17 / 94
魔術師と剣士
第十三話 幻惑の森 帰還
しおりを挟む
「終わったのか……?」
恐る恐る洞窟よりこちらの様子を伺っているセネルは、僕らに問いかけた。
「あぁ、ルカちゃんが、ぜーーーんぶやっつけてくれました! 誰かさんとは大違いだなぁ!」
さすがに全部ではないのだが。
「う、うるせぇ! 俺らだってちゃんと準備していれば──」
「は? いま、命があるからそんなこと言えるんだろうが。事前の準備や魔物の情報は、冒険者の基本。それを怠った時点でお前に冒険者の資格はない。とっとと廃業するんだな」
やはりセネルに対しては突き放す物言いをする。
よほど気に入らない様子だ。
「──っ! 大体、魔術師のお前が抜けるからバランスが悪くなったんだろうが!」
「はぁ……」
追放したのはどこの誰なんだ。
「ルカちゃん……、こいつ、ヤっていい?」
ヴァルハイトの我慢は限界のようであった。
額には青筋が浮かんでいる。
当事者の僕より怒っているのは何でだ。
「やめておけ。ヴァルハイトの手を汚すまでもない。……このまま旅を続けていればいずれ勝手に果てるさ」
「な、何だと……!」
「る、ルカさん! ヴァルハイトさん! この度は……、ありがとうございます」
セネルを制し、奥から出てきたイレーズが、今までで一番大きな声でお礼を言ってくれた。
「セネル……、私たちは、助けられたんだよ? どうしてお礼言えないの?」
少女ならではの無垢な疑問だった。
だがそれは、セネルよりよほど大人びて見えた。
「……!」
「セネル、今回は紛れもなく助けられたわ。彼女の言う通りよ。……ルカ、ありがとう」
少し照れくさそうに、リーべが言った。
あの彼女すら素直になるくらいだ。
相当ここで心細い思いをしていたのだろう。
「いや~~、どこのパーティーもご婦人方はしっかりしてるなぁ!」
「?」
「いやいや、こっちの話♪」
元のパーティーの話だろうか。
「セネルさん、これだけは言わせてもらう。自分の思い描いた現実と違う時。己の力量不足を感じた時。まずは、素直にそれを認めること。受け入れること。────それが、強さってもんだぜ?」
いつかギルドで感じたような殺気を放ち、冷ややかな笑みを浮かべヴァルハイトは言った。
「~~~~!! ちっ」
セネルは歯痒い面持ちで、地面へと視線を落とした。
そして、真っ直ぐに僕を見据える。
「…………、ルカ。助かった。礼を言う」
言うと同時にすぐ顔を背けた。
あのセネルがここまで言うとは、成長だ。
それを引き出したヴァルハイトも、相当だ。
僕はといえば……。セネルはどうせこうだから、と諦めていたが。
諦めず、根気よく対話していればもっと早くにセネルは素直になれたのだろうか。
こういうところは、ヴァルハイトを見習わなければならないと思った。
「いや、無事で良かった。よく耐えてくれたな」
「ふんっ」
「さ、早いところ危険な場所とはオサラバして、帰ろうぜ~~」
「そうだな、早く帰ろう」
念のためヘレウルフの死骸を収納魔法へと入れ、その場を後にした。
◇
「────! ルカさん、セネルさん!」
ギルドへと全員で帰還した。
受付へと向かえば、こちらから声を掛けるより先に応えてくれる。
「全員無事だったぜ! ルカちゃんお手柄~~♪」
「何を言ってるんだ、お前もだろ」
「皆さん、無事で良かった……! 見たところ大きな怪我もなさそうで、安心しました!」
やはりリーべがいるおかげなのか、全員ほぼ外傷はなかった。
「…………、迷惑を掛けた」
「え? いえいえ、初心者には良くあることですから!」
「~~?!?!」
セネルは僕と組んだ時点ですでに何件かは依頼をこなしたこともあり、初心者ではない。
だが基本を守らず、リーべの回復魔法に頼り切りでがむしゃらに突っ走っていただけだった。
