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十八 ここから、

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 ユールティアスの大規模な魅了により、恐らくは水面下で進められていた通り。
 シンシアとライエンが婚約し、婚約を破棄された私がユールティアスと結ばれる。
 それで、決着がついたらしい。

 ……お父様がなんていうか知らないけど。

 パーティーは滞りなく続けられ、華やかな音楽が会場を盛り上げている。

「ユール様、今回の件は……元々ご存知だったのですか?」
「そうだね。元は、ライエン殿の要請でこちらに来たんだ」
「ライエン様の?」
「光の……ええと、シンシア嬢? が初めて城に来た際、魅了を使われたみたいだね」
「ええ!?」

 シンシアが光の魔法を発現したのは、魔法学校入学の数か月前。
 急きょ、特待生で入学が決まった際に、その挨拶のために城へ行ったのだろう。

 だが、その時点では転生者としての覚醒はまだなはず……。

「たぶん、無意識で発動したんだろう。君と違って魔法の修行をこなしてきた訳じゃない。未熟な内に持つ強大な力は、時として術者の思いもよらない事を起こす」
「無意識で……」
「その時点ではライエン殿の方が圧倒的に術者として上だったからね、跳ね返せたそうなんだけど。……ただでさえ世界の始まりとも言われる光の魔法だ。その内意識を奪われるのが分かっていたんだろうね」

 たしかにライエンとて、魔法のエリート。
 幼少期から、訓練していたはず。
 そんな彼なら、光の魔法のつよさを理解できるのもうなずける。

「だから、光の魔法と唯一拮抗する力を持つ、魔族を頼った……?」
「そう。魔族の監視下にあれば、まぁ下手なことはできないだろうしね。それで、最初は大変だったよ。同盟を組もうにも、エレデア王国内も一枚岩ではなかったし、こちらに利がある話でもないのに魔石の要求はしてくるし」
「そ、それは申し訳なく……」

 他国の、しかも微妙な情勢にある魔皇国と契りを結ぶのは、特に誇り高い一族であるウルムの生家……アイゼン公爵家は反対しただろう。

 また、仮に賛成だったとしても智将メルゼン公爵家は、公正な取引を持ちかけたことだろう。

「その中で、ね。……最善だったのが、伴侶のいない私と、この国で最も魔力の優れた一族の姫君。貴女との婚姻。これが互いに益のあることだったという訳」
 
 なるほど、ようやく合点がいった。
 つまり、ライエンとしては単純に魅了の力を恐れての提案だっただろうが。

 高位貴族や王家としては、魔皇国とつながりを持つことで、第二王子派の動きも封じることができ、魅了の力は王家の監視下におけばいい。

 仮にシンシアが不審な動きを見せれば、魔皇国が介入する。
 色々と都合がよいのだ。

「では、留学というのはライエン様の要請で?」
「そう。シンシア嬢が入学式の時に倒れたようだけど、目を覚ました時に『私の世界』と言ったそうなんだ」

 それは、なんとまぁ。
 正直すぎる。

「元々契約の件でこちらに来ていたんだけど、急遽。魔法学校での様子を見ておくことにしたんだ」
「それで、あのタイミングでしたか」

 原作でいくら裏ルートとはいえ、ラスボスがいきなり留学してくるなんてある訳ない。

 自分も原作を壊した自覚はあるが、シンシアにも要因はあったようだ。

「それで、あの日初めてリュミを見た訳なんだけどーー」

 そう遠くない回想なのに、どこか懐かしんだ目で見られる。

「魔性の女……か。うまく言ったものだね」
「え……?」

 もしかして、どこかで聞いてました?

「一目みたときから、……私をこんなに捕らえて離さないのだから」

 前回の反省を踏まえたのだろう。
 今回は、肌には触れず。代わりに髪を一房すくいあげ、口づけた。

(や、やめろおおお)

 心臓が!
 心臓が、もたない!

 やめてくれ!

「ふふ」

 楽しそうに笑う姿は、もはや悪魔にしか見えない。
 ラスボスだよ、あんたがラスボスにちがいないよ!

「あ、あああの! せっかくのお申し出、ありがたいんですけれど!」

 変な色気に負けてはいけない。
 平穏な日々! イエス婚約破棄!

わたくし、だれとも結婚する気はありませんの」
「みたいだね」
「!?」

 不敬と言われても仕方ない、大胆なことを言ったはず。
 なのに、何でそんなさらりと返すの!?

「まぁ、エルドナーレ殿やグスタフ殿を見ていれば分かるよ。あれだけ過保護にされていれば、男性に対して免疫がないのもわかる」

 あ、そういう。
 確かにそういう話にしておいた方が、話は通じやすいけど……。

「でも」

 今度は反対側の髪を、やさしく撫でる。
 あぁ、やめてくれ。

 本当は気付いているんだ。

 私は男性が苦手

 転生したての頃は、誰にでも怯えていた。
 でも、気付いた。

 愛情や敬意をもって、私に接してくる男性は怖くない、と。
 それは兄や父、屋敷の者たち。
 魔物を倒すような令嬢の私に、「良くやった」と言えるライエン。
 
 彼らのおかげで、私は克服しつつある。

 私が怖いのは、悪意を持ったあの時の眼。
 奴と同じ、あの眼は未だに怖いけれど。

 そんな奴ばかりじゃないと、周りが教えてくれたんだ。
 だからーー。


「今はお互いのこと、全く知らないけど。……ここから、始めてみるのも。いいんじゃない?」


 私から断る理由を奪うのは、ずるい。

 
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