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弓師とエルフ

二十六話 気遣うがゆえの遠慮

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「あ、ミラウッド」
「コーヤ」
「飲み物、ありがとう。生き返ったよ」
「それはよかった」

 ベンチでセロー、ルナリアと共にゆっくりしていると、ミラウッドが戻ってきた。

「……」
「?」

 なにやら出会った当初の頃のように、眉間にシワを寄せ考え事をしているミラウッド。
 どうすればいいか迷っている時の顔だ。

「なにかあったか?」
「! ……いや」
「もしかして、急ぎ?」
「……そう、だな。だが──」
「俺絡みってことは精霊に関することか? 力になれるかどうかは分からないが、村の皆にはよくしてもらっているんだ。遠慮せずに言ってくれ」

 言いよどむということは、俺や精霊に関することだろう。
 セローとルナリアもうんうんと頷いている。

「──すまない。その、一部のエリアで水場が枯れていてな」
「! 大事じゃないか!」
「そうだな……だが、他の場所から運べば問題はない」
「でも、そこを利用している人で腰がわるいとかさ。女子供で力が弱いとかだと、不便じゃないか?」
「それは……」
『上流で問題があったとかか?』
『精霊の眠りによって起こっているのでしたら、わたくしでも力になれるかもしれませんわ』
「コーヤ。セロー様。ルナリア様……」
「長老さんとかに俺と見てくるように言われたんだろ? もちろん行くさ」
「……すまない。感謝する」

 たしかに魔物のように今すぐ命の危機、というわけではない。
 ミラウッドやエルフたちが遠慮する気持ちも分かる。
 だが、インフラ周りの不便やライフラインの不備というのは巡り巡って後々少なからず影響を及ぼす。
 早めに対策できるならした方がいいだろう。

 これが元の世界──『便利』な世界であれば、俺の見えないところで会社やそこで働く人々が支えている。

 ありがたいことだ。
 ただ、便利になることで見えなくなるものもある。
 エルフたちのように、地域の者同士で相談したり、対策したり……感謝を伝え合ったり。
 そういった一面が見えなくなってしまう。

 元の世界だろうがエルフの村だろうが……どちらにもいいところがあって、どちらにも『もっとこうだといいな』と思うことがある。

 結局のところ、自分がどう思って何を選ぶかなんだろう。

 俺は……どちらの世界の方がいいなんて、今も決めきれない。

「急ぎではない。今日は休んで、明日にしよう」
「ああ。なら、今日はゆっくり休んで明日に備えるよ」
『今日も肉がイイな』
『まぁまぁ、食いしん坊さんですこと』
「では、そのようにいたします。セロー様」
『おー』

 もうしばらくすると陽が傾く。
 今は午後三時くらいだろうか。
 夕方にまたミラウッドから食事を作りに来てくれるというので、それまでに俺は今着ている服を洗濯し、セローに乾かしてもらうことにした。


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