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第一章
第3話 【追放・3】
しおりを挟むそれから俺は老人に着いて来るように言われ、老人に案内されてとある建物に連れてこられた。
連れてこられた場所は、外からでも見て分かる高級服屋だった。
「あら、お爺ちゃんじゃない? 珍しいわね。貴方が態々、私の店に来るなんて」
老人は店に入ると、店員に店長を呼んできてもらえないか尋ねた。
そして店員から呼ばれて奥から出て来た店長は、身長二m超えの大柄の男性。
しかし、口調は女性の様な感じで服装も少し女性よりの服を着ている。
男性なのに女性の服を着てる姿を見て、俺は脳の処理が追い付かなかった。
「この者の服を何着か見繕って貰おうと思ってな、〝服のセンスだけ〟なら儂の知ってる知人の中でトップだからお主の所に来たんだ」
「あら、かわいい男の子ね。この子、どうしたの?」
「儂の命の恩人だ。色々と事情があって冒険者になれないから、儂の所で生活をしてもらおうと思ってな」
「へ~、お爺ちゃんの命の恩人ね……わかったわ。何着必要なの?」
店長さんがそう聞くと、老人は「取り合えず十着程、頼むぞ」と言った。
「えっ? そ、そんなにもらえませんよ! どう見ても、ここのお店の服は高級そうですよ!?」
「いいんだ。じゃあ、頼むぞビビアン」
「ええ、任せて頂戴」
ビビアンと呼ばれた店主はガシッと俺の脇を掴むと持ち上げ、店の奥へと連れて行かれた。
奥には店の前に出ていた以上に沢山の服があり、更に奥に行くと作業場のような場所にたどり着いた。
「そうだわ! 自己紹介がまだだったわね。私の名前はビビアン。このお店のオーナーよ。よろしくね。ちなみによく聞かれるけど、服装はただの趣味よ」
「よ、よろしくお願いします。自分はアルフレッド・ふぉ、あっ……いえ、ただのアルフレッドです」
「ふふっ、大丈夫よ。なんとなく察してるわ。貴方、元は貴族の子でしょ? 色んな人を見てきてるから、大体分かるわ」
人は見た目では判断できないと言うが、本当にそうだ。
この人、見た目ちょっとだけ怖いと思ったけど、中身は凄く人の事を見てる人だ。
それから俺はビビアンさんから、着せ替え人形の如く色んな服を着せられ、当初の予定通り10着の服を見繕って貰った。
その中でも普段着として着る服を着た俺は、老人の所へと戻って来た。
「お~、見違えたな。流石、貴族の子だっただけあって服を整えたらよい感じになったの」
「あ、ありがとうございます」
着せ替え人形が終わり、服が決まった俺は待っていた老人の元に行くとそう褒められた。
……そういえば、俺ずっとこの人の事を〝老人〟って頭の中で呼んでるな。
「んっ、どうした。何か嫌な事でもされたか? ビビアン、何をしたんじゃ?」
「えっ、そんな事はしてないわよ!? 私は服を本気で選んであげたわよ?」
老人の言葉にビビアンさんは慌て、俺はすぐに「店長さんには、何もされてません!」と言って何を考えていたのか伝えた。
「儂の名前? ……そういえば、確かに言っておらんかった」
「私が原因じゃないじゃない、もう驚いたわよ……」
「すまんすまん。儂はエルド・ルクリアじゃ。ちなみに儂の商会の名は、家名からとって〝ルクリア商会〟という名じゃよ」
「……えっ?」
ちょっと待て……ルクリア商会って、あのルクリアか!?
俺が今住んでる国に加え、周辺国に多くの繋がりを持っていて小国とほぼ同等以上の力があると噂されている商会。
「えっ、王国一の商会と同じ名前ですけど、もしかして……」
「あら、そこも教えてなかったの? そうよ。このお爺ちゃんこそ、頑固で有名なルクリア商会の会長よ」
「頑固は余計だッ」
ビビアンさんの言葉に対して、エルドさんは睨みながら言った。
「まさか街中で串肉を食べて詰まらせてた人が、そんなすごい人なんて思いもしませんでした……」
「それは言うでない、儂もまさか詰まるとは思わなかったんだ……」
「あら、お爺ちゃんって馬鹿にした言い方してたけど、本当にお爺ちゃんになってたのね~」
串肉を詰まらせたと聞くと、ビビアンさんはエルドさんの事を見ながら笑った。
それに対してエルドさんは「ぐぬぬぬ」と唸り、ビビアンさんを睨みつけた。
その後、服を選び終えた俺とエルドさんはビビアンさんの店を出て、エルドさんの商会へと向かった。
「あの、本当にいいんですか?」
「よいよい、儂が連れて行くと決めたのだからな」
エルドさんは俺の言葉にそう言うと、尻込みする俺の手を取った。
「儂はな、お主とあの場で会わなかったら最悪死んでいたかもしれん。お礼として、お主の生活を保障するのは当然の事だ。お主は何も気負う事は無い」
「……わかりました。でも、ただ住まわせてもらうのは俺も嫌です! 何か手伝える事があったら、何でも言ってください!」
「うむ、何か頼みたい事ができたらその時は頼むぞ」
その後、俺はエルドさんに連れられて〝ルクリア商会〟と書かれた看板が付けられている建物の前に到着した。
貴族として生活していた頃、よく使っていた品を取り扱っていた商会にこんな形で来るとは思いもしなかったな。
「アルフレッド、何をしておるんじゃ?」
「あ、すみません。直ぐに行きます!」
建物の前で思い出に浸って立ち止まっていると、先に建物の中に入ったエルドさんに呼ばれ、俺は慌てて建物の中に入った。
「エルド様、お帰りなさい。あら、どうしたんですか、そちらの青年は?」
建物の中に入ると、色んな人がエルドさんに「おかえりなさい」と言い、それと同時に一緒に居る俺の事を不思議そうに見てきた。
そんな中、一人の女性がエルドさんの近くに寄ってきて、俺の事を見ながらそう聞いてきた。
「うむ、この者は儂の命の恩人だ」
「い、命の恩人ですか? 外で何があったんですか!?」
エルドさんが〝命の恩人〟という単語を言うと、女性と周りで聞き耳を立てていた人達も動揺が走った。
そして沢山の人がエルドさんに集まり、俺はその人の波に押されていき。
いつの間にかエルドさんの近くから、人の波の外に弾き飛ばされてしまった。
「鎮まるんじゃ!」
エルドさんのその大きな声に、慌ただしかった空気が一瞬にして鎮まった。
そして倒れている俺の事をエルドさんは見つけると、手をさし伸ばして立たせてくれた。
「後でまた詳しい内容は伝達する。自分達の持ち場に戻るんじゃ」
エルドさんはそういうと、声をかけてきた女性に「お主は来るんじゃ」と声を掛け。
俺達は階段を上り、エルドさんの仕事部屋へと移動した。
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