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三十九 ガーグイル③

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「こちらですわ」

 徐々につよくなる魔力の源。
 それを辿って川の源流の方へ向かっている。

 大きな山、というよりは小高い小規模な山がいくつか連なり、その支流が合わさって川を形成していた。
 そのうちの一つ。

 いくつもの生命が溢れるなかに、ひときわ目立つ魔力。
 おそらく、それが目的の魔物だ。

「リュミ、疲れていないかい?」
「え? むしろ、力が湧いてきますわ!」
「そ、そうか」

 思いのほか全力で魔法を使えないのがストレスだったらしく。
 私のテンションはハイになっていた。
 魔法ハイってやつ?

「ーー!」

 まばらだった木々の影が徐々に濃くなり。
 その存在を隠していたかのように、突然目の前に大きな池のような場所が現れた。
 おそらく、源流の一つだろう。
 土の間からは、絶えず水が供給されている。

(……いる)

 確実に、この水面の下。
 人間とは違う生息地。そこの主がいる。
 好戦的な魔物であれば、特に私の魔力はご馳走だ。

 こちらから仕掛ける必要もなく、その姿を現すだろう。

(来るなら、こい)

 一応、二人に怒られるといけないので一歩下がった状態で待つ。

「ふむ……、中々に大きいな」
「ユールティアス様、一番手は私に」
「任せた」
「リュミネーヴァ様は援護をお願いいたします」
「ええ」

 火、水が半減……か。
 さて、どの手でいこうか。

「ーー! お出ましだ!」

 ユールがそう叫ぶとほぼ同時。
 ゆっくりと伝う水の波紋が、徐々に沸騰したお湯のように沸き立つ。
 それは次第に大きな音をたて、水面を割った。

「! 大きいわね」

 雷のように体内で唸る鳴き声が、荒々しい竜。
 大きさは馬車を軽く上回るほど。
 首元はまるで蛇のように長く細く、体はトカゲのよう。
 背中には翼が生え、その身には例の鱗。
 ……これが、ガーグイル。
 たしかに、ドラゴンって感じだ。

 水面すれすれに尾をたゆませ、翼をはためかせながらこちらを伺っている。

「っきます!」

 その雄々しい雄叫びと共に、口元より炎の息吹が放たれる。

水の羽衣アクア・ヴェール!』

 三人の前に、水のカーテンを張るイメージでそれを無力化する。

「っし!」

 ブレスの切れ目、二波の前にアストンが斬り込んだ。

「かた、い!」

 だが、その鱗の強度だろう。
 いとも簡単に刃を弾き返す。

「--なら」

(……あれは!)

 続くユールの剣には、魔力が宿っている。
 その魔力には覚えはあるが、自分には使えないもの。

「! 通るぞ!」

 魔力を奪う、その力を付与した剣は、相当の防御力を誇る鱗をも貫通し、身を削ぐ。

(なら、飛ばれる前に……!)

 思いがけない一撃に怯んだガーグイルは、軽く羽ばたいて助走をつける。
 その勢いのまま、こちらに飛んできた。

「リュミ!」
「!」

 ユールを狙ったはずのガーグイルの突進は、彼が避けたことにより後衛の私のところまでやってくる。

(チャンス!)

『湧き出でる水よ、激流となりすべてを飲み込め!』

「水魔法……!?」

 利用できるものは利用する。
 そばにある水源から、全体を飲み込むほどの水量でガーグイルを覆う。

「リュミネーヴァ様、水魔法はーー」
「大丈夫よ」

(まずはその翼、もらったわ!)

 予想外の水魔法に反応をしながらも、有効打にはなっていない。
 ガーグイルは今度は身をよじらせ、その長いトカゲのような尾で二人を薙ぎ払う。

氷結せよフリーズ!』

「! ……なるほど、やるな」

 水属性の眷属、氷の魔法。

 鱗で覆われた部分。
 そこへの水は大方弾かれたであろう。
 だが翼。
 まるで船の帆のようなその部分には、鱗はない。

『!』

 声なき声をあげ地に伏したガーグイル。
 まるで信じられないといった様子。

「ーーユール様! 今です!」
「ああ!」

 さきほどの要領。
 剣先に闇の魔力を集中させ、その鱗の防御力を無視して。

 首元を一刀両断した。

「やった!」
「……お怪我は?」
わたくしは平気よ、ユール様は?」
「ああ、……私も平気だ」

(あれ、ちょっとだけ元気ないな)

 あ、闇の魔力を使ったから。
 今魔族特有の魔力がほしいモード?

「ユール様、魔力。どうぞ?」

 顔の汗をぬぐいながらガーグイルを見つめるユールに声を掛ける。

「~!」
「あ、えーーと、リュミネーヴァ様……」
「え?」
  
 なに?
 なんでユール、恥ずかしがってるの?
 いつも供給してるのに。

「その、ユールティアス様は押しに弱いと言いますか……」
「ーーっアストン!」
「し、失礼しました」
「?」

 なんだっていうんだ、一体。

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