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初めて聞くお話
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ある日、買い物帰りに広場を通りかかると、ちょっとした人だかりができていた。
ここでは大道芸人だとかが芸を披露していたりする。その類かと思いながらも気になって近づいてみると、輪の中心にいたのは羽かざりのついたつばの広い帽子を被り、長いマントを羽織った男の人。リュートを抱えているところを見ると、吟遊詩人というやつだろうか。
吟遊詩人なんて本物を見るのは初めてだ。一体どんな感じなんだろう。少しくらいなら見ていっても良いよね。
人が集まったのを見計らってか、詩人の男性はリュートを爪弾く。その音色がやけに響いて、周囲はすっと静かになった。
男性の話はこうだった。
ある貧しい村に将来を約束した若い男女がいた。
二人は幸せだったが、ある時村が不作に見舞われ、男は都会へと出稼ぎに行くことになる。
「春には必ず戻ってくる」という男の言葉を信じ、少女は男に手紙を送り続けるも、いつになっても男は帰ってこず、徐々に手紙の返事も滞ってゆき、ついには途絶えてしまう。
男の身に何かあったのではと心配するあまり、少女は黄色い小鳥の姿になってしまう。
けれど、これで彼に逢いにいけると歓喜した少女は都会へと向かい、男の姿を探す。
ひらすら男を探す少女。自身が衰弱していることも気にせずに。
そしてついに男を見つけた少女。歓喜とともに男の元へと近寄るが、男の隣には見知らぬ女性。肩を抱いて親しそうにしている。明らかに特別な関係だとわかった。
都会的で綺麗に着飾った女性は、素朴な少女とは大違い。彼は土臭い私なんかより、美しい都会の女性に心を奪われてしまったのだと悟る。手紙の返信が滞っていたのも、ずっと村に戻ってこなかったのもそれが原因なのだろう。
彼を失ったら生きていけない。絶望した少女は、自ら薔薇の棘に胸を刺し、その命を絶ったのだった。
しかし、それを気の毒に思った神が、少女を黄色い薔薇へと生まれ変わらせ、今もその薔薇は彼を思いながら咲き続けているという――
なんて理不尽な話なんだ。私だったらせめてもの仕返しに、くちばしで男に目潰しをかましているところだ。
しかし、吟遊詩人の技量か、そんな理不尽な話でも胸に染み入る。少女に感情移入しすぎて、ちょっと泣きそうになってしまった。
周囲の人々の拍手と共に、男性の前に置かれた入れ物にコインがどんどん投げ入れられる。
そうか、あそこにお金を入れるのか。
感動させてもらったお礼にと、私もコインを投げ入れた。
しかし、吟遊詩人がこんなに大人気だとは。この国にも本屋はあるし、絵本や童話の類もあったはずだけれど、何がみんなをそこまで惹き付けるのかな?
◇◇◇◇◇
「そりゃアレだろ。あいつらは色んな国を渡り歩いてるからな。この国の奴らが知らない話を山ほど知ってる。みんなそれを楽しみにしてんだよ。ガキの頃には俺の家にもよく来てたな」
「私の元主も、時折吟遊詩人を屋敷に呼んでは異国の話を楽しんでいましたよ」
お店に帰ってから尋ねてみると、レオンさんとクロードさんがそれぞれ答えてくれた。
しかし家に吟遊詩人を呼ぶなどという、貴族的エピソードをさらっと挟み込むとは。格差を感じる。
「そういやネコ子、お前がこの間してくれた……えーと、白雪姫、だっけ? あれも結構面白かったぜ。吟遊詩人に売れば喜んで買い取ってくれるんじゃねえの?」
話を売る!? そういうのもあるのか!
しかもレオンさんは白雪姫の話を知らなかったようだし。
これは……これはもしかして大チャンスなのでは?
