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猶予
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アズサから山崎の方はどうしたらいいか相談されたが、表立って候補者が出るまでは静観ということにしている。対抗の相手がわからないと打ち手が決まらないってものだ。富永を想定して準備をしてもいいのだが、結局1日2日変わるだけでできることも大きく変わらないと考えたのだ。
「さて、どうなるかなぁ。」
今日は相談部の集まりの日で、部員の前でそう呟く。
「富永さん?どんな感触だったの?」
反応したのはアズサ。関連する相談を持っているからこの件に関する興味は当然高い。
「生徒会長をやることのメリットは十分聞いてもらったとは思うんだけどな。なんかもう一押し足りない気はしてる。それが何かもわかってないけど、松並さんはここまででいいって納得してたから、なるようになるかなぁって感じやな。」
「で、どうなるかなぁって?」
「そうそう、気乗りしないのをわざわざ背中押してやってもそれがその人にとっていいことかどうかはわからんからな。本人の自主性に任せたいところや。実際これはその人にとっても、俺らにとっても大きな岐路になるかもしれんのやからな。」
「なーんだ。動くかどうか迷ってるのかと思った。」
「いや、今回はその気はないな。長い目で見れば本人にとってはメリットやろうけど、それで選挙になって勝つか負けるかもわからん。こっちが勝てば山崎さんが負ける。それはそれで人の人生を左右するからな。あくまで相談は受けるけど、最後の判断は自分でしてもらいたいんだよ。俺もさすがに責任を取れんから。」
これは、社会人になってからも同じこと。自分のキャリアパスは会社に作ってもらうものではなく、自分で築き上げていくものである。俺も社会人の最初のころは漫然と働いていたものだ。
「じゃあまた動きがあったら報告してね。」
アズサがそう言って、この話は終わる。他の相談の動きを確認して、今日は解散となった。
俺は陸上部に合流すべく、部室となっている家庭科室の施錠をアズサに託してすぐに移動をした。
運動場を眺めると、サッカー部、ラグビー部、陸上部が使っている。今日は広く使える権利はラグビー部にある日のようだ。富永の姿も見える。普通に練習をしているように見えるが、彼には何も響いていなかっただろうか。俺はささっと更衣室で着替えを終え、陸上部のもとへ向かう。
事前に相談部との掛け持ちと、相談部の集まりがあるときには遅れることは伝えていたため、特に怒られることはないが、かといってそれで陸上部のメニューを遅らせることはないため、すぐにアップをして合流する必要がある。大会が近いため、練習にも熱が入っている。
陸上部の練習を終えると、他の部活も後片付けをして引き上げの準備をしている。まだ1月で日が短いため、部活動も短めになる。時刻は午後5時だが既に辺りは暗い。その暗がりの中、更衣室に向かう俺に話しかけてくる人影があった。
「八代、ちょっといいか。」
「あぁ、富永さんですか。暗くてよく見えず。昨日は昼時にお邪魔しました。」
「いや、それはいい。お前から見て生徒会長ってやった方がいいと思うか?」
富永の問いはストレート。昨日の話もあり、やはり気にはなっているというところか。
「人によりますよ。俺個人としてはそんなにメリットを感じないです。ただ、やる気があるなら将来的にはプラスに働く人が多いでしょうね。やる気がないのに惰性でやるとその限りではないですが。」
リーダーシップを発揮していくような仕事をしたいならプラスだ。俺は経験的にカバーできているからそこまでメリットを感じていない。
「俺の場合はどう思う?」
「そんなのわかりませんよ。富永さんが将来何をしたいか、それに対してプラスになるかどうかなんじゃないですか?」
先ほどの話通りで、キャリアパスは自分で築くもので、人に委ねるものではない。俺は富永の先輩でもメンターでも上司でもないので、アドバイスする立場にもないため、具体的な言及はしない。
「松並さんの言う通り不思議な奴やな。お前はどこまで見据えて行動してんだ?」
富永は苦笑いしながら言う。
「そんなことはありませんよ。自分の目標も将来もまだ決められていないぐらいなんで。」
俺もまだこの社会に出るまでの猶予期間を享受できる立場にあり、一度目にはしていなかった将来設計、目標を打ち立てて進んでもいいと考えている。
「意外やな。お前でもそうなんやな。ようやく親近感がわいたわ。でも、どうしよっかなー。」
