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第十六話 ゼヤの考え【別視点】
しおりを挟む「……」
木にもたれかかりながら腕を組む男が目を開けると、目の前には三人の人間がいた。
二人はまだ幼く、一人の大人から教えを受けている。
「レイク様、フローリア様、次は──」
その様子を男──ゼヤは注意深く見守り、辺りに異常がないか警戒している。
『なにしてるでしか?』
「……」
魔力の均衡を司る大精霊。その遣いである聖獣のルリは、ゼヤが何をしているのか気になる様子だった。ふよふよと宙に浮き近付くと、ゼヤの側で漂う。
「見ている」
『それは見ればわかりますでし』
「……」
『……』
互いに人から見れば特異な存在なのだが、今この場においては関係がない。
あるのはただ、己の状況を説明することが恐ろしく下手な上司と、それを指摘したくてもできない部下という関係性だけだ。
「……」
『あの~……でし』
「ウィンディアが何もなくここへあいつを呼ぶと思うか?」
『! なんてこったでし』
ゼヤは疑っていた。同じ存在である風の大精霊が、ただ凄腕の魔導師というだけで、わざわざここへ彼を呼ぶのか……と。
もちろん六大精霊は魔導師モルドのことを気に入っている。
それは各々ちがう理由があってのことであるが、その中でも風の性質というものは気まぐれで楽観的。
気に入っている者を危険な場所へ誘うことに対し、悪びれることもないのだ。
『そーいえば、モルドが言ってたでし。
ウィンディアさまや風の精霊がまものがふえて困っていたそうでし』
「魔物か……」
水うさぎの姿をとる聖獣からの情報に、ゼヤは顎に左手を当てて考える。
ルリは添えられていない、反対側の手に興味を示した。
『ゼヤさま、ゼヤさま』
「何だ」
『その、……しんしょく? というのは、なにでし?』
青い瞳をうるうるとさせ、問うてみるとゼヤはその疑問にあっけらかんと答えた。
「侵蝕は侵蝕だ。闇の魔力とは最も均衡がとりづらい属性だ」
『き、キンコウ……でしか?』
「モルドに聞くといい」
ゼヤの説明は整然としていて、分かる者には一瞬で分かる答えなのであるが。
生まれたばかりで大精霊の元で修行を経ていない聖獣にとっては、難しい答えであった。
それは水の大精霊であるセイレンが、人と共に成長して欲しいと考えた結果からなのだが、ゼヤにはそこまで考えが至らなかった。
『ミェ~~~』
困るルリをよそにゼヤは己の任務に集中する。
「ニーズヘッグ……」
満ちる魔力と内なる魔力は根本的に違うものではあるが、精霊という存在がそれを中和し、世界で循環させている。
しかし、闇魔法という高度な魔法は、使い手も限られ、また人にとっては恐怖の対象である。
つまり、人々は闇の属性を発動することは少なく、満ちる魔力が中和されることなく世界に多く満ちることとなる。
その差異を、精霊が影を喰うことで均衡を保つのであるが……。
「……」
ゼヤは侵蝕の止まった右手を見つめる。
次いで、その要因となったモルドを見つめる。
守らねば。
きっと、精霊だけではなく、世界にとって大切な存在であることに間違いはないのだから。
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