩が出来る程に元気を取り戻していた。

「それで、クロム王。もう一度言ってください、何て言いました?」

「だから、ロイド。お前を私の国の伯爵の爵位を与えると言ったんだ。既に大臣達と話してそう決まっている」

「何故、そうなるんですか? 俺は、ただお礼の品を渡したいと言われたから残っただけで、クロム王の家臣になるつもりは無いですよ」

「あぁ、だがなロイド。世間はそれは認めてくれないだろう。既にミラノの病気が治っている事は王都の住民は既に知っているし、時が経てば国外まで噂は広がるだろう。そして、その治した人物がロイドであることも既に知られている。そんなロイドに対して、お礼の品がたかだか金で済むと思うか?」

 クロム王は笑顔でそう言うと、続けて「無理だろう?」と言った。

「だから、ロイドに爵位を与える事で民衆にも他国にも王妃の病を治療した者に適した報酬を与えたとみせしめる事が出来る。それとも、ロイドはリクサムス王国が他国から〝礼も真面出来ない国〟だと思われても良いのかい?」

「あぁ、もう! 分かりましたよ。爵位を貰えばいいんでしょ、貰えば! ったく、最初からコレが狙いだったな……」

「いや、ミラノの病を治したのは本当に偶然だ。アレには私も、どうしようもないと諦めかけていたからな、治療してくれた事には心から感謝している」

「心から感謝しているんなら、俺が嫌がる事は止めてくれませんかね」

「それとこれとは別だな」

 俺の言葉にクロム王は笑顔でそう答えた。結局所、あの時お礼の品を渡すと言った時点でクロム王は俺を家臣に迎え入れようと考えていた。王妃の治療前なら、村から出てきたただの青年なので無理に家臣に引き入れる事は出来なかったが、王妃の不治の病を治したことで建前が出来、それを使って俺を家臣に迎え入れようと考えたみたいだ。

「貴族になっても、俺は旅をしますよ? 領地の統治何て、今の俺には出来ないので」

「あぁ、そこら辺の事は考えている。ただ、俺はロイドを私の国の一員だと他国に知らしめる事が出来るなら構わないんだよ。遅かれ早かれ、ロイド。お前は他国から狙われる」

「……そんなに俺って、必要に人材ですかね?」

「理解していないのか? まあ、確かに今のロイドを見た所で必要とされる事は無いだろうが、冒険者時代のロイドを知っている者が居たら、確実に狙われるぞ」

 クロム王は真顔で断言した。俺はそんなクロム王から見つめられ「はぁ~」とため息を吐いた。

「ったく、城に何て来なけりゃ良かったよ……」

「これも運命だと思って諦めるんだな、明日の式典にはちゃんと出るんだぞ」

「はいはい、分かりましたよ。国王様」

 既にクロム王に対しての敬う気持ちなど薄れ掛かっていた俺は、部屋を出る際にそう返事をしてクロム王の私室を退出した。そして、部屋を出た俺は城の廊下を歩いていると後ろからミリア姫から話しかけられた。

「ロイド様、明日の式典には出てもらえるんですか?」

「えぇ、出ますよ。嫌々ですけどね……」

「えっと……本当にごめんなさい。お父様が色々と無茶を言ったみたいで……」

「ミリア姫が謝罪する事ではないですから大丈夫ですよ。それにクロム王には、きちんと罰を与えるつもりですからね」

 俺はミリア姫に悪い顔をして言うと、ミリア姫は「ほ、程々にお願いしますね……」と困った様に言ったが、クロム王の知名度が上がるだけなので心配が無いですよとミリア姫に行った。それから、俺は王家に仕える礼儀作法を教える人から明日の式典の為の作法を夕食時までミッチリと教わった。

「ロイド君、明日は頑張ってね。私達も、式典は参加できるみたいだからロイド君の晴れ姿バッチリ見ておくね」

「ロイドさん、もし緊張しましたら言って下さい。精神を安定させる魔法もありますので」

「ロイド、明日が楽しみだな」

 夕食の後、アリサ達からそう言われた俺は「ありがとう」と言って食堂を出てクロム王の私室へとやって来た。

「……ロイド、やってくれたな」

「何がですか?」

「ギルドから連絡があったぞ、お前がお昼頃に来て〝暗黒の剣士クロ〟がクロム王だと、ギルド内で大きな声で言っていたと聞いたぞ」

「そうなんですか? まあ、でも大半の人間は信用してないと思いますよ。あっ、でも昔の俺を知っている冒険者が何人かいて、その人達は「マジか、仲間にも知らせてくるッ!」と言って王都を旅立って行きましたよ」

 俺がそう言うと、クロム王は「それ紅蓮の騎士連合のグラムだろうが……彼奴の仲間って事は……」と言って頭を抱えた。

「良かったですね。グラムさんが王都に居て、各地に散らばっている今では有名な冒険者達に暗黒の騎士クロさんの正体がクロム王だと知らせられますね」

「……まあ、仕方ない。ロイド、お前はもう後に戻れない事をしたんだ。明日の式典では覚悟をしておけよ」

「これ以上、俺に何をさせるというんですか、それに覚悟をしておけというのはこっちのセリフですよ。暗黒の騎士クロの伝説を国中に広めてやりますからね。一時の間、一緒に旅をしていた仲間ですから色々と知ってますからね」

 俺とクロム王は互いに睨み合いながらそう言って、俺は部屋を退出した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋人を寝取られ死刑を言い渡された騎士、魔女の温情により命を救われ復讐よりも成り上がって見返してやろう

灰色の鼠
ファンタジー
騎士として清くあろうとし国民の安寧を守り続けようとした主人公カリヤは、王都に侵入した魔獣に襲われそうになった少女を救うべく単独で撃破する。 あれ以来、少女エドナとは恋仲となるのだが「聖騎士」の称号を得るための試験を間近にカリヤの所属する騎士団内で潰し合いが発生。 カリヤは同期である上流貴族の子息アベルから平民出身だという理由で様々な嫌がらせを受けていたが、自身も聖騎士になるべく日々の努力を怠らないようにしていた。 そんなある日、アベルに呼び出された先でカリヤは絶望する。 恋人であるエドナがアベルに寝取られており、エドナが公爵家令嬢であることも明かされる。 それだけに留まらずカリヤは令嬢エドナに強姦をしたという濡れ衣を着せられ国王から処刑を言い渡されてしまう———

英雄に幼馴染を寝取られたが、物語の完璧美少女メインヒロインに溺愛されてしまった自称脇役の青年の恋愛事情

灰色の鼠
ファンタジー
・他サイト総合日間ランキング1位! ・総合週間ランキング1位! ・ラブコメ日間ランキング1位! ・ラブコメ週間ランキング1位! ・ラブコメ月間ランキング1位獲得!  魔王を討ちとったハーレム主人公のような英雄リュートに結婚を誓い合った幼馴染を奪い取られてしまった脇役ヘリオス。  幼いころから何かの主人公になりたいと願っていたが、どんなに努力をしても自分は舞台上で活躍するような英雄にはなれないことを認め、絶望する。  そんな彼のことを、主人公リュートと結ばれなければならない物語のメインヒロインが異様なまでに執着するようになり、いつしか溺愛されてしまう。  これは脇役モブと、美少女メインヒロインを中心に起きる様々なトラブルを描いたラブコメである———

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

処理中です...