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6限までの授業が終わり、迎えた放課後。俺はアズサと目配せをして、席を立つ。向かうのは生徒会室だ。『招待客名簿』で俺には読めない文字をアズサに見てもらい、メモを取ってくるというのが今日のミッションだ。個人情報?この頃はあんまりうるさくなかったので、目をつぶってほしい。実際、個人情報保護法が施行されるのはインターネットが広く普及した2003年からであり、この物語の現在(1996年)には存在しない。(モラル的な話はあるが)

教室を出て、廊下でアズサと合流し、生徒会室へと向かう。さすがに早く来すぎたようで、残念ながら生徒会室は鍵がかかったままだった。

「さすがに授業終わったばっかりやから来てへんか。」

「そ、そうね。さすがにちょっと早かったみたいね。」

クリスマスデートの約束をだまし討ちのような形でしてしまったので、若干アズサは話しづらいところがあるのかもしれない。そのあとは少し沈黙が続く。

「で、どこか行きたいところとかあるんか?」
仕方なく、俺はそのことについて話を向ける。もう俺の中ではデートすることに対しては仕方がないかなと割り切っているので、特に会話を避けることもない。

「え。あ、うん。いくつか行きたいところはあるんやけど、ちょっと考えさせて。でも、いいの?」

「まぁうっかりしてた俺が悪いし、約束は約束やからな。」

「言い方がひどい!」

そんな話をしているときに生徒会室あるフロアの遠くから近づいている足音に会話を中断する。生徒会長の松並が来たようだ。

「お、何の用や?まぁとりあえず部屋の鍵を開けるな。」
そう言いつつ、松並は生徒会室の鍵を開けて、中へ入るようにと促す。
俺たちは松並に促されるままに生徒会室に入る。

「いや、学園祭の招待客名簿をもう一回見せていただきたいんですよ。昔の知り合いが来ていたっぽくて、今何をしているのかなと。」

「あぁ、いいぞ。見終わったら元に戻しておいてくれ。」

色々恩を売っていた効果だろうか。見せることにはまったく抵抗がないのだな。アズサに目配せをして、早速招待客名簿に目を通す。一度見ているのですぐに目的の記述を見つける。俺にはぼやけて見える文字だ。

「アズサ、これだ。これをメモに取ってくれ。」

「これ?他の行と特に変わった感じはしないけど…これが読めないってことなの?」
俺は頷き、肯定する。

アズサは手早く持ってきていた手帳にメモをする。アズサも手帳を買ったんだな。俺のと似たタイプのものだ。メモしてもらった文字も見てみたが、やはり、読めない。

「ありがとう。じゃあ、行くか。松並さん、ありがとうございました。」

「おう、用はそれだけか?まぁ、また顔を出してくれよ。俺の卒業も近づいてきてしまったけどな。」

そう、もう12月。もう受験に備えなければいけない時期に、この人はまだ生徒会室に来ているので、異常と言えば異常。

「松並さんは受験勉強は大丈夫なんですか?」

「あぁ、ここでやるんだよ。一人より他にもやる人がいるほうがやらなきゃって気持ちになるからな。」

なるほど。体育祭の後、副会長の森井と付き合うことになったらしいし、お互いに励ましながらやってるのかな。そうなると、他の生徒会メンバー入りづらそうだな…

「そうなんですね。がんばってください。では、失礼します。」

変な雰囲気に巻き込まれたくもないため、早々に生徒会室を後にする。

「今日は相談部の部活の日でもないから部室も使えないし、今日はここまでやな。明日にでもマサキとカオリに情報の共有だけしといてくれるか?ちなみに、住所はここから近い、遠い?」

「うん、休み時間にでも話しておくね。住所は、そうね。まぁ遠くはないけど、近くもないかな。電車使って乗り換えとかもあって1時間ぐらい?」

なるほど。絶妙に行きづらい距離で、なかなかみんなに調査を依頼するのも骨な感じだな。気にはなるが、相手は特定できているわけだし、そこまで急ぐ必要もないだろう。

「わかった、ありがとう。もう年末やし、また年明けでどうするか相談させてくれ。」

「え、いいの?気にならない?」

「気にならないと言えば嘘になるけど、もう年末で学校も終わってしまうと、いつもと違う行動をとっている可能性が高いやろ。最悪、どこか旅行とかで見つけられないかもしれないぞ。」

「あ、そっか。確かに、もう冬休みやもんね。」

「そういうことだ。急がば回れってことで、一旦忘れて大丈夫だ。せっかくの休みやし、やりたいことをやるほうがいいと思うしな。」

アズサはふっと笑いながら言う。
「ふふっ。ケイタくんらしい言葉が出たね。やっぱり高校生の時間って貴重なのかな?私には実感がわかないけど。」

「そうやな、もう記憶としてはおぼろげやけど、やっぱりこの時間を楽しまないともったいないって気持ちはあるぞ。」

アズサはさらに笑い出した。

「あはははは!もう完全にオッサンの言葉よね。」

「そうそう、オッサンだぞ。だからオッサンじゃない人にしとけ。」
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