突然くだけた口調になる富永。こちらが素なのだろう。
「最後は自分次第ですよ。後悔しないように考えてくださいね。」
俺から言えるのはこれだけだ。富永との会話を終えて、帰路についた。結構昨日の話は響いてたんだな。
「さて、どうなるかなぁ。」
今日は相談部の集まりの日で、部員の前でそう呟く。
「富永さん?どんな感触だったの?」
反応したのはアズサ。関連する相談を持っているからこの件に関する興味は当然高い。
「生徒会長をやることのメリットは十分聞いてもらったとは思うんだけどな。なんかもう一押し足りない気はしてる。それが何かもわかってないけど、松並さんはここまででいいって納得してたから、なるようになるかなぁって感じやな。」
「で、どうなるかなぁって?」
「そうそう、気乗りしないのをわざわざ背中押してやってもそれがその人にとっていいことかどうかはわからんからな。本人の自主性に任せたいところや。実際これはその人にとっても、俺らにとっても大きな岐路になるかもしれんのやからな。」
「なーんだ。動くかどうか迷ってるのかと思った。」
「いや、今回はその気はないな。長い目で見れば本人にとってはメリットやろうけど、それで選挙になって勝つか負けるかもわからん。こっちが勝てば山崎さんが負ける。それはそれで人の人生を左右するからな。あくまで相談は受けるけど、最後の判断は自分でしてもらいたいんだよ。俺もさすがに責任を取れんから。」
これは、社会人になってからも同じこと。自分のキャリアパスは会社に作ってもらうものではなく、自分で築き上げていくものである。俺も社会人の最初のころは漫然と働いていたものだ。
「じゃあまた動きがあったら報告してね。」
アズサがそう言って、この話は終わる。他の相談の動きを確認して、今日は解散となった。
俺は陸上部に合流すべく、部室となっている家庭科室の施錠をアズサに託してすぐに移動をした。
運動場を眺めると、サッカー部、ラグビー部、陸上部が使っている。今日は広く使える権利はラグビー部にある日のようだ。富永の姿も見える。普通に練習をしているように見えるが、彼には何も響いていなかっただろうか。俺はささっと更衣室で着替えを終え、陸上部のもとへ向かう。
事前に相談部との掛け持ちと、相談部の集まりがあるときには遅れることは伝えていたため、特に怒られることはないが、かといってそれで陸上部のメニューを遅らせることはないため、すぐにアップをして合流する必要がある。大会が近いため、練習にも熱が入っている。
陸上部の練習を終えると、他の部活も後片付けをして引き上げの準備をしている。まだ1月で日が短いため、部活動も短めになる。時刻は午後5時だが既に辺りは暗い。その暗がりの中、更衣室に向かう俺に話しかけてくる人影があった。
「八代、ちょっといいか。」
「あぁ、富永さんですか。暗くてよく見えず。昨日は昼時にお邪魔しました。」
「いや、それはいい。お前から見て生徒会長ってやった方がいいと思うか?」
富永の問いはストレート。昨日の話もあり、やはり気にはなっているというところか。
「人によりますよ。俺個人としてはそんなにメリットを感じないです。ただ、やる気があるなら将来的にはプラスに働く人が多いでしょうね。やる気がないのに惰性でやるとその限りではないですが。」
リーダーシップを発揮していくような仕事をしたいならプラスだ。俺は経験的にカバーできているからそこまでメリットを感じていない。
「俺の場合はどう思う?」
「そんなのわかりませんよ。富永さんが将来何をしたいか、それに対してプラスになるかどうかなんじゃないですか?」
先ほどの話通りで、キャリアパスは自分で築くもので、人に委ねるものではない。俺は富永の先輩でもメンターでも上司でもないので、アドバイスする立場にもないため、具体的な言及はしない。
「松並さんの言う通り不思議な奴やな。お前はどこまで見据えて行動してんだ?」
富永は苦笑いしながら言う。
「そんなことはありませんよ。自分の目標も将来もまだ決められていないぐらいなんで。」
俺もまだこの社会に出るまでの猶予期間を享受できる立場にあり、一度目にはしていなかった将来設計、目標を打ち立てて進んでもいいと考えている。
「意外やな。お前でもそうなんやな。ようやく親近感がわいたわ。でも、どうしよっかなー。」
突然くだけた口調になる富永。こちらが素なのだろう。
「最後は自分次第ですよ。後悔しないように考えてくださいね。」
俺から言えるのはこれだけだ。富永との会話を終えて、帰路についた。結構昨日の話は響いてたんだな。
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