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7月の入学

7月の入学 7

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 みんなの視線がこちらに集中する。一様に不可解な色を浮かべて。その中から例の老紳士が人々の疑問を代表するように口を開いた。


「人間じゃない? それじゃ一体何者の仕業だっていうんだい? まさか幽霊が持ち去ったとでも言いださないだろうね」

「幽霊とは言いませんが……そうですね。例えば、鳥の仕業だとは考えられませんか?」

「鳥?」

「この噴水の周りには鳥の姿がちらほら見えますよね。その中にはカラスなんかもいたんじゃないでしょうか。ほら、カラスって光るものが好きでしょう? だから五百クラール銀貨みたいな光るものが転がっているのをみつけて、真っ先に拾い去ってしまったんじゃないかと」


その場の人々が戸惑いの表情を見せる。


「カラス? まさか……」

「でも、ありえない話じゃないと思うわ。あたしも前に指輪を取られそうになった事があるし……」


 周囲の言葉に、女性は肩を落として嘆く。


「……ああ、それじゃあ私の銀貨はとっくにカラスが持ち去ってしまったのかしら。どうりで見つからないはずだわ」


 他の人達も一応は納得したのか、諦めの表情を浮かべたり、女性を慰めたりしている。
 そのままなんとなく重く落胆した空気が流れ出した時、人々の背後から少年の声が響いた。


「あの、もしかしてお探しの銀貨って、これじゃありませんか?」


 みんなが振り返る。そこにはテオが立っていた。広げた彼の手の中には五百クラール銀貨が二枚。


「まあ! それ、一体どこにあったの? あんなに探しても見つからなかったのに」

「ええと、噴水の反対側に転がっていったみたいで……そこでみつけました」

「そんなところに? でも、そこだって念のため探したはずなのに……見落としていたのかしら……」

「その、あの……一見わかりにくいところに落ちていたというか……」


 しどろもどろに答えるテオに素早く近づくと、わたしは大きな声を上げる。


「わあ、きっとこれが探していた銀貨に違いありませんよ! 枚数も同じだし! わたしってば、カラスの仕業だなんて間違った推測で皆さんを混乱させてしまって……本当にすみませんでした。本当の銀貨はこんな近くにあったんですね」


 謝りながらテオに目配せすると、彼は銀貨を乗せた手を女性に差し出す。少しばかり戸惑っていた女性だったが、


「見つかって良かったですね」


 テオの言葉と周囲の人々に後押しされて銀貨を受け取り


「ありがとう。みなさんもありがとうございました。本当に助かりました」


 と、安堵の表情で感謝の言葉を口にした。
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