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瓶の中身に振り回されていたのは、何も知らされていない村人ではなく
俺たちの方であった。
セイリオスから手解きを受け、ユーノは残りの瓶を処分するため
集会所にレウスを引き連れていく。
人目につかないよう一刻も早く処分するためにはレウスの力が必要だと、
ユーノ自身が彼に頼み手を引き、
困惑したままのレウスは引かれるがまま連れて行かれる。
その異様さに俺は取り残されていた。
日の傾いた診療所。
壁に点々と設置されたオイルランプのおかげで室内は、ほのあかるい。
レウスとユーノを手伝おうと2人についていこうとしたが
食事も兼ねたドブ……もとい薬からは逃れられず
所定の位置とかしたベッドに腰をかけている。
「ユーノ……何であんなに親しげに振る舞えるんだろう……」
ふと、疑問が口からもれてしまった。
「……とある、教団に……尊厳のある死は救いというものがあるのです。
狂う前に救おうとしてくれた、と、思っているのやもしれません」
「死んでしまったら、尊厳も何もないだろう」
「死に救いを見出すことは……稀な事ではありません。
信仰心とは傍目から見れば総じて狂気に映るモノです。
ユーノはあの歳で転々としていますから、より不安定に映るのでしょう」
セイリオスは薬の調合をしながら独り言に返事をくれた。
「救い……」
疲れ果て自害してしまったユーノが頭をよぎる。
あの時、ユーノは救われていたのかもしれない。
狂った集団の中でやっと掴み取れた平穏を
俺が、生きて欲しいと一方的に願い、それを踏み躙ってしまったのではないのか。
団員達にこの先も苦しむ事を強要しているだけなのではないのか…?
永遠に問う事のできない考えが巡っていく。
「救い、という言葉は非常に口当たりが良いモノです。
あまりにも優しく甘やかで、都合の良い幻想を抱いてしまう。
救いを求めていれば、救いにさえ辿り着けば、全てが解決する。
魅了されたら最後ですよ。理解していても手放せなくなります」
諭すようなセイリオスの声に意識が現実へと戻される。
「あの場を収める力がないばかりか暴力に頼って、軽率だった……」
「喧嘩は良く無いと、わかっているなら大丈夫です。難しくとも皆と仲良くしましょうね」
妙な子供扱いに思わず顔を顰めてしまう。
いちいち反応して、それこそ子供じみている。
「結局瓶の中身は、なんだったんだ」
「何度でも言いますよ。瓶の中身は蛇の死骸です。
そして、あなた達はまごう事なき人の子。
血の反応は免疫の有無。今風に言えば、祝福の力があるか、ないか。
死骸に残された再生の力がそれに反応した。それだけのことです」
「それじゃあ団員たちにも力が備わっているということになる。
報告もないし、本人達にも自覚はない。団長は知っているのかな……」
「直接訊いてみれば宜しいのでは」
団員……特に団長の話題になると、セイリオスはどこか冷ややかだ。
戻る前も、今も。気にはなった。
突き放されたら、セイリオスに見放されてしまったらという恐怖が先を行き、
尋ねることができない。
「どうぞ。夜の分です」
差し出された薬を一気に飲む。
用意してくれたものに文句をつけたくはなかったが、素晴らしい最悪の味だ。
嫌いなものを熟知しているのか?と問いたくなる。
手間はかかるし、効果は絶大だから飲み切らざるを得ない。
「永遠に慣れない気がする」
「ふふ、ちゃんと全部飲みましたね。偉いですよ。
その様子なら明日から徐々に食事を始めてみても良さそうですね。
私は、これから2人のお手伝いに行ってきます。
2人とも……」
セイリオスは素早くこちらに背を向け、何かに耐えるように
