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穴場

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花火大会の日。働きはじめてからはしばらくはゆっくり見に行く日ヒマもなく、ただ人出が多くて近隣に近寄れなくなるため、正直邪魔なイベントだと思って冷めた目で見ていた時期もあった。歳を取るに連れ、それを運営する人たち、周囲に与える経済効果などを考えるといいもんだと思うようになった。

それでも、行くと帰るのに苦労するのもよくわかっているため、あえて行こうとは思わなかった。それでも今、俺はこの高校1年では一回限りの花火大会(他の花火大会はあるが、この花火大会という意味)に行かないという選択肢はなかった。それに、実家へなら最悪歩いて帰ることができる。1時間も歩けば着くだろう。

待ち合わせは高校の前にした。メイン会場に近く、駅からも遠くないし、わかりやすい。学校は夜閉まってしまうし、自転車を置く場所がないため、結局来るときは走ってきた。歩いて1時間だが、軽く走れば30分程度だ。待ち合わせ時間は17時。花火自体は19時30分からだがこれぐらいから動き始めないと、メイン会場に近づくことが難しくなる。逆に言うと、メイン会場に近づきすぎると帰るときは大変になるのでその塩梅が難しい。

待ち合わせ時間ほぼちょうどに着くと、既に俺以外揃っていた。アズサ、ユキ、マサキ、カオリ、リナ、タクミ、ヨウスケ、コウキ、リクに俺を加えてちょうど10人だ。

「すまん、ちょっと遅くなった。」

「いや、時間通りやろ。ってかすげぇ汗やぞ!?」

答えたのはタクミ。そう、誤算だったのは今は8月初旬、30分も走ればどうなるか。汗まみれになる。当たり前のことだ。

「自転車止める場所ないと思って走ってきたら失敗したわ。」

自販機を探して飲み物を買わねば。よく見てみると、アズサ、リナは浴衣、コウキは甚平を着ていた。それっぽくていいね。

「みんな揃ってるみたいやし行くか。遅くなると動きにくくなるからな。」

「どこに行くん?メイン会場に入ったら帰るの大変やってお母さんから聞いたよ?」

そう言ったのはアズサだ。

「まぁ地元の人が使う穴場的なところや。それでも人は多いけどな。でもメイン会場に行くよりはマシやと思うぞ。ちょっと遠いっちゃ遠いけど。」

そう、実家にいた頃はそこから何回か観たことがあるが、ほぼ真上に観えるのに比較的込み具合はマシというまさに穴場だ。途中の自販機でジュースを買う。この頃の自販機のジュースは110円がスタンダードだ。100円はもうちょっと前か。一息に飲み干してしまう。河川敷に近づく前にもう一本いるな。

メイン会場から遠ざかったところで、狭い道だが、河川敷へと続く道がある。そこから堤防に登り、河川敷に降りきらずに、堤防の斜めになっているところ。ここがポイントだ。

穴場を取るには十分早い時間に出ていたと思ったが、まぁまぁ人はいた。それでも10人の団体が座れるんだ。上等だろう。さて、ここにもすぐに出入りができなくなる。

「出店とかで買うもんあったら今のうち買って来て花火の時間まで待とか。すぐにここらへんも混みだすからな。買い出しは交代で半分ずつな。」

俺は持ってきていたレジャーシートを広げて置く。

「動きづらくなるから浴衣着てる人アズサとリナは先に行ってきたほうがええかもな。他は誰が行く?」

手を上げたのはタクミとヨウスケとリクだ。

「じゃあ行ってくるね。」

アズサ達はそう言って出店に向かっていく。残ったのは、ユキ、コウキ、マサキ、カオリ、俺だ。

「まだ6時過ぎやのにめっちゃ増えてきたな!5時は早すぎるやろと思ってたけどちょうどいいぐらいやったんかもな。ケイタ、この花火結構来てんのか?」

尋ねてきたのはコウキ。

「まぁ、昔な。」

「昔って小学生とかか?」

「そ、そうそう、兄貴に連れられてな。」

しまった。ちょっと高校生から昔だと年齢的に幼くなりすぎるよな。

「私もここ教えてもらったことある。」

そう言ったのはユキだ。

「へぇ。じゃあ結構有名なんか。道知ってないと来にくいからあんま増えへんのかなぁ。」

話がちょっと変わっていったな。コウキは次にマサキとカオリに話を振る。

「相談部ってみんな大体一緒におるけどお前ら2人はその中でも更にセットって感じやな。付き合ってんの?」

ストレートに聞かれて2人はちょっと慌てたようになっている。あれ?ほんとにそうなの?とりあえず助け舟出しとくか。

「2人でチームになってもらってるからそれはそうやろな。」

「あー、チーム制やったんやな?」

「そうそう、チームやからね。」

そう答えたのはコウキだ。慌てると余計怪しいんだが、そっとしておいてやろう。そうしてなんだかんだと話していたら、第一陣が戻ってきた。やっぱりリクとリナがいい感じに見えるのは俺の偏見のせいだろうか。
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