◇◇◇◇◇
お休みの日。私は花咲きさんの家に駆けこむとともに、挨拶もそこそこに声を上げる。
「花咲きさん! 絵本をつくってみませんか!?」
ここでは大道芸人だとかが芸を披露していたりする。その類かと思いながらも気になって近づいてみると、輪の中心にいたのは羽かざりのついたつばの広い帽子を被り、長いマントを羽織った男の人。リュートを抱えているところを見ると、吟遊詩人というやつだろうか。
吟遊詩人なんて本物を見るのは初めてだ。一体どんな感じなんだろう。少しくらいなら見ていっても良いよね。
人が集まったのを見計らってか、詩人の男性はリュートを爪弾く。その音色がやけに響いて、周囲はすっと静かになった。
男性の話はこうだった。
ある貧しい村に将来を約束した若い男女がいた。
二人は幸せだったが、ある時村が不作に見舞われ、男は都会へと出稼ぎに行くことになる。
「春には必ず戻ってくる」という男の言葉を信じ、少女は男に手紙を送り続けるも、いつになっても男は帰ってこず、徐々に手紙の返事も滞ってゆき、ついには途絶えてしまう。
男の身に何かあったのではと心配するあまり、少女は黄色い小鳥の姿になってしまう。
けれど、これで彼に逢いにいけると歓喜した少女は都会へと向かい、男の姿を探す。
ひらすら男を探す少女。自身が衰弱していることも気にせずに。
そしてついに男を見つけた少女。歓喜とともに男の元へと近寄るが、男の隣には見知らぬ女性。肩を抱いて親しそうにしている。明らかに特別な関係だとわかった。
都会的で綺麗に着飾った女性は、素朴な少女とは大違い。彼は土臭い私なんかより、美しい都会の女性に心を奪われてしまったのだと悟る。手紙の返信が滞っていたのも、ずっと村に戻ってこなかったのもそれが原因なのだろう。
彼を失ったら生きていけない。絶望した少女は、自ら薔薇の棘に胸を刺し、その命を絶ったのだった。
しかし、それを気の毒に思った神が、少女を黄色い薔薇へと生まれ変わらせ、今もその薔薇は彼を思いながら咲き続けているという――
なんて理不尽な話なんだ。私だったらせめてもの仕返しに、くちばしで男に目潰しをかましているところだ。
しかし、吟遊詩人の技量か、そんな理不尽な話でも胸に染み入る。少女に感情移入しすぎて、ちょっと泣きそうになってしまった。
周囲の人々の拍手と共に、男性の前に置かれた入れ物にコインがどんどん投げ入れられる。
そうか、あそこにお金を入れるのか。
感動させてもらったお礼にと、私もコインを投げ入れた。
しかし、吟遊詩人がこんなに大人気だとは。この国にも本屋はあるし、絵本や童話の類もあったはずだけれど、何がみんなをそこまで惹き付けるのかな?
◇◇◇◇◇
「そりゃアレだろ。あいつらは色んな国を渡り歩いてるからな。この国の奴らが知らない話を山ほど知ってる。みんなそれを楽しみにしてんだよ。ガキの頃には俺の家にもよく来てたな」
「私の元主も、時折吟遊詩人を屋敷に呼んでは異国の話を楽しんでいましたよ」
お店に帰ってから尋ねてみると、レオンさんとクロードさんがそれぞれ答えてくれた。
しかし家に吟遊詩人を呼ぶなどという、貴族的エピソードをさらっと挟み込むとは。格差を感じる。
「そういやネコ子、お前がこの間してくれた……えーと、白雪姫、だっけ? あれも結構面白かったぜ。吟遊詩人に売れば喜んで買い取ってくれるんじゃねえの?」
話を売る!? そういうのもあるのか!
しかもレオンさんは白雪姫の話を知らなかったようだし。
これは……これはもしかして大チャンスなのでは?
◇◇◇◇◇
お休みの日。私は花咲きさんの家に駆けこむとともに、挨拶もそこそこに声を上げる。
「花咲きさん! 絵本をつくってみませんか!?」
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