場に立ち止まった。平然としてはいるが、参っているんだろう。
広い背中が少しだけ小さく見える。
言葉をかけようとしていると、小刻みに肩が揺れていた。
泣いている?いや、違う…。
「笑ってるのバレてるからな」
「副団長に頼られるのが嬉しくてつい。と言ったら許してくれますか?」
「許すとかそういうのじゃないけど。ちょっと不謹慎かな、と…」
「何故だか無性に笑いが込み上げてくるのです。
止める者の気持ちが、今更になってわかるだなんて。思いもしなかった」
さっきまで軽薄に思えた静かに笑う後ろ姿。
痛ましさすら感じる、侘しいものに見えた。
「…ごめん、不謹慎だなんて」
「あなたは教えられてもいない事を察しようとして、心を痛めるのですね。
謝る必要は無いのです。不謹慎……まったくその通りですから」
「……何があったか知らなくても。セイリオスが寂しそうなことくらいは、わかるよ」
「副団長」
柔らかな口調と、少しの沈黙。
セイリオスは穏やかに、それ以上踏み込むな、と警告する。
「彼らも生き急ぐのが好きみたいですし急がれる前に行ってきますね」
そのまま2人の元へと向かった。
取っ組み合いのあたりから、彼はこの場にいた。
仲間内で殺す殺さないの話になっている中、平然と入室し、しばらく傍観。
何故初めから止めに入らなかったのか。
彼のいう「未来ある若者たちのため」。
果たしてそのままの意味としてとらえていいのか。
それにしても若者って。
セイリオスは一体、いくつなんだろう。
王都の民もそうだが、異国の民はもっと年齢が分かりにくい。
落ち着いた物腰なのに時々からかってくる。
若者ですらなく子供だと思われているのだろうか。
彼からしてみればそうなのかも知れないが、複雑だ。
団員の中で一番会話をしてくれるのに。
わからないことばかり。
知りたいと思っても、拒否される。どうすれば良いんだろう。
俺はどうしたいんだろう……。
薬の味を消すため水を飲みながら、ぼうっとそんなことを考えてしまう。
まだ余裕があるということだ。
今やれる、やるべきことを、こなそう。団長と話し合わなければ。
俺たちの方であった。
セイリオスから手解きを受け、ユーノは残りの瓶を処分するため
集会所にレウスを引き連れていく。
人目につかないよう一刻も早く処分するためにはレウスの力が必要だと、
ユーノ自身が彼に頼み手を引き、
困惑したままのレウスは引かれるがまま連れて行かれる。
その異様さに俺は取り残されていた。
日の傾いた診療所。
壁に点々と設置されたオイルランプのおかげで室内は、ほのあかるい。
レウスとユーノを手伝おうと2人についていこうとしたが
食事も兼ねたドブ……もとい薬からは逃れられず
所定の位置とかしたベッドに腰をかけている。
「ユーノ……何であんなに親しげに振る舞えるんだろう……」
ふと、疑問が口からもれてしまった。
「……とある、教団に……尊厳のある死は救いというものがあるのです。
狂う前に救おうとしてくれた、と、思っているのやもしれません」
「死んでしまったら、尊厳も何もないだろう」
「死に救いを見出すことは……稀な事ではありません。
信仰心とは傍目から見れば総じて狂気に映るモノです。
ユーノはあの歳で転々としていますから、より不安定に映るのでしょう」
セイリオスは薬の調合をしながら独り言に返事をくれた。
「救い……」
疲れ果て自害してしまったユーノが頭をよぎる。
あの時、ユーノは救われていたのかもしれない。
狂った集団の中でやっと掴み取れた平穏を
俺が、生きて欲しいと一方的に願い、それを踏み躙ってしまったのではないのか。
団員達にこの先も苦しむ事を強要しているだけなのではないのか…?
