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第十一話 水うさぎの……
しおりを挟む『なにかあれば、いつでもおっしゃってください』
「あぁ、助かる」
そう言えば、微笑みながらシャウラと同じように消えていった。
ほんと神出鬼没だな。
「さて」
残された水うさぎを見る。
見下ろすとそれはやはりモフッとしていて。
やや丸い物体のように思えるが、おしりの毛がピョッと出ているのがまたかわいい。
もう一度言う。
か わ い い 。
「そうだ! 名前」
なんと呼ぼう。
目線を合わせるために屈む。
「俺の言葉は……分かってるんだよな?」
ふつう従魔契約をするには、その魔物よりも強い魔力の持ち主でなければ成立しない。
だが、大精霊の遣わす存在である聖獣が俺より魔力が低い訳ないよな……。
ということは、セイレンに託された友のような存在だと認識すればいいのだろう。
『ぷう!』
「うーん、俺の言葉は通じてるみたいだな。何を言っているかは分からない……」
従魔契約の最終段階は、『名付け』だ。
で、あれば名前を呼ぶことで分かるようになるか?
「水うさぎ……、水。うさぎ、もふもふ。銀、……うーん」
あ、そういえば眼は青色なんだよな。
宝石みたいに綺麗な色だし、……そうだな。
「ルリ……はどうだ?」
瑠璃色の海、というぐらいだ。
本物は見た事ないけど、きっと綺麗な青色をした宝石なんだろう。
『──! ~っ!』
「お」
何かを一生懸命伝えようとしている。
前足を上に挙げ、立ちながら俺に何かをアピールする。
『──リ、ルリ! ボク、ルリ! ワーイでしっ!』
「っ!?」
なんだ、この生き物は?
カワイイが……歩いているのか?
権化。かわいいの権化だ。
声が聞こえた衝撃よりも、かわいさによる衝撃の方が何倍も大きい。
俺は冷静さを取り戻すためにもルリの頭を撫でていた。
「よろしくな、ルリ」
『モルド! ボク、セイレンさまにきいたでし! キミはモルド!』
「ぐっ!」
ダメだ。冷静さを取り戻すどころか、かわいいに飲み込まれてしまう。
思考能力は奪われ、語彙力低下。
何か言うとボロがでそうだ。
もう無理。かわいい。愛でる。
「嫌だったら言うんだぞ」
『ンムッ』
口数も少ないまま一心に撫でる。
動物なんて、前世だと猫くらいしか撫でたことがない。
嫌がっていないか、気持ちよさそうか。俺はルリの様子を念入りに確認する。
『ぷぅ~~』
「気持ちいいのか?」
『でしッ!』
もふもふと、手から伝わる熱と、細められたルリの目。
なんだろう、何かが充たされる感覚。
精霊の代わりに、その力で人の世で活動するための肉体を得たのが聖獣という存在……だと聞くが、こうも温かいと神聖な存在だということを忘れてしまう。
この温かさもきっと、『守りたい』『共に居たい』と思える存在の一つなのかもしれないな。
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