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第二十六話 村の状況

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「モルド」
「ゼヤ、どうだ?」
「よくないな」
「よくない? ゴブリンの気配はしなそうだが」
「……」
「? 大丈夫か、ゼヤ。気分がわるいのか?」

 村に入った時から、念のため魔力感知を最大限に高めていた。
 魔力の流れは俺の周囲以外大きな反応はない……はず。

 ……?
 そういえば、精霊の姿がまったく見当たらないな。

『ミエーーーー!!』
「! ルリ、どうした?」

 ゼヤの様子がおかしいと思えば、今度はルリがすっ飛んできた。

『モルドー! 川の向こうの魔力残滓がひどいでし~!』
「魔力残滓ざんし……?」

 ゼヤや大精霊たちに教えてもらった、世界の魔力バランス。
 そのよどみであり、精霊たちの悩みの種である……なんだろう。パワースポットの悪い版とでも言えばいいのか。
 精霊への信仰心の不足だったり、満ちる魔力が過大で、土地の許容量を超えている場合だったり。
 いろんな事例があれど、それは魔物の活性化や天候にも影響を及ぼすという。

『ぷぅ~~。モルドの側は落ち着くでしぃ』
「……!」

 ふつうは内なる魔力に近付かないはずの魔物。
 それが活性化するというのは……。まさか、膨大な満ちる魔力を、内なる魔力で中和しようとする……?
 魔力過多による、中毒症状とでも言おうか。

「精霊ならまだしも、魔物でそれは危険だな」
「? なにかあったのですか?」
「あ、いや。俺の従魔が──」
「!?」

 きちんと挨拶できていなかったルリを紹介しようとすると、……硬直した。
 どっかで見たな。

「あ、あっ……」
「えーっと。俺の従魔で、水うさぎのルリ。風うさぎの特徴もあって、浮けるんだ。こっちはゼヤ」

 急にしどろもどろになるウォレス。ちょっと面白い。

『ぷぅ?』
「か、かわ……」
「ルリ、こちらはウォレスだ」
『よろしくでし~!』

 挨拶代わりに周囲を旋回すると、ウォレスはぐっと何かを我慢した。
 いや、分かるよ。
 俺も毎回授業中は耐えに耐えているからな。
 かわいいものを見た時の刹那的な、爆発にも似たなにか。
 分かるよ。

「そ、……それ、で?」

 プルプルと沸き上がる何かを我慢しながら、ウォレスはあくまで平静を装う。
 もはや同志だな。

「あぁ。ルリによると、川の向こうの魔力残滓がひどいらしい。
 ここで気付いたこととか、なにか……心当たりはあるか?」

 この領に精霊魔法をも扱える魔法師が少ないとはいえ、精霊への信仰心があればルリが警戒するほど肥大することはないだろう。
 でなきゃ、今頃この王国は問題だらけだ。
 何らかの原因があるとしか思えない。

「魔力残滓……? 僕は無属性しか使えませんので、魔法のことは分かりませんが。ここのギルドでも、それほどヒドイという話は──……いや? 待てよ」
「なにかあるか?」
「僕は各地を渡り歩いていますから、噂程度ですが。ここの領主がエルフの里に行っているのは、エルフたちが設置した精霊碑せいれいひを領の者が壊してしまったからだ……と」
「! ライネリオ殿は、エルフの里にいるのか」

 なるほど、通りで屋敷にいないわけだ。
 だが、それならそうとヴィクターも教えてくれていいはず。
 レイクだって、フローリアだって、屋敷の者だって、……何も言わない。
 まだなにかあるのか?

「それ以上の情報は分かりませんが、関係があるかもしれませんね」
「精霊碑……。おそらく、侵蝕で消失した精霊を奉るものだったか」

 ウィンドローズ領はエルフたちの住む深緑の森に接する場所。
 彼らがウィンドローズ領内に精霊碑を設置するとは考えにくいから、そもそも領の者が立ち入り禁止の場所にでも近付いたか?
 ライネリオ殿はその問題に対処しているんだろう。

「……来るぞ」
「ゼヤ?」
『モ、モルド! 気を付けるでし~~!』
「ルリまで──」

 突然、ピリッとした感覚が肌に刺さった。
 なんだ……?

「っ、殺気……?」

 ウォレスも臨戦態勢をとるが、汗が伝っている。
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