「ぶははーっ、初心者だって~~!」
「うるさいぞ!」
「あれ……、違ったんでしょうか?」
「いや、気にしなくていい」
さすがにセネルはギルドの職員に逆らうことも出来ず、その様子は何だか僕までおかしくなった。
久しぶりに笑った気がする。
「あ、そういえばヘレウルフって需要あるかなーー?」
「え!?」
「あぁ、ついでに持ってきたんだが」
「つ、ついでって……。さすがに二人で狩るには難しい相手では……。ちなみに何体ですか?」
ヴァルハイトが倒した個体は損傷が激しく、他の魔物を寄せ付けないためにも、ヴァルハイトが火の魔法でその場で燃やした。
僕が仕留めた、六体だけを持って帰ってきた。
「倒したのは十体だったか? そのうち六体だけ持ち帰った」
「ええええええ!? ふ、二人だけで十体……」
卒倒しそうな勢いで驚かれた。
「ほとんどルカちゃんが倒したんだぜーー」
「お前だって四体仕留めただろ」
「お二人とも、ランクはいくつですか……?」
「Eだな」
「Eだったけ~~」
「な、なんで……!?」
まぁ旅銀を稼ぐためだけに依頼を受けていたので、そこまで難しい依頼も受けていない。
ランクは一番下のEのままだ。
ダンジョンは今回初めて訪れた。
「ヘレウルフはCランク相当の魔物です! Eランクなら二人掛かりで一体相手出来る強さですよ!」
「へぇ、そうなのか」
「もっと驚いてくださーーーーい!!」
驚くと言っても自分のことなので、基準が良く分からない。
「先日のグリュンバードといい、さすがに今回は救援要請にもきっちり応じていただいたので、ランクアップです! 決定事項です!」
「おー、やったねルカちゃん♪」
受付の人が独断で決めていいのだろうか。
そんな疑問も虚しく、僕らのギルドカードにはDという文字が追加された。
恐る恐る洞窟よりこちらの様子を伺っているセネルは、僕らに問いかけた。
「あぁ、ルカちゃんが、ぜーーーんぶやっつけてくれました! 誰かさんとは大違いだなぁ!」
さすがに全部ではないのだが。
「う、うるせぇ! 俺らだってちゃんと準備していれば──」
「は? いま、命があるからそんなこと言えるんだろうが。事前の準備や魔物の情報は、冒険者の基本。それを怠った時点でお前に冒険者の資格はない。とっとと廃業するんだな」
やはりセネルに対しては突き放す物言いをする。
よほど気に入らない様子だ。
「──っ! 大体、魔術師のお前が抜けるからバランスが悪くなったんだろうが!」
「はぁ……」
追放したのはどこの誰なんだ。
「ルカちゃん……、こいつ、ヤっていい?」
ヴァルハイトの我慢は限界のようであった。
額には青筋が浮かんでいる。
当事者の僕より怒っているのは何でだ。
「やめておけ。ヴァルハイトの手を汚すまでもない。……このまま旅を続けていればいずれ勝手に果てるさ」
「な、何だと……!」
「る、ルカさん! ヴァルハイトさん! この度は……、ありがとうございます」
セネルを制し、奥から出てきたイレーズが、今までで一番大きな声でお礼を言ってくれた。
「セネル……、私たちは、助けられたんだよ? どうしてお礼言えないの?」
少女ならではの無垢な疑問だった。
だがそれは、セネルよりよほど大人びて見えた。
「……!」
「セネル、今回は紛れもなく助けられたわ。彼女の言う通りよ。……ルカ、ありがとう」
少し照れくさそうに、リーべが言った。
あの彼女すら素直になるくらいだ。
相当ここで心細い思いをしていたのだろう。
「いや~~、どこのパーティーもご婦人方はしっかりしてるなぁ!」
「?」
「いやいや、こっちの話♪」
元のパーティーの話だろうか。
「セネルさん、これだけは言わせてもらう。自分の思い描いた現実と違う時。己の力量不足を感じた時。まずは、素直にそれを認めること。受け入れること。────それが、強さってもんだぜ?」
