上 下
22 / 94
魔術師と剣士

第十六話 それぞれの師

しおりを挟む

 あの後、本当に夕食まで食べ歩いた。
 それはもう、しばらくご飯は要らないんじゃないかとでもいうくらい。
 だが、人は良く出来た生き物で、翌朝になれば難なく朝食を平らげた。不思議だ。

 荷物をまとめ、宿を後にする。
 基本的に旅に必要な物は、僕が持ち運んでいる。
 
「おーーし! 快晴快晴! どっからでも掛かってこいやー」
「元気だな……」

 これから、街道沿いに進んで大きな港町『シェーン・メレ』へと向かう。
 少しだけ内陸に位置していたプラハトから、海へ向かいながら延びる街道を行く。
 グリュンバードの生息していた川は、この街道と街を挟んで反対側だ。

 だがその前に、魔物とやらに

「脅しであればいいのだがな」
「えー。たまには体動かさないと、なまっちゃうよルカちゃん♪」
「はぁ」

 この調子だ。
 誰が好き好んで襲われたいとでも思うのか。

「行くか」
「おー!」


 ◇


 途中、風待草かぜまちそうや、ハーブ等を見掛けたのでそれらを採りながら進んだ。
 自分の趣味として持ち歩くのもいいが、そろそろ調合用に道具を揃えてもいいかもしれない。

 師匠の所にいた頃は、屋敷の道具を借りていたし、冒険者となってからは薬屋に持ち込んで調合してもらうか、そのままギルドで買い取ってもらうかだった。

 プラハトで見繕っておけば良かったか。
 いや、しかし先立つモノが……。

 そう頭を捻っていると、ヴァルハイトが話しかけてきた。

「考えごとー?」
「そんなところだ」
「ふーん」

「そういえば、ヴァルハイト……。お前の剣術は誰かに習ったのか? とても冒険者になるために始めたようには見えないが」

 魔法学校のように、一定の教育を終えた後、騎士や憲兵、はたまた冒険者として生きていくために主に武器の扱いを学ぶための学校もあった。

「あー……。まぁ、そんなところ!」
「真似するな」
「バレた?」

 誤魔化すように、にしし、と笑う。
 明朗な言動の目立つヴァルハイトだが、時々、はぐらかす様に答えを濁す場面もある。
 それは彼の抱えているものに起因するのであろうが、それを知りたいと思うのは自分でも不可解だ。

「何ていうのかな、元々は義務? だったんだけど、今は、自分のためにも……他人を守れるようになるためにも、強くなりたいって。そう思う」

 不意に見せる真面目な顔は、自分のためだけではなく他人を思いやる時に良く見せた。

「まぁ、教えてくれた人は剣だけじゃなくて、色々な武器扱えるんだよね~。その人超えるのがまず目標かな!」
「ほう、師匠のような存在か」
「そーそー♪ そういうルカちゃんの師匠さんは? どんな人?」

 彼女のことを思い浮かべると、まず出てくる言葉がある。

「弟子バカだな」
「弟子ばか?」

「僕の育ての親にあたるのだが、薬草学の権威でもあり、魔術師としても有名だ。……だが、残念なことに僕のこととなると見境がなくてな。目も当てられない」

 黙っていれば、美女と形容しても差し支えない容姿を持ち、その聡明さから憧れる者も少なくない。
 そんな彼女は僕のことになると残念な女性になった。

「へぇ……! さすがルカちゃんの師匠、有名なんだ。でも、それだけ大事にしてくれたってコトは、良いことなんじゃない?」
「そう、だな」

 そもそも彼女がいなかったら、僕は生きているかすら危うい。
 
 引き取られた後も僕は魔法学校で、ひたすら魔法の修行に打ち込み、友と呼べるような者もいなかった。
 黒持ちであることも原因だったが。
 そんな僕を彼女は常に心配していた。
 過保護ではあったが、間違いなく彼女からは愛されていた。

「僕には本当の親の記憶はない。僕にとっては、たった一人の家族で、大切な人だ」
「ルカちゃん……」

 それに今は──。
 ずっと孤独に修行をしてきたが、今は一人じゃない。

 良く分からんチャラい剣士で最初はどうなるかと思ったが、案外。悪くはないと思えてきた。

 大誤算だ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

その転生幼女、取り扱い注意〜稀代の魔術師は魔王の娘になりました〜

みおな
ファンタジー
かつて、稀代の魔術師と呼ばれた魔女がいた。 魔王をも単独で滅ぼせるほどの力を持った彼女は、周囲に畏怖され、罠にかけて殺されてしまう。 目覚めたら、三歳の幼子に生まれ変わっていた? 国のため、民のために魔法を使っていた彼女は、今度の生は自分のために生きることを決意する。

処理中です...