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第一章

第27話 【冒険者登録・3】

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 その後、試験は終わりだと伝えられ冒険者の証である〝冒険者カード〟を発行するので部屋で待つ事になった。
 俺と師匠は部屋へと戻り、アンナさんはカードの発行をしに部屋を出て行った。
 それから少しして部屋で待っていると、部屋の扉が開きアンナさんが戻って来たと視線をやると。
 そこにはアンナさんではなく、ガタイの良い男性が入って来た。
 身長は二m近くあり、赤い髪を短髪で揃え、筋肉が服に隠れきれずピチピチとなっている。

「よう。久しぶりだな、アレン」

 その男性は部屋に入ってくると、俺の隣に座っている師匠に気さくに声を掛け。
 師匠はそんな男性に対して「お久しぶりです。ライザットさん」と、挨拶を返していた。

「アルフ。この人は、ライザット・ヴィレットさん。エルドさんの友人でここの冒険者ギルドのギルドマスターをしてる方だ」

「ギルドマスターさん!? は、初めまして! アルフレッドです!」

 男性がギルドマスターだと知った俺は、慌てて男性に対し立ち上がって挨拶をした。

「ハハッ、よろしくな。アレンの弟子が来てるとアンナから聞いて、どんな奴が来たかと思って見に来たんだが。真面そうな奴で安心したよ」

 ギルドマスターさんはそう笑いながら、ゴツイ手を差し出してきたので俺は握手を交わした。

「アンナから軽く話は聞いてるが、王都の冒険者ギルドはエルドを怒らしたのか?」

「怒らしたと言いますか、今まで耐えていたんですが。アルフに対して酷い対応をした事を聞き、我慢の限界を達した感じですね。アルフはエルドさんの命の恩人なので」

「命の恩人? エルドは襲われたのか!?」

 ライザットさんは、師匠の言葉に驚き立ち上がる。
 そんなライザットさんに対し、師匠は笑みを浮かべながら「違いますよ」と言って俺が何故〝命の恩人〟なのか説明をした。

「串肉を喉に詰まらせたって……あいつなにしてんだよ……」

 呆れた表情でライザットさんはそう言うと、俺の方を見て「助けてやってくれて、ありがとな」とお礼を言った。

「いえ、俺はただ助けただけです。正直、こんな日常を送っているのが不思議に感じてます」

「まあ、確かに助けた相手が商会のトップで気に入られ、色々と施されてるんだから、そう思うのも当然だな。俺だって、お前の立場なら混乱してるだろうな」

 そうライザットさんが言うと、カードを発行に行っていたアンナさんが部屋に戻って来た。

「あれ、何でお父さんがここに居るの?」

「こら、アンナ。ギルドでは〝お父さん〟ではなく、〝ギルドマスター〟と呼ぶように言ってるだろ?」

 アンナさんに対しライザットさんは、溜息交じりにそう注意をした。

「ファミリーネームが一緒だったのでもしかしてと思ってましたが、ライザットさんとアンナさんって親子なんですね」

「ああ、アンナは俺の娘だよ。子供の頃から俺が冒険者ギルドで仕事してる姿を見せてたから、こうして俺が働いてる所まで一緒にしたんだ」

 ライザットさんはニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべながらそう言うと、隣に座ったアンナさんに「違うわよ……」と否定されていた。

「私が憧れたのはお母さんであって、お父さんは違うわ」

 即座に否定されたライザットさんは落ち込み、アンナさんは溜息を吐いた。
 なんだが今の一連の流れを見て、ライザットさんは娘であるアンナさんの事が好きなんだろうなというのが分かった。
 そんなそんなライザットさんの事を嫌いでは無いが、面倒だなとアンナさんが思ってる事まで俺は何となく分かった。

「貴重な時間を使ってしまい申し訳ありません。こちらが、アルフレッド君の冒険者カードとなります」

「おお!」

 アンナさんはカードが乗ったトレイをテーブルに置き、俺はそのトレイの中からカードを取った。
 冒険者カードには最低限の情報が記されていて、自分の名前が入ったカードを見て嬉しさがこみあげて来た。

「アルフ。なんだ泣いてるのか?」

「は、はい。その、一度諦めた事が実現できて嬉しいです」

 嬉しさのあまり涙を流す俺に、師匠は「そうか」と優しい目でそう言った。
 正直、何で涙を流しているのか謎だけど、自分でも気づいてない所で冒険者になれなかった事が心残りだったんだと思う。
 それから暫く、俺が落ち着くまで師匠達は話を待ってくれた。

「今後どうなるんだろうな……アレンは何か聞いてるか?」

「王都の冒険者ギルドとの契約を切るとは聞いてます。まあ、王都の冒険者ギルドと契約を切ってもルクリア商会として痛手は一切ないですからね」

「痛手が無いどころか、粗悪品を買わなくてよくなるからルクリア商会としては良いって訳か……どうせ、王都の冒険者ギルドの体制は数年前から変わってないんだろ?」

「変わってませんよ。アルフが追い出されたのが証拠ですからね」

 師匠がそう言うと、ライザットさんは溜息を吐き「馬鹿な奴等だな……」と言った。
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