上 下
16 / 35

第十六話 ゼヤの考え【別視点】

しおりを挟む

「……」

 木にもたれかかりながら腕を組む男が目を開けると、目の前には三人の人間がいた。
 二人はまだ幼く、一人の大人から教えを受けている。

「レイク様、フローリア様、次は──」

 その様子を男──ゼヤは注意深く見守り、辺りに異常がないか警戒している。

『なにしてるでしか?』
「……」

 魔力の均衡を司る大精霊。その遣いである聖獣のルリは、ゼヤが何をしているのか気になる様子だった。ふよふよと宙に浮き近付くと、ゼヤの側で漂う。

「見ている」
『それは見ればわかりますでし』
「……」
『……』

 互いに人から見れば特異な存在なのだが、今この場においては関係がない。
 あるのはただ、己の状況を説明することが恐ろしく下手な上司と、それを指摘したくてもできない部下という関係性だけだ。

「……」
『あの~……でし』
「ウィンディアが何もなくここへあいつを呼ぶと思うか?」
『! なんてこったでし』

 ゼヤは疑っていた。同じ存在である風の大精霊が、ただ凄腕の魔導師というだけで、わざわざここへ彼を呼ぶのか……と。
 もちろん六大精霊は魔導師モルドのことを気に入っている。
 それは各々ちがう理由があってのことであるが、その中でも風の性質というものは気まぐれで楽観的。
 気に入っている者を危険な場所へ誘うことに対し、悪びれることもないのだ。

『そーいえば、モルドが言ってたでし。
 ウィンディアさまや風の精霊がまものがふえて困っていたそうでし』
「魔物か……」

 水うさぎの姿をとる聖獣からの情報に、ゼヤは顎に左手を当てて考える。
 ルリは添えられていない、反対側の手に興味を示した。

『ゼヤさま、ゼヤさま』
「何だ」
『その、……しんしょく? というのは、なにでし?』

 青い瞳をうるうるとさせ、問うてみるとゼヤはその疑問にあっけらかんと答えた。

「侵蝕は侵蝕だ。闇の魔力とは最も均衡がとりづらい属性だ」
『き、キンコウ……でしか?』
「モルドに聞くといい」

 ゼヤの説明は整然としていて、分かる者には一瞬で分かる答えなのであるが。
 生まれたばかりで大精霊の元で修行を経ていない聖獣にとっては、難しい答えであった。
 それは水の大精霊であるセイレンが、人と共に成長して欲しいと考えた結果からなのだが、ゼヤにはそこまで考えが至らなかった。

『ミェ~~~』

 困るルリをよそにゼヤは己の任務に集中する。

「ニーズヘッグ……」

 満ちる魔力と内なる魔力は根本的に違うものではあるが、精霊という存在がそれを中和し、世界で循環させている。
 しかし、闇魔法という高度な魔法は、使い手も限られ、また人にとっては恐怖の対象である。
 つまり、人々は闇の属性を発動することは少なく、満ちる魔力が中和されることなく世界に多く満ちることとなる。
 その差異を、精霊が影を喰うことで均衡を保つのであるが……。

「……」

 ゼヤは侵蝕の止まった右手を見つめる。
 次いで、その要因となったモルドを見つめる。

 守らねば。

 きっと、精霊だけではなく、世界にとって大切な存在であることに間違いはないのだから。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...