永遠に問う事のできない考えが巡っていく。
「救い、という言葉は非常に口当たりが良いモノです。
あまりにも優しく甘やかで、都合の良い幻想を抱いてしまう。
救いを求めていれば、救いにさえ辿り着けば、全てが解決する。
魅了されたら最後ですよ。理解していても手放せなくなります」
諭すようなセイリオスの声に意識が現実へと戻される。
「あの場を収める力がないばかりか暴力に頼って、軽率だった……」
「喧嘩は良く無いと、わかっているなら大丈夫です。難しくとも皆と仲良くしましょうね」
妙な子供扱いに思わず顔を顰めてしまう。
いちいち反応して、それこそ子供じみている。
「結局瓶の中身は、なんだったんだ」
「何度でも言いますよ。瓶の中身は蛇の死骸です。
そして、あなた達はまごう事なき人の子。
血の反応は免疫の有無。今風に言えば、祝福の力があるか、ないか。
死骸に残された再生の力がそれに反応した。それだけのことです」
「それじゃあ団員たちにも力が備わっているということになる。
報告もないし、本人達にも自覚はない。団長は知っているのかな……」
「直接訊いてみれば宜しいのでは」
団員……特に団長の話題になると、セイリオスはどこか冷ややかだ。
戻る前も、今も。気にはなった。
突き放されたら、セイリオスに見放されてしまったらという恐怖が先を行き、
尋ねることができない。
「どうぞ。夜の分です」
差し出された薬を一気に飲む。
用意してくれたものに文句をつけたくはなかったが、素晴らしい最悪の味だ。
嫌いなものを熟知しているのか?と問いたくなる。
手間はかかるし、効果は絶大だから飲み切らざるを得ない。
「永遠に慣れない気がする」
「ふふ、ちゃんと全部飲みましたね。偉いですよ。
その様子なら明日から徐々に食事を始めてみても良さそうですね。
私は、これから2人のお手伝いに行ってきます。
2人とも……」
セイリオスは素早くこちらに背を向け、何かに耐えるように
場に立ち止まった。平然としてはいるが、参っているんだろう。
広い背中が少しだけ小さく見える。
言葉をかけようとしていると、小刻みに肩が揺れていた。
泣いている?いや、違う…。
「笑ってるのバレてるからな」
「副団長に頼られるのが嬉しくてつい。と言ったら許してくれますか?」
「許すとかそういうのじゃないけど。ちょっと不謹慎かな、と…」
「何故だか無性に笑いが込み上げてくるのです。
止める者の気持ちが、今更になってわかるだなんて。思いもしなかった」
さっきまで軽薄に思えた静かに笑う後ろ姿。
痛ましさすら感じる、侘しいものに見えた。
「…ごめん、不謹慎だなんて」
「あなたは教えられてもいない事を察しようとして、心を痛めるのですね。
謝る必要は無いのです。不謹慎……まったくその通りですから」
「……何があったか知らなくても。セイリオスが寂しそうなことくらいは、わかるよ」
「副団長」
柔らかな口調と、少しの沈黙。
セイリオスは穏やかに、それ以上踏み込むな、と警告する。
「彼らも生き急ぐのが好きみたいですし急がれる前に行ってきますね」
そのまま2人の元へと向かった。
取っ組み合いのあたりから、彼はこの場にいた。
仲間内で殺す殺さないの話になっている中、平然と入室し、しばらく傍観。
何故初めから止めに入らなかったのか。
彼のいう「未来ある若者たちのため」。
果たしてそのままの意味としてとらえていいのか。
それにしても若者って。
セイリオスは一体、いくつなんだろう。
王都の民もそうだが、異国の民はもっと年齢が分かりにくい。
落ち着いた物腰なのに時々からかってくる。
若者ですらなく子供だと思われているのだろうか。
彼からしてみればそうなのかも知れないが、複雑だ。
団員の中で一番会話をしてくれるのに。
わからないことばかり。
知りたいと思っても、拒否される。どうすれば良いんだろう。
俺はどうしたいんだろう……。
薬の味を消すため水を飲みながら、ぼうっとそんなことを考えてしまう。
まだ余裕があるということだ。
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