いつかギルドで感じたような殺気を放ち、冷ややかな笑みを浮かべヴァルハイトは言った。
「~~~~!! ちっ」
セネルは歯痒い面持ちで、地面へと視線を落とした。
そして、真っ直ぐに僕を見据える。
「…………、ルカ。助かった。礼を言う」
言うと同時にすぐ顔を背けた。
あのセネルがここまで言うとは、成長だ。
それを引き出したヴァルハイトも、相当だ。
僕はといえば……。セネルはどうせこうだから、と諦めていたが。
諦めず、根気よく対話していればもっと早くにセネルは素直になれたのだろうか。
こういうところは、ヴァルハイトを見習わなければならないと思った。
「いや、無事で良かった。よく耐えてくれたな」
「ふんっ」
「さ、早いところ危険な場所とはオサラバして、帰ろうぜ~~」
「そうだな、早く帰ろう」
念のためヘレウルフの死骸を収納魔法へと入れ、その場を後にした。
◇
「────! ルカさん、セネルさん!」
ギルドへと全員で帰還した。
受付へと向かえば、こちらから声を掛けるより先に応えてくれる。
「全員無事だったぜ! ルカちゃんお手柄~~♪」
「何を言ってるんだ、お前もだろ」
「皆さん、無事で良かった……! 見たところ大きな怪我もなさそうで、安心しました!」
やはりリーべがいるおかげなのか、全員ほぼ外傷はなかった。
「…………、迷惑を掛けた」
「え? いえいえ、初心者には良くあることですから!」
「~~?!?!」
セネルは僕と組んだ時点ですでに何件かは依頼をこなしたこともあり、初心者ではない。
だが基本を守らず、リーべの回復魔法に頼り切りでがむしゃらに突っ走っていただけだった。
「ぶははーっ、初心者だって~~!」
「うるさいぞ!」
「あれ……、違ったんでしょうか?」
「いや、気にしなくていい」
さすがにセネルはギルドの職員に逆らうことも出来ず、その様子は何だか僕までおかしくなった。
久しぶりに笑った気がする。
「あ、そういえばヘレウルフって需要あるかなーー?」
「え!?」
「あぁ、ついでに持ってきたんだが」
「つ、ついでって……。さすがに二人で狩るには難しい相手では……。ちなみに何体ですか?」
ヴァルハイトが倒した個体は損傷が激しく、他の魔物を寄せ付けないためにも、ヴァルハイトが火の魔法でその場で燃やした。
僕が仕留めた、六体だけを持って帰ってきた。
「倒したのは十体だったか? そのうち六体だけ持ち帰った」
「ええええええ!? ふ、二人だけで十体……」
卒倒しそうな勢いで驚かれた。
「ほとんどルカちゃんが倒したんだぜーー」
「お前だって四体仕留めただろ」
「お二人とも、ランクはいくつですか……?」
「Eだな」
「Eだったけ~~」
「な、なんで……!?」
まぁ旅銀を稼ぐためだけに依頼を受けていたので、そこまで難しい依頼も受けていない。
ランクは一番下のEのままだ。
ダンジョンは今回初めて訪れた。
「ヘレウルフはCランク相当の魔物です! Eランクなら二人掛かりで一体相手出来る強さですよ!」
「へぇ、そうなのか」
「もっと驚いてくださーーーーい!!」
驚くと言っても自分のことなので、基準が良く分からない。
「先日のグリュンバードといい、さすがに今回は救援要請にもきっちり応じていただいたので、ランクアップです! 決定事項です!」
「おー、やったねルカちゃん♪」
受付の人が独断で決めていいのだろうか。
そんな疑問も虚しく、僕らのギルドカードにはDという文字が追加された。
0
お気に入りに追加
798
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?



またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる