上 下
34 / 60

三十三 不穏②

しおりを挟む
(だいたい、魔族の魔力を感じれるほど、貴方たち敏感じゃないでしょ!)

 屋敷へと向かう足が、自然に地面を力強くふみつける。
 さきほどの件を思い出すとまた腹が立ってきた。

 元の世界。
 魔力なんて持っていない自分では言葉に表せないような。
 魔族を前にすると、特に魔力を多くもつ者にとっては恐怖、畏怖、悪寒。
 そういった、魔力としての違和感を感じることがある。

 それが唯一、魔族を見分ける指標。
 見た目にはなにも違いはなく、元の世界でいうところの『人間』といわず『日本人』という感覚に近い。
 生まれた国のちがい。
 
 だが人というのは、恐れを抱くものに関して時に敏感だ。

(アイゼン公爵家は、外敵とみなしているのかしらね)

 原作と違う、魔皇国との争いがないこの世界。
 争いがあった世界線では、魔族へ憎悪をぶつける意味で、アイゼン公爵家はライエンに忠実だったのかもしれないが……。

(ここでも原作クラッシャーの影響、か)

 確定ではないが。
 その可能性を考慮して動いた方がいいだろう。

(そして……、二人。いや、三人。か)

 魔力の流れ。
 すぐれた魔法使いは、それを掴むのが上手い。
 特に風の属性を操るものが得意だ。

 屋敷へ向かう方へと流れるそれは、王国軍本部をでて数人分。
 目的地が違うのであれば、この距離まで歩いても全員がおなじ方向を流れるのは不自然。
 
(はぁ)

 メーアスが言っていたのは、このこと。
 ライエンや魔族へと手を貸すというのは、第二王子派。
 もしくはそれ以外の反ライエンの勢力に狙われるというもの。

 ……でも、彼らは王国軍本部からお出ましだ。

(第二王子派、ねぇ)

 レイセル王子って、そんな好戦的なの?
 四歳下なら、十二歳よね?
 それか、王妃様の刺客か。

「めんどう……」

 ここで手を出すのは得策ではない。
 明確に、『あなたたちは敵です!』というには、証拠がない。
 その辺で雇われた者ならまだしも、だれの差し金かなんて彼らは吐かないだろう。

 撒くか。

 顔は割れているのだし、屋敷への道筋もバレている。
 まだ先回りされていない今しかない。

「せーーの」

 自分の合図で駆け出し、ひとまず一瞬でも見失わせるための路地を探す。
 ふつう、こんな綺麗なドレスを着たお嬢様が走ってたらビビる。

 でも、少なくてもこの王都での私は、魔将ローゼン一族の者。
 聞こえてくるのは「今日も頑張ってください」の声だ。

(! あそこにしよう)

 左前方。家と家の間に、薄暗い路地があった。
 さっと入れば、両隣の家はちょうど良く一階建て。

『風よ、この身を運ぶ羽となれ』

 魔法とはイメージ。

 戦いにおいては激しい、荒れ狂う風が望ましいだろうが。
 今、この場において必要なのは、家の上まで自身を運んでもらうこと。

 唱えると、上昇気流のように上へとのぼる、風の階段ができた。

(身体能力はそれほど高い訳じゃないから、助かるわぁ)

 風が気を利かせて、一気に駆け昇るのではなくステップを一段一段用意してくれた。
 イメージの力とは、まさに。

 赤色の屋根の上にのぼり、風がやむ。

 追跡者が慌てて駆けてくるのを尻目に、同じ要領で屋根伝いに屋敷へ向かった。


(ユールならまだしも……。なんで私なのかしら)


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。

曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」 きっかけは幼い頃の出来事だった。 ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。 その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。 あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。 そしてローズという自分の名前。 よりにもよって悪役令嬢に転生していた。 攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。 婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。 するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?

17年もの間家族に虐められる悲劇のヒロインに転生しましたが、王子様が来るまで待てるわけがない

小倉みち
恋愛
 よくあるネット小説の1つ、『不遇な少女は第三王子に見初められて』という作品に転生してしまった子爵令嬢セシリア。    容姿に恵まれて喜ぶのもつかの間。  彼女は、「セシリア」の苦難を思い出す。  小説の主人公セシリアは、義理の母と姉に散々虐められる。  父親からも娘としてではなく、使用人と同等の扱いを受け続ける。  そうして生まれてから17年もの間苦しみ続けたセシリアは、ある日町でお忍びに来ていた第三王子と出会う。  傲慢で偉そうだが実は優しい彼に一目惚れされたセシリアは、彼によって真実の愛を知っていく――。  というストーリーなのだが。  セシリアにとって問題だったのは、その第三王子に見初められるためには17年も苦しめられなければならないということ。  そんなに長い間虐められるなんて、平凡な人生を送ってきた彼女には当然耐えられない。  確かに第三王子との結婚は魅力的だが、だからと言って17年苦しめ続けられるのはまっぴらごめん。  第三王子と目先の幸せを天秤にかけ、後者を取った彼女は、小説の主人公という役割を捨てて逃亡することにした。

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。 貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。 そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい? あんまり内容覚えてないけど… 悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった! さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドを堪能してくださいませ? ******************** 初投稿です。 転生侍女シリーズ第一弾。 短編全4話で、投稿予約済みです。

ヒロインを虐めなくても死亡エンドしかない悪役令嬢に転生してしまった!

青星 みづ
恋愛
【第Ⅰ章完結】『イケメン達と乙女ゲームの様な甘くてせつない恋模様を描く。少しシリアスな悪役令嬢の物語』 なんで今、前世を思い出したかな?!ルクレツィアは顔を真っ青に染めた。目の前には前世の押しである超絶イケメンのクレイが憎悪の表情でこちらを睨んでいた。 それもそのはず、ルクレツィアは固い扇子を振りかざして目の前のクレイの頬を引っぱたこうとしていたのだから。でもそれはクレイの手によって阻まれていた。 そしてその瞬間に前世を思い出した。 この世界は前世で遊んでいた乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢だという事を。 や、やばい……。 何故なら既にゲームは開始されている。 そのゲームでは悪役令嬢である私はどのルートでも必ず死を迎えてしまう末路だった! しかもそれはヒロインを虐めても虐めなくても全く関係ない死に方だし! どうしよう、どうしよう……。 どうやったら生き延びる事ができる?! 何とか生き延びる為に頑張ります!

第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

斯波
恋愛
辺境伯令嬢ウェスパルは王家主催のお茶会で見知らぬ令嬢達に嫌味を言われ、すっかり王都への苦手意識が出来上がってしまった。母に泣きついて予定よりも早く領地に帰ることになったが、五年後、学園入学のために再び王都を訪れなければならないと思うと憂鬱でたまらない。泣き叫ぶ兄を横目に地元へと戻ったウェスパルは新鮮な空気を吸い込むと同時に、自らの中に眠っていた前世の記憶を思い出した。 「やっば、私、悪役令嬢じゃん。しかもブラックサイドの方」 ウェスパル=シルヴェスターは三部作で構成される乙女ゲームの第二部 ブラックsideに登場する悪役令嬢だったのだ。第一部の悪役令嬢とは違い、ウェスパルのラストは断罪ではなく闇落ちである。彼女は辺境伯領に封印された邪神を復活させ、国を滅ぼそうとするのだ。 ヒロインが第一部の攻略者とくっついてくれればウェスパルは確実に闇落ちを免れる。だがプレイヤーの推しに左右されることのないヒロインが六人中誰を選ぶかはその時になってみないと分からない。もしかしたら誰も選ばないかもしれないが、そこまで待っていられるほど気が長くない。 ヒロインの行動に関わらず、絶対に闇落ちを回避する方法はないかと考え、一つの名案? が頭に浮かんだ。 「そうだ、邪神を仲間に引き入れよう」 闇落ちしたくない悪役令嬢が未来の邪神を仲間にしたら、学園入学前からいろいろ変わってしまった話。

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

処理中です...