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第九話 まるで映画のワンシーン

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「──レイクさま、さすがですわ!」
「ありがとう、リア」
「っ!? れ、レイクさま! そのよびかたは、ふっ、ふたりだけのときになさいませ……っ!」
「はは! ごめんよ、ついリアのえがおがかわいくて」
「~も、もうっ!」

 すぅーーーーーーーーーー。

 映画だ。
 この名前もつけるには烏滸おこがましいと思える、心の余韻。
 素敵な映画を観た時の、あの感動。

 それも、これは目の前で起こるノンフィクション。

 主演、レイク・フォン・デュナメリ。フローリア・フォン・エルローゼ。
 監督、俺。

「せんせー?」
「どうされましたの?」
「(ぐはっ)」

 甘い雰囲気の美少年と美少女が上目使いで問い掛ける。
 これはもはや、凶器だろう。

「──なんでもありませんよ」

 にやけそうになる口元を、掌で覆いひた隠す。
 大丈夫だよな、バレてないよな。

「それにしても、驚きました」
「エヘヘ」

 さきほどフローリアがレイクを褒めたのは、他でもない。
 粒ほどの水球だった魔法が、今では池から両掌に水を掬ったときほどの水量にまで成長している。

 恐らくレイクが水魔法に適性があることも要因だろうが、それにしたってだ。
 子供の成長ははやい! というけれど、魔法に関しては全員そうだとは限らないのだ。

「練習されていたのですか?」
「は、はいっ。その、おとなの、まほうがつかえるものといっしょにやりましたので!
 あぶないことはしていませんっ」
「まぁ、どりょくかですのねぇ」

 ふむ。
 既にここまでできているなら、少なくとも水魔法に関しては実践的な形式を取り入れてもいいかもしれない。
 しかし、攻撃魔法はさすがにまだ早いな。
 うーん。俺はむしろ戦闘用の魔法ばっかり磨いてきたからなぁ。
 他人になにかを教えるというのは、いくら自分が得意な分野であっても難しいな。

「──そうだ!」
「「?」」
「あ、失礼。」

 せっかく貴族の屋敷という環境にいるんだ。
 それを活かせばいいのではないだろうか?

「レイク様は仕える者にも心を砕かれるお優しい方。
 常々、お手伝いがしたいとおっしゃっていましたね」
「え? そ、そうですね……。ただ、ならいごとやべんきょうでなかなかじかんがとれずにいます……」
「でしたら、魔法の修行と思って──お手伝い、してみませんか?」
「「?」」


 ◆


「これはこれは、レイク様」

 俺たちはデュナメリ家の庭師である、バーナードの元にやってきた。
 ちょうど木を剪定せんてい中だったようで、木の台から降りてきた彼は帽子をとって挨拶をした。
 彼は家令のヴィクター同様、屋敷に長く勤めているベテランだ。

「バーナード! いつもにわをきれいにしてくれて、ありがとう」
「バーナードさん、ごきげんよう」

 レイクとフローリアが続けて挨拶をする。
 いい子……ッ!

「仕事中にすまない、バーナードさん。実は──」

 俺はレイクの水魔法の状況と、実戦練習をお手伝いとして活かせないかを模索していることを伝えた。

「なるほど……。レイク様は、もう魔法を使えるのですか。それはすごい」
「エヘヘ」

 照れがちなレイク、推せる。

「そうですな。でしたら、モルドさん。こういうのはいかがでしょう?」
「ほう?」
「レイク様、あちらの一角に何も植わっていない区画がございます」
「うん」
「ここの作業が終わったら、あそこに何を植えようか考えようとしていたのですが……そちらをフローリア様とお二人で、修行にお使いください。
 例えばお好きな花の種や苗を植えて、フローリア様は土壌へと魔力を送る。
 そしてレイク様は水魔法で水やりをする。……いかがでしょう?」
「なるほど、それはいい」

 フローリアは魔法を発動するに至ってはいないが、魔力操作の練習として土壌に魔力を送るのはいい訓練になるだろう。

「バーナード、ありがとう!」
「かんしゃいたしますわ」
「いえいえ」

 庭師の道具が置いてある場所や使い方、注意点を簡単に教えてもらったあと、バーナードは去って行った。

「またいつでも質問してください、とのことです」
「うん! やってみる!」

 花の苗を近々手配してくれるとのことなので、届き次第またやることになった。

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