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第二十話 領都散策①

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『るーんでしー♪』
「ごきげんだな」
「……」

 以前門の前で職質された守衛──ケヴィンにもルリを紹介した。
 案の定、「ぐっ」と堪えた様子でルリの可愛さにノックアウトだった模様。
 ケヴィンにも撫でてもらってルリは上機嫌だ。

『ムムッ! なんか……におうでし!!』

 鼻をヒクヒクさせる姿もまた愛らしい。
 におうという方角に自然と鼻が向くルリ。

「ん? ……あぁ、屋台か」

 商業ギルドは冒険者ギルドと同じ広場に面した場所にあると聞いた。
 ちゃんと覚えていなかったが、前に馬車の中で説明されたのかもしれない。
 目当ての場所に行く前に、俺たちは散策も兼ねいつもの通りではなく、食事処が多いエリアに来ていた。

 一際屋台で賑わう場所に近付くにつれ、ルリの鼻はひくひく……、いや。ピスピスしている。ちょっと漏れる鼻息すらかわいいとはどういうことだ。

「そういえば美味しいものが食べたいと言っていたよな」
『でしでし!!』
「ゼヤは?」
「……コーヒーでいい」
「えええぇ。なんか、休み時間がとれない社畜みたいなこと言うな……」

 相変わらず右手をポケットに入れたまま、ゼヤはクールに答えた。

「……?」

 フードコートのように、小さな広場を屋台が囲み、イスとテーブルが幾つも置かれる場所に差し掛かる。

 屋台が集まる場所には、もちろん人も集まる。
 ふと周りを見ると、ルリとゼヤに注目が集まっていることに気付く。
 それはそうか。こんな愛らしい水うさぎと、長身イケメンがいたら俺だって注目するだろう。

「よっ、兄ちゃん」
「どうも」

 においに釣られルリが近寄った屋台の店員に声を掛けられる。

「食べるかい?」
「これはなんなんだ?」

 どう見てもソーセージなそれ。
 大きめで湾曲したフランクフルトって感じだ。

「アネモ豚のソーセージだ。1本150オルだぞ」

 フィオルア王国で最も有名な豚、アネモ豚。
 魔物であり、家畜としても有名。
 とにかく足が速い。風の如く走る。……のだが、恐ろしく体力がない。
 簡単にいうと、好戦的ではないが身体能力はイノシシのような豚だ。

 ほどよい筋肉と脂身が特徴で、食べたあとにどこかハーブの香りがする。

『おいしそうでし~♪』
「え、食べるのか?」
「? なんだ、兄ちゃんとこの辺境うさぎは草食なのか?」
「い、いや……その」

 そういえばギルドで何を食べるか調べてなかったな。

「辺境うさぎは雑食だと思っていたが」

 まさか何でも食べるとは。

『ルリ、これ食べるでし!』
「わかった、ゼヤは?」
「……そいつのを半分もらう」
『ミエーーーー!?』
「遠慮しなくていいのに……。すまない、では2本もらおう」
「あいよー!」

 目の前に置かれていた皿から2本取り、鉄板の上で焼き始めた。
 下は魔道具だろうか? それともふつうに薪で火を起こしているのだろうか。
 屋台の裏事情は見えないが、火力は申し分ないようでルリが惹かれたにおいが充満し始めた。

「朝食は食べたのにな、もうお腹が空いてきた」
「ハハハ! 健康でなによりだ」
『うっうっ、ゼヤさまひどいでし~。ルリも丸々1本食べたいでし……』
「……」
「足りなかったら俺のをやるよ」

 俺の肩でぐったりと落ち込むルリの頭を撫でる。

「──ほいっ! できあがり」
「いい匂いだ」

 パリッと弾けた皮から肉汁が溢れ、鉄板で熱せられるとそのにおいは最高潮を迎えた。
 きっと噛みごたえもイイに違いない。

『わーーいでしーー』
「300オルだな」
「まいどー!」

 空いているイスとテーブルを発見し座ると、ゼヤはある一点を集中して見ていた。

「どうした?」
「……いや」
「?」

 ルリとゼヤのために貸出用のフォークとナイフで切り分けると、案の定パリッとした弾力。イイ音がした。

『!!』

 わくわくした目でルリが自分の取り分を待つ。

「熱いから気を付けろよ」
『はいでし~♪』

 ……ん?
 なんか、この状況……傍から見ると父親っぽいな?

「……モルド」
「どうした」
「その、……」

 ゼヤの分も取り皿に分け、あとは食べるだけなのであるが。
 一向に食べようとしない。

「どうした、遠慮せず言ってくれ」
「……オルを」
「お金?」
「コーヒーが、飲みたくてな」
「……あぁ!」

 そう言われると精霊がお金を持ち歩いているわけないか。
 ルリのように素直な性格でもないし、言い辛かったんだな。

 やっとの思いでゼヤは自分の希望を口にしたに違いない。
 どこか恥ずかしそうな、照れているような気がした。

「飲むのはいいが、飲みすぎるなよ」

 つい前世の知識から、精霊にはおせっかいと知りつつも言ってしまう。

「気を付けよう」

 多めに500オルを持たせると、さきほど熱視線を送っていた屋台へと向かって行った。
 女性店員が軽い悲鳴をあげた気がする。

『いただきまーすでし!』
「どうぞ」

 ルリはイスに立ち、テーブル上のソーセージを前足で掴んでモグモグと食べている。
 か、かわいい……。

『ンマーーーーでしっ!!』
「よかったな」

 一心不乱に食べ続けるルリの口の中はパンパンで、子供のようだ。

「ゆっくり食べるんだぞ?」
『んみ~~』

 しかしうさぎの口元はそんなに大きくないので、勢いよく肉を食べていても草のようには減らない。喉に詰まらないといいが。

「……」
「お帰り」

 戻ってきたゼヤの手元には、何故か麻袋。

「それは?」
「……持たされた」
「ええ?」

 椅子に腰かけたゼヤから受け取ると、中には果物や野菜が入っていた。
 ゼヤが買いに行った屋台を振り返って見てみると、お姉さんとその母親らしき二人が手を振ってきた。

「……イケメン、恐るべし」
「?」
「いや。お礼は言ったか?」
「あぁ」
「ならいいか」

 ちゃんとお礼は言えるんだな、いい子……いやいや、ゼヤは大人か?

「たまにはこういうのもいいな」

 冒険者でも、せんせーでもない時間。
 ふつうの市民生活って感じだ。

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